
三賢者の物語
第23号:瑠璃色
各号のテーマカラーから想起される物事を、さまざまな分野で活躍する3名の著者が執筆するLula Japanのコラム連載「The Three Wise Tellers」。
第1回:平松麻
画家
「誘う瑠璃」
ある湖で男と女は出会った。
男は石に座り、女は橋に寝そべり、会話を始めた。
「僕は潜る。底に黄金色の巨大な卵が見えるんだ。触りたい」
「それって月のこと?」
どぷん。
男の姿がまだ見えるうちに、遅れまいと女も勇気を出した。
どぷん。
男はぐんぐん潜っていくので、追いかける女は息苦しくなったが、小さくなっていく男の背中に視点を釣り針のように引っ掛けて、もうひと息潜った。
すると水に受け入れられ、女の呼吸が戻ってきた。
気持ちよくなり水を全身で味わっていたところ、遠くの方で魚が男の瑠璃色の目を食べているのが見えた。
男の近くで黄金色がぬらりと揺れたが、それは巨大な卵なんかではなくて、地上から差し込んだ月あかりだった。
女は男を憐れんだ。
魚は女の横まで泳いで来て、口をぱくぱくさせながら男の目を咀嚼する様子を見せてきたが、女の目を食べはしなかった。
それから1000年が経ち、男と女は再会した。
此度は都会の小さな部屋で。
別人ではあったが、男の目はとても窪んでいて、女のエラには傷があったから、お互いが誰であるか分かるような気がした。
2人の視線は水を帯びていたが、午後の光で蒸発するので、何を見ていたいのか分からなかった。
突然男が「寂しい!」と声をあげて泣き出した。
涙の代わりに眼窩からいくつもの瑠璃がゴロゴロとあふれだし、女はギョッとした。
凄まじいスピードで部屋に瑠璃が堆積して、2人の体がのまれていくが、何より怖かったのは男が女のエラにある傷を開いて、ひとつぶの瑠璃を放り込んだことだ。
瑠璃が女の中に落ちていき、あばら骨に当たった時なんとも美しい高音が、リン、と鳴った。
もうこれでいいだろう、と2人は瑠璃で満杯になった部屋で息たえてしまった。また1000年が経ち、都会の部屋だったところは雑木林になっていたが、そこには無数の女がまどろんでいた。
そこかしこでリン、リン、リン、と鳴っている。
この美しい音が平均化しないためにも、女たちよ、しばし沈黙したらどうだ?
つきまとう何人もの記憶が私を誘う。
私はいまだキャンバスの上であの瑠璃色を表すことができないでいる。
瑠璃色の魅力
ある湖で男と女は出会った。
男は石に座り、女は橋に寝そべり、会話を始めた。
「僕は潜る。底に黄金色の巨大な卵が見えるんだ。触りたい」
「それって月のこと?」
どぷん。
男の姿がまだ見えるうちに、遅れまいと女も勇気を出した。
どぷん。
男はぐんぐん潜っていくので、追いかける女は息苦しくなったが、小さくなっていく男の背中に視点を釣り針のように引っ掛けて、もうひと息潜った。
すると水に受け入れられ、女の呼吸が戻ってきた。
気持ちよくなり水を全身で味わっていたところ、遠くの方で魚が男の瑠璃色の目を食べているのが見えた。
男の近くで黄金色がぬらりと揺れたが、それは巨大な卵なんかではなくて、地上から差し込んだ月あかりだった。
女は男を憐れんだ。
魚は女の横まで泳いで来て、口をぱくぱくさせながら男の目を咀嚼する様子を見せてきたが、女の目を食べはしなかった。
それから1000年が経ち、男と女は再会した。
此度は都会の小さな部屋で。
別人ではあったが、男の目はとても窪んでいて、女のエラには傷があったから、お互いが誰であるか分かるような気がした。
2人の視線は水を帯びていたが、午後の光で蒸発するので、何を見ていたいのか分からなかった。
突然男が「寂しい!」と声をあげて泣き出した。
涙の代わりに眼窩からいくつもの瑠璃がゴロゴロとあふれだし、女はギョッとした。
凄まじいスピードで部屋に瑠璃が堆積して、2人の体がのまれていくが、何より怖かったのは男が女のエラにある傷を開いて、ひとつぶの瑠璃を放り込んだことだ。
瑠璃が女の中に落ちていき、あばら骨に当たった時なんとも美しい高音が、リン、と鳴った。
もうこれでいいだろう、と2人は瑠
