ファッション・ヴィクティムを虜にしたもうひとつがウィットの効いたロゴ使いだった。なんと、2017年秋冬のコレクションには親会社のケリング、さらにはポリティカルなロゴまで登場したのだ。これをウィットといわずしてなんというのだろう!
日本には長らくスペック礼賛主義がはびこっていたけれど、ファッションは本来、重箱の隅をつつくものではない。
このことを思い出させてくれたのがコンゴのサプールと呼ばれる人々だった。仕立ての良いテーラードの、みるものを高揚させる明るい色に絞って袖を通す男たちからは装うことを楽しんでいる様子がひしひしと伝わってきた。そしてそれは政情不安な現実に対する美しい叛逆だった。武器を捨て、エレガントに生きる道を選んだのだ。
おなじようなモチベーションが〈バレンシアガ(BALENCIAGA)〉のアーティスティック・ディレクター、デムナ・ヴァザリアにもあったのかもしれない。
デムナは旧ソビエト連邦のグルジアで生まれ育った。彼は『ヴォーグ』のインタビューで内戦を経験した幼少時代を振り返り、こう答えている。歯磨き粉のブランド名を覚える必要はなかった。なぜならば歯磨き粉といえばひとつしかなかったからだ、と。
抑圧された日々から逃れるべく家族とともにドイツに渡ったデムナにとって、ファッションはひりついた喉を癒す魔法のような飲み物だった。心からの渇望はピュアでストレートなデザインワークに結実した。ロゴの遊びはそんなデムナの思いを端的に表しているのだろう。
Photo_Masaki Sato
Text_Kei Takegawa
Edit_Ryo Muramatsu
バレンシアガ ジャパン
電話:0570-000-601
www.balenciaga.com
Source: フィナム