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UK文化の中心地、Victory Lap Radioのインタビュー

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Rewrite

1980年代、ヒップホップはニューヨークのストリートから海を越え、ロンドンの若者たちの間にも静かに浸透していった。当時のイギリスは人種的分断や文化的アイデンティティをめぐる緊張を抱えながら、多様なバックグラウンドを持つコミュニティが交差する都市だった。そうした環境のなかでヒップホップは、自己表現の手段としてDIY精神を持つ若者たちに受け入れられていく。例えばUK発のHip Hopスターとして知られるラッパー/DJ Derek B(デレク・B)は、海賊ラジオ局からスタートし、ヒット曲『Goodgroove』をリリースするなど、UKヒップホップの礎を作り上げた。

1950年代から1970年代にかけて、当時イギリス領であったジャマイカをはじめとするカリブ海地域からの移民であるウィンドラッシュ世代によって持ち込まれたサウンドシステム文化、ダブやレゲエといったジャンルからの影響を大きく受けつつ、1990年代には、ブリストルやマンチェスターなど各都市で独自のスタイルが生まれ、ヒップホップはエレクトロニックやジャズと結びつきながら新たなサウンドを形成していった。また同時期には、Massive Attack(マッシヴ・アタック)やPortishead(ポーティスヘッド)らによるトリップホップの台頭、そしてNinja Tune(ニンジャチューン)をはじめとするレーベルの存在がシーンを後押しする。こうした流れのなかで、ルーツ・マヌーヴァ(Roots Manuva)ら新世代のアーティストが登場し、UKヒップホップはより独自の進化を遂げていくことになる。

2000年代に入ると、UKラップシーンでは高速ビートが特徴のグライムが台頭する。1990年代半ばのガラージや2ステップなどをベースに、ラップやレゲエなど多国籍なカルチャーを取り込みながら発展したこのジャンルは、イギリスのポピュラー音楽として確固たる地位を築いた。Dizzee Rascal(ディジー・ラスカル)が先駆者として登場し、Skepta(スケプタ)やストームジー(Stormzy)、AJ Tracey(AJ・トレーシー)はその象徴的存在となった。また近年では、UKドリルが世界的な広がりを見せ、日本のラップシーンにも影響を与えている。Central Cee(セントラル・シー)のようなグローバルスターの登場は、その勢いを象徴する出来事と言える。こうした流れを振り返ると、UKラップは今なお発展の途中にあり、さらなる拡張と進化を続けていることがわかる。

現代のUKシーンを映し出す次世代のプラットフォーム

アメリカから輸入されたカルチャーを独自に発展させ、いまや現代ヒップホップの重要な指標のひとつとなったイギリス。そのシーンでは、常に新たなラッパーが生まれ続けている。そうした才能が芽吹く場のひとつとして機能しているのが、Victory Lap Radio(ビクトリーラップラジオ)だ。南ロンドンはペッカムのラジオ局「Balamii」にて月に一度2時間のプログラムとしてスタートした本ラジオは、現在東ロンドンのダルストンに自らの拠点を持ち、規模の大小を問わず才能あふれるアーティストを招き、YouTube上で発信を行っている。これまでにセントラル・シーやDave(デイブ)、ピンクパンサレスといった世界的アーティストをはじめ、“Stone Island Sound”とのコラボレーションを通じて『Crack Magazine』の表紙を飾ったJawnino(ジョニーノ)、ロンドンの気鋭ラッパー Ashbeck(アシュベック)、ノーザンプトン出身のBXKS(ベックス)など、多くのアーティストが出演。まさに本ラジオは、UKシーンの現在地を映し出すプラットフォームとして存在感を放っている。

その潮流は日本のアーティストにも波及している。過去には日本人ラッパー JUMADIBAが、楽曲『Better Days』で共作したSamRecks(サムレックス)らとともに出演。Victory Lap Radioはロンドンだけに視線を留めることなく、常に新たな動きが生まれる海外のシーンにもアンテナを張り巡らせている。

本記事では、Victory Lap Radioを軸にUKヒップホップシーンの現在地を紐解く。主宰のジョゼフ・マクダーモット(Joseph McDermott)の言葉を手がかりに、カルト的支持を集める同ラジオが果たす役割に迫る。


僕たちの番組は作られたものではなく、限りなく“リアル”に近い空間なんです

UKで形成される新たなプラットフォーム

アンダーグラウンド UK ヒップホップの震源地 Victory Lap Radio を探る | Interviews | Interviews uk victorylapradio interviews

まず最初に、Victory Lap Radioとはどのようなプラットフォームなのか教えてください。

Joseph McDermott:Victory Lap Radioは、もともと自分の友人たちの音楽を紹介するために始めたラジオ番組でした。周りにはラップをしている人やビートを作っているプロデューサーなど、音楽を作っている仲間がたくさんいたので、そうしたアーティストたちを紹介できる場所を作りたいと思ったのがきっかけです。毎回異なるゲストを招きながら、月ごとにエピソードを更新していく形で、まずは身近なコミュニティの音楽を発信していこうと考えていました。最初は本当に友人たちをフィーチャーするための小さなラジオ番組だったんです。そこから徐々に広がっていき、今では友人だけでなく、より多くのアーティストが出演するようになりました。規模の大きいアーティストを迎える機会も増え、海外での展開も始まっています。

このラジオ番組を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

もともと僕は音楽が大好きだったんですが、自分自身が音楽を作るタイプではありませんでした。その代わり、音楽にまつわるクリエイティブな部分で関わってきたんです。例えば、アーティストのためのグラフィックデザインやイベントでの写真撮影、時にはクリエイティブディレクションなどを手がけながら、音楽シーンに関わってきました。DJも昔から趣味として続けていて、そうした形で音楽との距離を保っていたんです。そんな中で、アーティストの友人たちと一緒にニューヨークへ行く機会があり、現地でいくつか音楽系のラジオ番組に出演することになりました。The Lot Radioだったり友人の番組なんかでロンドンから持ってきた新しい音楽を流したりしたんです。その経験がとても楽しくて、ロンドンに戻った後も「こういうことを続けていきたい」と思うようになって。自分は音楽を作るわけではないけれど、音楽を本当に愛している。その中で、自分にできることは何かと考えたときに、アーティストをキュレーションしたり、彼らを紹介する“プラットフォーム”を作ることが、自分なりの関わり方なのではないかと思いました。

数あるヒップホップメディアやラジオ番組の中で、Victory Lap Radioならではの強みはどこにあると思いますか?

多くのアーティストが出演したいと思ってくれる理由の一つは、番組がとてもオーガニックで自然な雰囲気を持っているからだと思います。他のプラットフォームの多くは、大きな企業のサポートを受けていたり、ブランドが運営していたりと、ビジネス的な背景を持っていることが少なくありません。もちろんそれ自体は悪いことではありませんが、そこにはどうしても別の目的が存在する場合もあります。一方で、Victory Lap Radioは非常にシンプルです。実際にスタジオを見てもらえればわかると思いますが、基本的には僕たちと友人たち、そしてGoProとターンテーブルがあるだけ。そこで自分たちのやりたいことを自由にやっているんです。もともとは友人たちと「何か面白いことを作ろう」と始めたDIY的なプロジェクトでした。その姿勢が今でも変わっていないことが、多くのアーティストにとって魅力なのかもしれません。例えば、セントラル・シーやデイヴ、そしてPinkPantheress(ピンクパンサレス)のように、すでに大きな成功を収めているアーティストであっても、純粋に音楽にフォーカスした空間に戻りたいと感じる瞬間があると思うんです。そうした意味で、僕たちの番組はそれっぽく作られたものではなく、限りなくありのままで“リアル”に近い空間なんです。そのリアルさこそが、他のプラットフォームにはない魅力なのではないかと思っています。

Victory Lap Radioはどのようなチーム体制で運営されているのでしょうか?

基本的には僕が中心となって動いています。アーティストへの連絡やA&R、キュレーション、編集、グラフィック制作など、番組の多くの部分を自分で担当しています。ただ、もちろん1人ですべてを完結させることはできません。実際の収録では、DJやエンジニア、サウンドテック、プロデューサーなど、さまざまな形で多くの人が関わっていますし、アーティストも番組の重要な一部です。Victory Lap Radioは僕のキャリアであり情熱でもありますが、同時に周囲のコミュニティによって成り立っているプロジェクトでもあります。DJやエンジニア、プロデューサーなど、それぞれのスキルを持った仲間たちが関わることで、番組が今の形になっていると思います。

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ご自身のバックグラウンドについても教えてください。どのようにして現在のシーンに関わるようになったのでしょうか?

ロンドンでグラフィックデザインを学んだことが、すべての始まりでした。もともとスケートボードや写真、音楽、デザインといったカルチャーに強く影響を受けていて、特にスケートシーンやパンクロックのライブから得た価値観は、現在のVictory Lap Radioの在り方にも大きく影響していると思います。そうしたカルチャーに根ざしたDIY精神やコミュニティ意識が、僕たちの活動のモラルや哲学のベースになっています。当時はロンドンの街でライブに足を運んだり、写真を撮ったりしながら活動していて、現在一緒に仕事をしているラッパーの多くとも、その頃からクリエイティブを通じて関係を築いてきました。そのため、ラジオを始めたときには自然と周囲のアーティストを巻き込むことができたんです。これまで一貫して、グラフィックや写真などの分野に携わってきましたが、音楽への強い関心とそれらを掛け合わせることで、自分なりの形で表現できる場としてラジオにたどり着いたのだと思います。

スケートボードやパンクロックといったカルチャーからも影響を受けたとのことですが、実際にはどのような部分でしょうか?

スケートボードやパンクロック、ハードコアといったカルチャーから受けた影響は、Victory Lap Radioの在り方にも強く反映されています。特に大きいのは、DIY精神と“each one, teach one(一人一人が、一人に教える)”のような価値観ですね。次の世代に知識や機会を共有し、コミュニティとして支え合う姿勢は、スケートやハードコアシーンに共通する重要な要素だと思います。そうした価値観はラップやグライムのシーンにも通じていて、自分にとってはこれらのカルチャーが活動の軸になっています。

ヒップホップとの出会いについて教えてください。また、最初に影響を受けたアーティストは誰でしたか?

ヒップホップとの出会いはかなり早い段階でした。アメリカのラップミュージックを音楽チャンネルやMTVで観ていて、自然と生活の中に存在していたという感覚です。僕はバーミンガム近郊の出身なんですが、当時はグライムのシーンがとても活発で、YouTubeが普及し始めた頃には、地元のMCたちがロンドンで活動する様子を見ることができました。そこからロンドンのグライムシーンにも興味を持つようになり、スケプタやBoy Better Know(ボーイ・ベター・ノウ)の存在を知りました。ロンドンで育ったわけではありませんが、当時起きていたカルチャーは常に追いかけていましたし、スケートボードやハードコアミュージックと同じように、“既存の枠に収まらない表現”に強く惹かれていたんだと思います。最初に影響を受けたアーティストでいうと、グライムではD Double EやSkeptaが大きな存在でした。彼らが所属するクルーであるBoy Better Knowには他にもJMEやJammerといった個性的なキャラクターが集まっていて、そんな彼らが一つのムーブメントを作っている姿は、とても印象的でしたね。個人的には、どこか“レスラー”のような、強烈な個性を持ったアーティストに惹かれる傾向があって、D Double Eのような存在感のあるMCや、バーミンガムのDevilman(デビルマン)のようなキャラクター性の強いアーティストは、当時好きな類でしたね。

UKの音楽シーンやパイレーツラジオ文化は、Victory Lap Radioの立ち上げにどのような影響を与えましたか?

グライムをはじめ、ダブステップやジャングル、ガラージといったUK発の音楽を語るうえで、パイレーツラジオの存在は切り離せません。僕自身も、YouTubeで当時のラジオセットの映像や音源を観たり聴いたりする中で、そのカルチャーに触れてきました。パイレーツラジオの魅力は、限られた環境の中でも自分たちの力で発信を行うDIY精神にあると思います。それはスケートボードやパンクロック、ハードコアのシーンとも共通する価値観で、与えられた環境に頼るのではなく、自分たちの手でカルチャーを作り上げていく姿勢に強く影響を受けました。実際にVictory Lap Radioを始めた当初も、予算や設備が整っていたわけではありません。あったのは仲間とアイデアだけでした。それでも周囲の人たちと協力しながら形にしていくことで、結果的にカルチャーに影響を与える存在へと成長していったと思います。もちろん、当時のように屋上にアンテナを設置して違法に電波を飛ばすような環境ではありませんでしたが、そうした先人たちが築いてきた文化があったからこそ、今の自分たちの活動があると感じています。

スケプタやデイブ、ピンクパンサレスなど、著名なアーティストも出演しています。こうしたコラボレーションはどのように実現しているのでしょうか?日本でも大きな反響があり、驚きました。

セントラル・シーとデイヴはCorteizとのコラボ企画の時に来てくれました。ロンドンにあった『Bankrupt Store』というストアの存在がとても大きかったですね。そこではCorteizのポップアップが開催されたり、さまざまなクリエイターが集まったりしていて、当時のロンドンのカルチャーにおける重要なハブのような場所でした。今ロンドンでかなりの人気を誇るalways do what you should doというブランドも、最初に取り扱いを始めたのは『Bankrupt Store』でした。僕自身もそこで働いていたのですが、実はそこでCorteizの最初のポップアップが開催されて、その時に出会ったアーティストマネージャーがVictory Lap Radioのことを知ってくれたんです。後日Corteizのメンバーから2人も僕たちのやっていることを気に入ってくれていると連絡を受け、すぐにコラボレーションが実現しました。その気になればどんなプラットフォームにも出られる2人ですが、こうした自然な繋がりで出てくれることになったんです。

ピンクパンサレスは僕と共通の友人が多くて、ずっとVictory Lapに出たいと思っててくれていたみたいです。それで、新しいアルバムをリリースするタイミングがちょうどいいんじゃないかということで出演が決まりました。同じようにスケプタなんかも外からそういった動きを見てて、Corteizとの2回目のコラボレーションでJMEたちと一緒に出演が実現しました。側から見たら綿密な計画の下で、何か大きな力が働いて有名なアーティストが次々と出ているように見えるかもしれません。けど、こういったコラボレーションは実は友人伝いだたりカルチャーきっかけだったり、自然な繋がりで出てくれているっていう形なんですよね。

一方でVictory Lap Radioでは多くのUKアンダーグラウンドアーティストが出演し、サイファーなども行われています。出演するアーティストはどのように決めているのでしょうか?

基本的には僕がキュレーションしています。Corteizとコラボレーションする回では、彼らがアーティストを連れてきたり提案してくれることもありますが、通常のエピソードはほとんど僕が考えています。例えばピンクパンサレスが出演した回では、彼女が紹介したいアーティストと、僕が「彼女と相性が良い」と思うアーティストを組み合わせて一緒にキュレーションしました。エピソードごとに状況は違うのですが、規模感の大小に関わらず基本的には「同じ部屋にいたら面白い化学反応が起きそうな人たち」を集めるようにしています。すでにコラボしたことのあるアーティスト同士の場合もあれば、初対面の組み合わせもあります。時には20人ほどのアーティストが参加することもあるので簡単ではないですが、収録している空間が居心地の良い場所であることが大切なんです。アーティストたちが自然とマイクを手に取りたくなるような環境を作ること。それが僕のキュレーションの役割だと思っています。

使用されるビートはどのように選ばれているのでしょうか?

ビートの選定は、基本的に僕とDJの両方で行っています。僕自身がプロデューサーからビートパックを集めることも多くて、若くて野心のあるプロデューサーたちから届くトラックを番組で使うこともあります。Victory Lap Radioではラッパーだけでなく、プロデューサーにもスポットライトを当てたいと思っているんです。一方で、出演するDJたちもシーンに精通している人たちなので、自分のUSBに多くのビートを持っています。だから、僕が用意したものとDJが持ってきたものを組み合わせながら、その場の空気に合ったトラックを流していく形ですね。そうした流れの中で、思いがけない瞬間が生まれることもあります。例えばデイヴがジャジーなビートの上でラップしたシーンがありますが、あのトラックは友人のプロデューサーであるKare(カレ)とHenes(ヒーンズ)が作ったものだったんです。デイヴがラップしたことをきっかけに、彼らにも多くの仕事が舞い込むようになりました。Victory Lap Radioはラッパーだけでなく、新しいプロデューサーにとってもチャンスを広げる場所になればと思っています。

ヒップホップの映像コンテンツには、XXLのサイファーのように短いフォーマットのものも多くあります。一方でVictory Lap Radioは1時間以上の長尺で展開されていますが、このフォーマットにはどのような意図があるのでしょうか?

もともとはラジオ番組として2時間の枠を持っていたことがきっかけです。その時間を埋めるために、少なくとも1時間ほどはラップセッションを行う形にしていました。このスタイルは、昔のグライムのラジオセットから影響を受けています。ラジオ番組の中でビートを流し続け、アーティストが自由にラップしていく。そうした実験的な空間のなかでこそ、思いがけない瞬間が生まれるんです。XXLのサイファーはとても象徴的な存在ですが、1つのビートで数分間という構成ですよね。一方でUKのカルチャー、特にグライムの文化では、もっと長い時間のなかでセッションを展開するラジオ的なフォーマットが根付いています。今は 『Instagram』や『TikTok』などで60秒ほどの短いコンテンツが主流ですが、だからこそ『YouTube』では1時間ほどの映像を通して、ハイライトだけではない空気感や流れも含めて楽しんでもらいたいと思っています。このフォーマットはこれからも続けていきたいですね。

これまで多くのエピソードを制作してきた中で、特に印象に残っている回はありますか?

質問の切り口によって答えは変わるのですが、Victory Lap Radioのストーリーの中で最も大きな転機になったのは、Corteizとのコラボレーションで出演したエピソードだと思います。あの回をきっかけに、僕はそれまで働いていた『Bankrupt Store』を辞めて、Victory Lap Radioにフルタイムで取り組むようになりました。それまで趣味の延長のように続けていたプロジェクトが、初めて「仕事として成立するかもしれない」と感じた瞬間でした。ただ、個人的に思い入れがあるのは、もっと初期のエピソードですね。当時はまだ視聴者も多くなくて、ただ友人たちが集まって自由にラップしているような雰囲気でした。誰かに見られている感覚がなかったからこそ、より自由に実験的なことができたんです。今はVictory Lap Radioというフォーマットが広く知られるようになり、出演者もある程度の期待を持って来てくれるので、あの頃の空気感を完全に再現するのは難しいですね。

そしてもう一つ、個人的に大切なのが現在のスタジオで最初に撮影したエピソードです。新しい拠点を探していた時期に、数カ月ほど番組を更新できない期間があって。その間に人々がまだ番組を待っていてくれているのか、不安もありました。新しいスタジオでの最初の回は、とにかく友人たちや新しいアーティストを呼んで、もう一度シンプルに番組を作ろうという気持ちで制作しました。Chy Cartier(チャイ・カルティエなど、その回で初めてVictory Lap Radioに出演したアーティストもいましたね。結果的にそのエピソードは非常に良い反応を得ることができました。大きなスターが出演していたわけではなく、ただ僕たちの仲間たちが集まった回だった。それでも多くの人に見てもらえたことで、「場所や出演者に関係なく、Victory Lap Radioそのものに興味を持ってくれている人がいる」と実感できたんです。だからこそ、あの回は個人的にとても大切なエピソードですね。


この先シーンがどこへ向かっていくのかとても楽しみですし、その中でVictory Lap Radioが何らかの役割を果たせていることを嬉しく思っています

近年のUKヒップホップシーンの現在地に迫る

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グライムやドリル、さらには近年のUKアンダーグラウンドなど、ここ数年でUKラップシーンは世界的な注目を集めています。現在のUKラップについて、どのように捉えていますか?

今のUKラップは、これまで以上に実験的なフェーズに入っていると思います。以前はグライム、あるいはドリルといった特定のジャンルで知られる時代がありましたが、今はもっと多様な音楽が生まれています。例えばジャークやジャジーなビートの上でラップするアーティストもいれば、ドリルをベースにしたサウンドを進化させているアーティストもいる。そうした新しい世代の試みが、世界中のリスナーの関心を集めているのだと思います。また、今のシーンで面白いのは、以前よりもアーティスト同士のサポートが生まれていることです。昔は「大きくなれるラッパーは1人だけ」といった雰囲気があり、競争や分断も強かった。ただ、現在はチャンスやリソースが増えたことで、「誰もが成功する余地がある」という認識が広がってきています。その結果、スタイルやサウンドの異なる多様なアーティストが共存するシーンになっています。Victory Lap Radioも、そうした異なるバックグラウンドや音楽性を持つアーティストが同じ空間に集まれる場所でありたいと思っています。今はUKラップにとって、これまでで最も大きな瞬間と言えるかもしれません。国際的な注目度やビジネス面、カルチャーとしての影響力を含めても、これほど盛り上がっている時期はないと思います。だからこそ、この先シーンがどこへ向かっていくのかとても楽しみですし、その中でVictory Lap Radioが何らかの役割を果たせていることを嬉しく思っています。

Victory Lap Radioを通して多くのアーティストを紹介してきたと思いますが、今後特に注目しているアーティストはいますか?

まず名前を挙げたいのはFinessekid(フィネッセ・キッド)ですね。かなり早い段階でVictory Lap Radioに出演してくれたアーティストですが、その後すぐにスケプタやLancey Foux(ランシー・フォークス)などとコラボレーションするようになりました。ラップのスキルはもちろん、アーティストとしての総合力という意味でも、将来的にはスーパースターになる可能性があると思っています。

それからJim Legxacy(ジム・レガシー)も挙げたいですね。アンダーグラウンドというわけではありませんが、ロンドンのシーンにとって非常にユニークな存在です。彼のサウンドや表現は、他の誰とも比較できない独自性がある。すでに評価は高まっていますが、まだキャリアの序盤にいると思っていて、いずれは世界的な名前になるはずです。

Victory Lap Radioの初期から関わっているアーティストとしてはkwes e(クウェズ・イー)もいます。最近になってツアーを回ったり、大きな楽曲をリリースしたりと、ようやく本格的にキャリアが動き出してきました。アートに対するこだわりも強いので、数年後にはかなり面白いポジションにいると思います。

また、ジョニーノも注目しているアーティストの1人です。UKラップの中でもアーティスティックでオルタナティブな方向性を持ちながら、グライムのエッセンスを未来的なサウンドへと昇華させている。今後さらに大きな成功を収める可能性があると思います。

BlazeYL(ブレイズYL)も面白い存在ですね。ロンドンのシーンに突然現れたような存在ですが、UKのカルチャーや歴史に根ざしながらも、2026年のサウンドのように感じられる非常にモダンな音を作っています。過去を再現するのではなく、まったく新しいものを提示しているところが魅力です。

女性アーティストで言えばLedbyherも素晴らしいですね。ここ1年で大きく注目を集めていて、SINN6R(シナー)とのコラボレーションや『Boiler Room』への出演などを通して、すでに国際的な広がりを見せ始めています。

そしてもう1人、Luchï(ルッチ)という東ロンドン出身の若いラッパーも挙げたいです。まだ自分のサウンドを模索している段階ではありますが、ラップスキルと才能は本当に素晴らしい。これからの成長がとても楽しみなアーティストですね。

Victory Lap Radioは、『YouTube』をプラットフォームとする一方で、ブランドやリテーラーと協働したイベントも開催しています。そうした取り組みはどのように実現しているのでしょうか?

ブランドからコラボレーションの相談を受けることは多いのですが、僕たちはかなり慎重にパートナーを選んでいます。Victory Lap Radioのカルチャーと本当に相性が良いと思えるブランドとしか一緒にやらないようにしているんです。特に意識しているのは、ファンにとって意味のある瞬間を作れるかどうかですね。例えば、ブランドと協力して無料のイベントを開催し、ファンが好きなラッパーを間近で見られるような機会を作る。さらにそこにアンダーグラウンドのアーティストをサポートアクトとして出演させることができれば、シーン全体にも還元できます。NikeやJordan Brand、Levi’sといったカルチャーへの理解があるブランドであれば、彼らの資金やリソースを活用してアーティストやコミュニティにプラスになるイベントを作ることができます。僕自身、若い頃は無料イベントで好きなラッパーを観ることができた経験に大きな影響を受けました。だからこそ、チケットを買えない若い人たちでもカルチャーに触れられる場を作ることはとても大切だと思っています。そうした瞬間を生み出すことも、Victory Lap Radioの役割の一つだと思います。

実際に開催したイベントでは、どのような反応を感じていますか?

以前、ストラトフォードにある『Foot Locker』でストアイベントを開催したことがあるのですが、入場を無料にしました。その影響もあってか多くの若いファンが集まってくれて。特にSINN6R(シナー) を見られることにすごく興奮していたのが印象的でした。ストアのような身近な場所で、自分の好きなラッパーを間近で見られる。そういう体験は、ファンにとって特別な瞬間になると思うんです。そして、その機会をVictory Lap Radioが作ることができたということが、僕にとっても嬉しいことでした。僕自身もロンドンで育つ中で、そうしたイベントに参加することで大きな刺激を受けてきました。だからこそ、今度は自分たちが若い世代やファンのために、同じような機会を作り続けていきたいと思っています。

これまで多くのブランドとコラボレーションしていますが、やはり印象的なのがCorteizとの取り組みです。改めて、どのような経緯でコラボレーションが実現したのでしょうか?

Corteizがまだ立ち上がったばかりの頃、彼らはロンドンの『Bankrupt Store』で最初のポップアップを開催しました。当時、僕はその店で働いていたので、ブランドのスタートを間近で見ていたんです。そこから彼らがここまで成長し、今では世界でも有数のストリートウェアブランドになったのは本当にすごいことだと思います。Victory Lap RadioとCorteizの関係は、同じロンドンのコミュニティから自然に生まれたものです。ロンドンは大きな都市ですが、UKラップやストリートウェアといったクリエイティブなシーンでは人とのつながりが重なり合うことが多い。僕自身もブランドを率いるClint(クリント)をはじめ、チームのメンバーとは以前から顔見知りでした。だからこそ、コラボレーションはとても自然な流れだったと思います。Corteizは、NikeやSupremeのような文脈に理解のあるブランド以外とはあまりコラボレーションをしないことで知られていますが、Victory Lap Radioは彼らのブランドが始まった頃の精神に近いものを持っていると感じてくれたのだと思います。彼らも最初は友人たちと一緒にブランドを作り上げていったし、Victory Lap Radioも同じように仲間たちと作ってきたプロジェクトです。そうした共通点があったからこそ、一緒に何かを作ることになったのだと思います。昨年はスケプタが出演したエピソードなどでも協力する機会がありました。これからもお互いに成長していく中で、関係を続けていけたら嬉しいですね。

最近では、25人以上のラッパーのフリースタイルを収録した短編映画「Training Mode」も話題になりました。このプロジェクトはどのように生まれたのでしょうか?

『Training Mode』は、実は何年も前からやりたいと思っていた企画でした。ただ当時は、実現するためのリソースや環境がまだ整っていなかったんです。Victory Lap Radio自体もグライムのサイファー文化から強く影響を受けていますが、僕たちは単に過去のスタイルを再現するのではなく、常に現代的な形にアップデートしたいと考えてきました。今は実験的なサウンドや新しい世代のアーティストが増えているので、UKカルチャーにとって重要だったフォーマットをベースにしながら、2026年のシーンに合う形に再構築したかったんです。『Training Mode』は、そうした考え方から生まれました。インスピレーション源の一つは、かつて多くの人が見ていたグライムのDVDシリーズです。ストリートやスタジオでのフリースタイル、アーティストの日常や舞台裏など、彼らのリアルな姿が映し出されていました。今はSNSの影響もあって、アーティストが常に“見られる存在”として振る舞う場面も多いですが、このプロジェクトではもっと人間的な側面や背景を見せたかった。ドキュメンタリーに近い、少し長尺でアーティスティックな映像にしたのもそのためです。制作にはおよそ1年を費やしましたし、多くのアーティストが参加してくれました。音楽だけでなく、彼らがどんな人物なのか、どんな背景を持っているのかといった部分まで伝えられる作品になったと思います。

日本のファンが作品を観られる機会はありますか?

もちろんです。実はもうすぐオンラインで公開する予定なんです。これまではまずロンドンでのシネマプレミアに限定していました。というのも、無料イベントとしてファンに来てもらい、いち早く作品を観てもらう場を作りたかったからです。ただ同時に、ロンドン以外、特に海外からの関心が非常に高まっているのも感じています。UKカルチャーに興味を持つインターナショナルのファンから「オンラインで公開してほしい」という声を多くもらっているんです。正確なタイミングはまだ言えませんが、もしかしたらこの記事が公開される頃には、YouTubeで視聴できるようになっているかもしれません。できるだけ多くの人に観てもらいたいと思っていますし、今のUKシーンで起きていることに興味を持っている人は世界中にいるはずですからね。日本のファンにもぜひ観てもらえたら嬉しいです。

フランスやドイツ、ブラジルなど、Victory Lap Radioは各国で特別エピソードを制作しています。言語やカルチャーが異なる中で、どのような基準で開催地を選んでいるのでしょうか?また、次の開催地の予定についても教えてください。

初めてマーチャンダイズをドロップしたとき、世界中から反響があったことに驚いたんです。これまでUKの音楽は、今ほど国際的な広がりを持っていなかった印象があったので、想像以上に海外のファンがいることに気づきました。その経験から思ったのは、言語や文化が違いはあれど、どの国にも独自のローカルシーンがあるということです。新しいアンダーグラウンドのアーティスト、地元のレジェンド、そしてスターたちが存在する。Victory Lap Radioのフォーマットは、そうしたシーンがある場所であればどこでも成立するものだと思っています。これまでにも、ブラジルのサンパウロ、ドイツのベルリン、フランスのパリでエピソードを制作してきました。さらに直近ではポルトガルのリスボンで収録しています。今月にはスペインのマドリードでも撮影を行う予定ですね。そして、今後ぜひ実現したい場所のひとつが東京です。日本は以前から僕たちにとって重要なインスピレーション源で、デザインやビジュアルの面でも影響を受けています。実際に日本のアーティストを紹介したこともありますし、日本にもアンダーグラウンドの新世代、シーンを築いてきたレジェンド、そして新しいスターがいることを知っています。

Victory Lap Radioはロンドン発のプロジェクトなので、もちろんロンドンのエピソードはこれからも続けていきます。ただ同時に、世界各地のシーンにスポットライトを当てることも重要だと思っています。ロンドンのリスナーに「世界の別の場所ではこんな音楽が生まれている」と伝えることは、シーン全体にとって大きな意味がある。最近はリスナーの感覚も変わってきていて、UKやアメリカの音楽だけでなく、さまざまな国の音楽に自然と耳を傾けるようになっています。だからこそ、これからも世界中を巡りながらVictory Lap Radioのエピソードを制作していきたいと思っています。

近年、日本でもUKラップへの関心が高まっています。実際にセントラル・シーをはじめとするUKアーティストが来日公演を行う機会も増えていますが、この動きはUKヒップホップシーンにとってどのような意味を持つのでしょうか?

UKラップがこれまで以上に国際的な注目を集めているということだと思います。以前は、UKのラッパーが日本に行ってライブをするというのはそれほど簡単なことではありませんでした。でも最近は、ツアーやライブで日本を訪れたアーティストたちが「日本はやばい」「ファンがとても熱心だ」と話すことが増えているんです。例えばアシュベックやBxksのようなアーティストが日本でパフォーマンスをして戻ってくると、現地のファンがUKの音楽にどれだけ関心を持っているかをよく聞きます。日本のリスナーは、UKで起きていることを本当によく理解していて、シーンに対する感度が高いと感じますね。それに、日本という国自体が長い間カルチャーの発信地として世界に影響を与えてきました。ファッションや音楽、映画、テレビなど、さまざまな分野で日本の文化は西洋のカルチャーとも密接に関わってきています。だからこそ、UKで新しいサウンドが生まれたとき、日本のリスナーがそれを自然に受け入れるのはとても納得がいくことなんです。ロンドンやUKのアーティストたちにとっても、日本のように音楽に対して強い情熱を持つ場所でパフォーマンスできることは大きな魅力です。僕たちは自分たちの音楽に誇りを持っていますし、その情熱を共有してくれる人たちがいるなら、世界中どこでも喜んで届けたいと思っています。そういう意味でも、日本は今、UKラップにとってとても重要な場所になっていると思いますし、多くのアーティストが実際に現地でパフォーマンスしたいと考えているはずです。

過去には日本のラッパー JumadibaがVictory Lap Radioに出演したこともありました。彼が出演した経緯を教えてください。

彼がロンドンに来ていたタイミングで、UKのアーティストであり僕たちとも関わりのあるSam Recks(サムレックス)と一緒に音楽制作をしていたんです。Samが「今、Jumadibaがロンドンにいるよ」と教えてくれて、それがきっかけでした。もともと名前はなんとなく知っていたんですが、改めて彼の音楽を聴いてみたら「これはVictory Lap Radioにぴったりだ」と思ったんです。これまで話してきたように、僕はずっとこの番組をロンドンだけに閉じたものにするのではなく、世界のアーティストとも交差する場所にしたいと考えていました。これまでもアメリカのアーティストが出演したことはありましたが、アメリカ以外の地域から参加したアーティストとしては、彼はかなり早いタイミングの存在でした。UKのラッパーと一緒にセッションすることで、ロンドンのシーンが海外のアーティストを受け入れるきっかけにもなりましたし、同時に彼自身がロンドンで認知される機会にもなったと思います。

彼の出演は、日本のアーティストにも大きな影響を与えたと思います。日本のシーンにとっても象徴的な瞬間だったのではないでしょうか。

本当にクールな出来事でしたね。僕たちがこれまで行ってきたコラボレーションは、どれも無理に作ったものではなく、自然な流れの中で実現してきたものなんです。Jumadibaの場合も同じで、彼がすでにサムレックスと一緒に制作していたことや、もともとUKの音楽に興味を持っていたこと、そして実際にロンドンに滞在していたことなど、すべてが自然につながっていました。だからこそ、Victory Lap Radioに出演することもとても自然な流れだったと思います。結果として、アメリカ以外の国から参加したアーティストとしては比較的早いタイミングの出演になりましたし、国際的なアーティストがどのようにこのフォーマットに参加できるのかを示す良い例にもなりました。

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ここ数年、UKラッパーと日本のラッパーによるコラボレーションが増えています。例えばJumadibaとSam Recksの楽曲『Better Days』や、AshbeckとIt-Worksによる『Shibuya』など、さまざまなプロジェクトが生まれています。こうした動きを、UK側からはどのように見ていますか?

実際、僕が日本のアーティストを知るきっかけの多くも、そうしたコラボレーションなんです。UKアーティストとの楽曲を通して初めて名前を知ることも多いですし、逆に日本のリスナーがアシュベックやAyrtn(エイトン)、サムレックスのようなUKアーティストを知るきっかけにもなっていると思います。そういう意味で、コラボレーションはとても自然な形のカルチャー交流ですよね。特に楽曲という形で残ることで、お互いのスタイルや個性がどのように混ざり合うのかをリスナーが感じ取ることができます。もちろん、最初に壁を越えるには誰かが一歩踏み出す必要があります。例えばサムが「Jumadibaと曲を作りたい」と考えたことがきっかけになり、その後に他のアーティスト同士のコラボレーションが生まれていく。そうやって少しずつシーン同士の距離が縮まっていくんだと思います。実際、こうした動きは日本に限ったものではありません。例えばBlanco(ブランコ)はブラジルのアーティストと頻繁に制作していますし、最近リスボンを訪れた際には、ロンドンでセッションを行う予定のポルトガルのプロデューサーとも出会いました。異なる国やカルチャーのアーティストがつながることで、新しい音楽が生まれる。そうした“橋”を作ることはとても重要だと思いますし、Victory Lap Radioの活動やラジオというフォーマットも、そうした交流を後押しする存在になれたら嬉しいですね。

最近はセントラルシーのようなメインストリームはもちろん、UKアンダーグラウンドのアーティストも国際的な注目を集めています。例えばEsDeeKidやFimiguerrero、Fake Mink、YTなど、次世代のアーティストも世界に広がり始めています。この流れをどのように見ていますか?

間違いなく、今がUKラップにとってこれまでで一番大きな瞬間だと思います。今名前が挙がったようなEsDeeKidやFimiguerrero、Fake Mink、YTのようなアーティストたちは、いまや海外でもソールドアウトのツアーを行うようになっています。彼らがキャリアを始めた頃は、イギリス国内でもここまで大きくなるとは想像されていなかったかもしれません。だからこそ、今起きていることはとても新鮮で、次の世代にとっても大きなインスピレーションになると思います。自分たちの音楽が、ローカルなシーンだけでなく国際的なレベルでも受け入れられる可能性があると示してくれているからです。例えば、かつては小さな会場でラップしていたアーティストが、今ではファッションブランドのイベントや大きな舞台に呼ばれるようになっている。そうした変化は、UKラップの可能性を広げています。彼らのようなアーティストが道を切り開くことで、これから登場する新しい世代のラッパーたちの夢や目標も、さらに大きなものになっていくはずです。今は本当にエキサイティングな時代だと思います。

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Victory Lap Radioを続けていくうえで、大切にしているコアな価値観や、絶対に譲らない原則はありますか?

言葉で完全に説明するのは少し難しいのですが、一番大事にしているのは「自分たちにとって正しいと感じることをする」という姿勢です。どれだけ有名なアーティストであっても、ただ名前が大きいという理由だけで出演してもらうことはありません。カルチャーに貢献していない人や、どこか作られた感じがするものには関わらないようにしています。Victory Lap Radioの核にあるのは、音楽やシーンに対してポジティブな影響を与えることです。僕たちの活動が、今起きているカルチャーを後押しし、次の世代のアーティストが活躍できるスペースを作ることにつながるなら、それが一番理想的だと思っています。もう一つ大切にしているのは、「売れたからやる」「お金のためにやる」という印象を与えないことです。僕たちは決して“セルアウト”したように見られたくない。常に意識しているのは、シーンを育てていくこと。例えるなら、植物に水をやるように、カルチャーが成長する環境を少しずつ整えていくことが、自分たちの役割だと思っています。

ロンドンにはさまざまなバックグラウンドを持つアーティストが集まり、互いに刺激し合う環境があります。そうした“コミュニティ”の存在は、UKヒップホップにとってどれほど重要なのでしょうか?

振り返ってみると、UKの音楽シーンは常に“プラットフォーム”とともに発展してきたと思います。例えばグライムやドリルが広がった背景には、それを支えるメディアや番組の存在がありました。具体的には、Lord of the Micsのようなバトル企画や、SBTV、Link Up TV、GRM Daily、GRIMEREPORTTVといったプラットフォームが、当時のアーティストを世に送り出す役割を果たしていました。さらにラジオ局で言えば、On The Radar RadioやRinse FMのような存在も重要でしたね。つまり、新しい音楽の波が生まれるときには、必ずそれを支える場所やメディアが存在していたんです。僕は、Victory Lap Radioが今のUKで起きている新しい波にとって、そうしたプラットフォームの一つになれたらいいと思っています。アーティスト同士が出会い、コラボレーションが生まれ、そしてそれをオーディエンスに届ける場所。音楽の時代と、それを支えるプラットフォームは常にセットで存在してきました。だからこそVictory Lap Radioもまた、今の世代のシーンを支える場になれたら嬉しいですね。

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今後のVictory Lap Radioとしての展望を教えてください。

これからは、活動の幅をさらに広げていきたいと考えています。もちろん、ラジオはこれからも僕たちの活動の中心であり続けます。ただ、それだけにとどまらず、いくつか新しい取り組みも計画しています。例えば、将来的にはレーベルとしての機能も持たせたいですね。すでにレコーディングスタジオも用意していて、プロデューサーとアーティストをつなげながら、楽曲制作そのものをサポートしていく構想があります。これまでのようにアーティストを紹介するだけでなく、音楽を生み出すプロセスにも関わり、彼らが次のレベルへ進む手助けをしたいんです。さらに、イベントやパーティーも増やしていきたいと思っています。ファンが好きなラッパーを間近で見られる機会を作ることは、僕たちにとっても大切なことです。そしてもう一つ大きな目標が、国際的な展開です。ロンドンのシーンを世界に紹介するだけでなく、各国のローカルシーンにもスポットライトを当てながら、ロンドンと世界をつなぐ“かけ橋”のような存在になれたらと思っています。2026年は、UKラップにとっても非常に重要な1年になるはずです。そして、Victory Lap Radioにとっても同じように大きな1年になると思います。いま進めている計画はどれもスケールの大きなものですし、多くのアーティストたちのビジョンとも重なっています。だからこそ、これからの展開にはとても期待しています。

これから音楽やカルチャーの世界に挑戦しようとしている若いクリエイターたちへメッセージをお願いします。

アーティストであれ、ブランドを始めたい人であれ、ラジオやDJに挑戦したい人であれ、一番大切なのは「とにかくやってみること」だと思います。多くの人が考えすぎてしまったり、自分にはできないと決めつけてしまったりしますが、Victory Lap Radioのストーリー自体が、身近にあるものを使って始めることの大切さを示していると思います。必ずしも高価な機材や多くの資金が必要なわけではありません。大事なのはアイデアと、一緒に何かを作ろうとする仲間の存在です。そうした人たちと集まり、まずは形にしてみることが重要なんです。ラッパーやプロデューサーを目指す人にとっても同じです。まずは実験すること、そして楽しむこと。夢を追うのはもちろん大切ですが、最初からお金や成功といった短期的なゴールだけを追いかけるべきではないと思います。自分が何が得意で、何が苦手なのかを試しながら見つけていく、そのプロセス自体を楽しむべきです。今は『Instagram』をはじめとするソーシャルメディアの影響で、「一夜にして成功する」というイメージが強くなっています。でも、今世界的に成功しているラッパーたちも、実際には長い時間をかけて努力し、技術を磨いてきています。外から見ると突然ブレイクしたように見えるだけなんです。だからこそ、焦らずにその過程を楽しんでほしい。友人たちと集まり、自分が本当に好きなことを見つけて、試行錯誤しながら続けていく。その途中で、きっと何か新しいものが生まれるはずです。

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最後に、Hypebeast Japanの読者へメッセージをお願いします。

一番伝えたいのは、2026年はぜひ日本に行きたいと思っています。もし実現すれば、日本の皆さんにUKのカルチャーやUKラッパーたちを紹介できたら嬉しいですね。僕たちがどこかの都市へ行くときは、単に自分たちのシーンを紹介するだけではなく、その場所で起きているカルチャーにも光を当てたいと思っています。僕たちのオーディエンスに日本のシーンを知ってもらうと同時に、日本のリスナーにもUKのシーンを楽しんでもらう。そうした双方向の関係を作ることが理想です。だからこそ、ロンドンと日本の都市の間に良い繋がりを築けたらと思っています。それがきっかけとなって、今後さらに多くのコラボレーションや新しい機会が生まれていけば最高ですね。日本に行くことができたら、皆さんが見たいと思うUKラッパーたちを連れて行きたいですし、同時に僕たち自身も日本のラッパーを知りたいと思っています。そうした交流を通して、両方のシーンにとって実りあるカルチャーの交換が生まれることを願っています。Victory Lap Radioとしても、日本の皆さんと直接つながれる日をとても楽しみにしています。

インタビュー終了後、東ロンドン・ダルストンのスタジオでは新たなエピソードの収録が行われた。気鋭のクリエイター 3Stacksによるロンドン在住アーティストにフォーカスを当てたビデオ・”Kino Vol.2”のリリースを記念し、Victory Lap Radioとコラボレーションが実現。YTやkews e、kareといった次世代アーティストが一本のマイクを回し合い、エネルギッシュなエピソードがまた一つ収録されることとなった。

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Victory Lap Radio
ロンドン発のプラットフォーム Victory Lap Radioは、仲間内のラジオセッションからスタートし、現在ではUKヒップホップの新たな動きを捉える存在へと発展している。その特徴は、商業性に依存しない“リアル”なスタンスにあり、アーティスト同士の自然な関係性やコミュニティの熱量をそのまま発信している点にある。近年は、セントラル・シーやデイブの国際的な活躍を背景に、UKヒップホップへの関心が世界的に高まっている。そうした中で、Victory Lap Radioはロンドン発のカルチャーを国内のみならず世界へ伝える役割を担っている。


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1980年代、ヒップホップはニューヨークのストリートから海を越え、ロンドンの若者たちの間にも静かに浸透していった。当時のイギリスは人種的分断や文化的アイデンティティをめぐる緊張を抱えながら、多様なバックグラウンドを持つコミュニティが交差する都市だった。そうした環境のなかでヒップホップは、自己表現の手段としてDIY精神を持つ若者たちに受け入れられていく。例えばUK発のHip Hopスターとして知られるラッパー/DJ Derek B(デレク・B)は、海賊ラジオ局からスタートし、ヒット曲『Goodgroove』をリリースするなど、UKヒップホップの礎を作り上げた。

1950年代から1970年代にかけて、当時イギリス領であったジャマイカをはじめとするカリブ海地域からの移民であるウィンドラッシュ世代によって持ち込まれたサウンドシステム文化、ダブやレゲエといったジャンルからの影響を大きく受けつつ、1990年代には、ブリストルやマンチェスターなど各都市で独自のスタイルが生まれ、ヒップホップはエレクトロニックやジャズと結びつきながら新たなサウンドを形成していった。また同時期には、Massive Attack(マッシヴ・アタック)やPortishead(ポーティスヘッド)らによるトリップホップの台頭、そしてNinja Tune(ニンジャチューン)をはじめとするレーベルの存在がシーンを後押しする。こうした流れのなかで、ルーツ・マヌーヴァ(Roots Manuva)ら新世代のアーティストが登場し、UKヒップホップはより独自の進化を遂げていくことになる。

2000年代に入ると、UKラップシーンでは高速ビートが特徴のグライムが台頭する。1990年代半ばのガラージや2ステップなどをベースに、ラップやレゲエなど多国籍なカルチャーを取り込みながら発展したこのジャンルは、イギリスのポピュラー音楽として確固たる地位を築いた。Dizzee Rascal(ディジー・ラスカル)が先駆者として登場し、Skepta(スケプタ)やストームジー(Stormzy)、AJ Tracey(AJ・トレーシー)はその象徴的存在となった。また近年では、UKドリルが世界的な広がりを見せ、日本のラップシーンにも影響を与えている。Central Cee(セントラル・シー)のようなグローバルスターの登場は、その勢いを象徴する出来事と言える。こうした流れを振り返ると、UKラップは今なお発展の途中にあり、さらなる拡張と進化を続けていることがわかる。

現代のUKシーンを映し出す次世代のプラットフォーム

アメリカから輸入されたカルチャーを独自に発展させ、いまや現代ヒップホップの重要な指標のひとつとなったイギリス。そのシーンでは、常に新たなラッパーが生まれ続けている。そうした才能が芽吹く場のひとつとして機能しているのが、Victory Lap Radio(ビクトリーラップラジオ)だ。南ロンドンはペッカムのラジオ局「Balamii」にて月に一度2時間のプログラムとしてスタートした本ラジオは、現在東ロンドンのダルストンに自らの拠点を持ち、規模の大小を問わず才能あふれるアーティストを招き、YouTube上で発信を行っている。これまでにセントラル・シーやDave(デイブ)、ピンクパンサレスといった世界的アーティストをはじめ、“Stone Island Sound”とのコラボレーションを通じて『Crack Magazine』の表紙を飾ったJawnino(ジョニーノ)、ロンドンの気鋭ラッパー Ashbeck(アシュベック)、ノーザンプトン出身のBXKS(ベックス)など、多くのアーティストが出演。まさに本ラジオは、UKシーンの現在地を映し出すプラットフォームとして存在感を放っている。

その潮流は日本のアーティストにも波及している。過去には日本人ラッパー JUMADIBAが、楽曲『Better Days』で共作したSamRecks(サムレックス)らとともに出演。Victory Lap Radioはロンドンだけに視線を留めることなく、常に新たな動きが生まれる海外のシーンにもアンテナを張り巡らせている。

本記事では、Victory Lap Radioを軸にUKヒップホップシーンの現在地を紐解く。主宰のジョゼフ・マクダーモット(Joseph McDermott)の言葉を手がかりに、カルト的支持を集める同ラジオが果たす役割に迫る。


僕たちの番組は作られたものではなく、限りなく“リアル”に近い空間なんです

UKで形成される新たなプラットフォーム

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まず最初に、Victory Lap Radioとはどのようなプラットフォームなのか教えてください。

Joseph McDermott:Victory Lap Radioは、もともと自分の友人たちの音楽を紹介するために始めたラジオ番組でした。周りにはラップをしている人やビートを作っているプロデューサーなど、音楽を作っている仲間がたくさんいたので、そうしたアーティストたちを紹介できる場所を作りたいと思ったのがきっかけです。毎回異なるゲストを招きながら、月ごとにエピソードを更新していく形で、まずは身近なコミュニティの音楽を発信していこうと考えていました。最初は本当に友人たちをフィーチャーするための小さなラジオ番組だったんです。そこから徐々に広がっていき、今では友人だけでなく、より多くのアーティストが出演するようになりました。規模の大きいアーティストを迎える機会も増え、海外での展開も始まっています。

このラジオ番組を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

もともと僕は音楽が大好きだったんですが、自分自身が音楽を作るタイプではありませんでした。その代わり、音楽にまつわるクリエイティブな部分で関わってきたんです。例えば、アーティストのためのグラフィックデザインやイベントでの写真撮影、時にはクリエイティブディレクションなどを手がけながら、音楽シーンに関わってきました。DJも昔から趣味として続けていて、そうした形で音楽との距離を保っていたんです。そんな中で、アーティストの友人たちと一緒にニューヨークへ行く機会があり、現地でいくつか音楽系のラジオ番組に出演することになりました。The Lot Radioだったり友人の番組なんかでロンドンから持ってきた新しい音楽を流したりしたんです。その経験がとても楽しくて、ロンドンに戻った後も「こういうことを続けていきたい」と思うようになって。自分は音楽を作るわけではないけれど、音楽を本当に愛している。その中で、自分にできることは何かと考えたときに、アーティストをキュレーションしたり、彼らを紹介する“プラットフォーム”を作ることが、自分なりの関わり方なのではないかと思いました。

数あるヒップホップメディアやラジオ番組の中で、Victory Lap Radioならではの強みはどこにあると思いますか?

多くのアーティストが出演したいと思ってくれる理由の一つは、番組がとてもオーガニックで自然な雰囲気を持っているからだと思います。他のプラットフォームの多くは、大きな企業のサポートを受けていたり、ブランドが運営していたりと、ビジネス的な背景を持っていることが少なくありません。もちろんそれ自体は悪いことではありませんが、そこにはどうしても別の目的が存在する場合もあります。一方で、Victory Lap Radioは非常にシンプルです。実際にスタジオを見てもらえればわかると思いますが、基本的には僕たちと友人たち、そしてGoProとターンテーブルがあるだけ。そこで自分たちのやりたいことを自由にやっているんです。もともとは友人たちと「何か面白いことを作ろう」と始めたDIY的なプロジェクトでした。その姿勢が今でも変わっていないことが、多くのアーティストにとって魅力なのかもしれません。例えば、セントラル・シーやデイヴ、そしてPinkPantheress(ピンクパンサレス)のように、すでに大きな成功を収めているアーティストであっても、純粋に音楽にフォーカスした空間に戻りたいと感じる瞬間があると思うんです。そうした意味で、僕たちの番組はそれっぽく作られたものではなく、限りなくありのままで“リアル”に近い空間なんです。そのリアルさこそが、他のプラットフォームにはない魅力なのではないかと思っています。

Victory Lap Radioはどのようなチーム体制で運営されているのでしょうか?

基本的には僕が中心となって動いています。アーティストへの連絡やA&R、キュレーション、編集、グラフィック制作など、番組の多くの部分を自分で担当しています。ただ、もちろん1人ですべてを完結させることはできません。実際の収録では、DJやエンジニア、サウンドテック、プロデューサーなど、さまざまな形で多くの人が関わっていますし、アーティストも番組の重要な一部です。Victory Lap Radioは僕のキャリアであり情熱でもありますが、同時に周囲のコミュニティによって成り立っているプロジェクトでもあります。DJやエンジニア、プロデューサーなど、それぞれのスキルを持った仲間たちが関わることで、番組が今の形になっていると思います。

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ご自身のバックグラウンドについても教えてください。どのようにして現在のシーンに関わるようになったのでしょうか?

ロンドンでグラフィックデザインを学んだことが、すべての始まりでした。もともとスケートボードや写真、音楽、デザインといったカルチャーに強く影響を受けていて、特にスケートシーンやパンクロックのライブから得た価値観は、現在のVictory Lap Radioの在り方にも大きく影響していると思います。そうしたカルチャーに根ざしたDIY精神やコミュニティ意識が、僕たちの活動のモラルや哲学のベースになっています。当時はロンドンの街でライブに足を運んだり、写真を撮ったりしながら活動していて、現在一緒に仕事をしているラッパーの多くとも、その頃からクリエイティブを通じて関係を築いてきました。そのため、ラジオを始めたときには自然と周囲のアーティストを巻き込むことができたんです。これまで一貫して、グラフィックや写真などの分野に携わってきましたが、音楽への強い関心とそれらを掛け合わせることで、自分なりの形で表現できる場としてラジオにたどり着いたのだと思います。

スケートボードやパンクロックといったカルチャーからも影響を受けたとのことですが、実際にはどのような部分でしょうか?

スケートボードやパンクロック、ハードコアといったカルチャーから受けた影響は、Victory Lap Radioの在り方にも強く反映されています。特に大きいのは、DIY精神と“each one, teach one(一人一人が、一人に教える)”のような価値観ですね。次の世代に知識や機会を共有し、コミュニティとして支え合う姿勢は、スケートやハードコアシーンに共通する重要な要素だと思います。そうした価値観はラップやグライムのシーンにも通じていて、自分にとってはこれらのカルチャーが活動の軸になっています。

ヒップホップとの出会いについて教えてください。また、最初に影響を受けたアーティストは誰でしたか?

ヒップホップとの出会いはかなり早い段階でした。アメリカのラップミュージックを音楽チャンネルやMTVで観ていて、自然と生活の中に存在していたという感覚です。僕はバーミンガム近郊の出身なんですが、当時はグライムのシーンがとても活発で、YouTubeが普及し始めた頃には、地元のMCたちがロンドンで活動する様子を見ることができました。そこからロンドンのグライムシーンにも興味を持つようになり、スケプタやBoy Better Know(ボーイ・ベター・ノウ)の存在を知りました。ロンドンで育ったわけではありませんが、当時起きていたカルチャーは常に追いかけていましたし、スケートボードやハードコアミュージックと同じように、“既存の枠に収まらない表現”に強く惹かれていたんだと思います。最初に影響を受けたアーティストでいうと、グライムではD Double EやSkeptaが大きな存在でした。彼らが所属するクルーであるBoy Better Knowには他にもJMEやJammerといった個性的なキャラクターが集まっていて、そんな彼らが一つのムーブメントを作っている姿は、とても印象的でしたね。個人的には、どこか“レスラー”のような、強烈な個性を持ったアーティストに惹かれる傾向があって、D Double Eのような存在感のあるMCや、バーミンガムのDevilman(デビルマン)のようなキャラクター性の強いアーティストは、当時好きな類でしたね。

UKの音楽シーンやパイレーツラジオ文化は、Victory Lap Radioの立ち上げにどのような影響を与えましたか?

グライムをはじめ、ダブステップやジャングル、ガラージといったUK発の音楽を語るうえで、パイレーツラジオの存在は切り離せません。僕自身も、YouTubeで当時のラジオセットの映像や音源を観たり聴いたりする中で、そのカルチャーに触れてきました。パイレーツラジオの魅力は、限られた環境の中でも自分たちの力で発信を行うDIY精神にあると思います。それはスケートボードやパンクロック、ハードコアのシーンとも共通する価値観で、与えられた環境に頼るのではなく、自分たちの手でカルチャーを作り上げていく姿勢に強く影響を受けました。実際にVictory Lap Radioを始めた当初も、予算や設備が整っていたわけではありません。あったのは仲間とアイデアだけでした。それでも周囲の人たちと協力しながら形にしていくことで、結果的にカルチャーに影響を与える存在へと成長していったと思います。もちろん、当時のように屋上にアンテナを設置して違法に電波を飛ばすような環境ではありませんでしたが、そうした先人たちが築いてきた文化があったからこそ、今の自分たちの活動があると感じています。

スケプタやデイブ、ピンクパンサレスなど、著名なアーティストも出演しています。こうしたコラボレーションはどのように実現しているのでしょうか?日本でも大きな反響があり、驚きました。

セントラル・シーとデイヴはCorteizとのコラボ企画の時に来てくれました。ロンドンにあった『Bankrupt Store』というストアの存在がとても大きかったですね。そこではCorteizのポップアップが開催されたり、さまざまなクリエイターが集まったりしていて、当時のロンドンのカルチャーにおける重要なハブのような場所でした。今ロンドンでかなりの人気を誇るalways do what you should doというブランドも、最初に取り扱いを始めたのは『Bankrupt Store』でした。僕自身もそこで働いていたのですが、実はそこでCorteizの最初のポップアップが開催されて、その時に出会ったアーティストマネージャーがVictory Lap Radioのことを知ってくれたんです。後日Corteizのメンバーから2人も僕たちのやっていることを気に入ってくれていると連絡を受け、すぐにコラボレーションが実現しました。その気になればどんなプラットフォームにも出られる2人ですが、こうした自然な繋がりで出てくれることになったんです。

ピンクパンサレスは僕と共通の友人が多くて、ずっとVictory Lapに出たいと思っててくれていたみたいです。それで、新しいアルバムをリリースするタイミングがちょうどいいんじゃないかということで出演が決まりました。同じようにスケプタなんかも外からそういった動きを見てて、Corteizとの2回目のコラボレーションでJMEたちと一緒に出演が実現しました。側から見たら綿密な計画の下で、何か大きな力が働いて有名なアーティストが次々と出ているように見えるかもしれません。けど、こういったコラボレーションは実は友人伝いだたりカルチャーきっかけだったり、自然な繋がりで出てくれているっていう形なんですよね。

一方でVictory Lap Radioでは多くのUKアンダーグラウンドアーティストが出演し、サイファーなども行われています。出演するアーティストはどのように決めているのでしょうか?

基本的には僕がキュレーションしています。Corteizとコラボレーションする回では、彼らがアーティストを連れてきたり提案してくれることもありますが、通常のエピソードはほとんど僕が考えています。例えばピンクパンサレスが出演した回では、彼女が紹介したいアーティストと、僕が「彼女と相性が良い」と思うアーティストを組み合わせて一緒にキュレーションしました。エピソードごとに状況は違うのですが、規模感の大小に関わらず基本的には「同じ部屋にいたら面白い化学反応が起きそうな人たち」を集めるようにしています。すでにコラボしたことのあるアーティスト同士の場合もあれば、初対面の組み合わせもあります。時には20人ほどのアーティストが参加することもあるので簡単ではないですが、収録している空間が居心地の良い場所であることが大切なんです。アーティストたちが自然とマイクを手に取りたくなるような環境を作ること。それが僕のキュレーションの役割だと思っています。

使用されるビートはどのように選ばれているのでしょうか?

ビートの選定は、基本的に僕とDJの両方で行っています。僕自身がプロデューサーからビートパックを集めることも多くて、若くて野心のあるプロデューサーたちから届くトラックを番組で使うこともあります。Victory Lap Radioではラッパーだけでなく、プロデューサーにもスポットライトを当てたいと思っているんです。一方で、出演するDJたちもシーンに精通している人たちなので、自分のUSBに多くのビートを持っています。だから、僕が用意したものとDJが持ってきたものを組み合わせながら、その場の空気に合ったトラックを流していく形ですね。そうした流れの中で、思いがけない瞬間が生まれることもあります。例えばデイヴがジャジーなビートの上でラップしたシーンがありますが、あのトラックは友人のプロデューサーであるKare(カレ)とHenes(ヒーンズ)が作ったものだったんです。デイヴがラップしたことをきっかけに、彼らにも多くの仕事が舞い込むようになりました。Victory Lap Radioはラッパーだけでなく、新しいプロデューサーにとってもチャンスを広げる場所になればと思っています。

ヒップホップの映像コンテンツには、XXLのサイファーのように短いフォーマットのものも多くあります。一方でVictory Lap Radioは1時間以上の長尺で展開されていますが、このフォーマットにはどのような意図があるのでしょうか?

もともとはラジオ番組として2時間の枠を持っていたことがきっかけです。その時間を埋めるために、少なくとも1時間ほどはラップセッションを行う形にしていました。このスタイルは、昔のグライムのラジオセットから影響を受けています。ラジオ番組の中でビートを流し続け、アーティストが自由にラップしていく。そうした実験的な空間のなかでこそ、思いがけない瞬間が生まれるんです。XXLのサイファーはとても象徴的な存在ですが、1つのビートで数分間という構成ですよね。一方でUKのカルチャー、特にグライムの文化では、もっと長い時間のなかでセッションを展開するラジオ的なフォーマットが根付いています。今は 『Instagram』や『TikTok』などで60秒ほどの短いコンテンツが主流ですが、だからこそ『YouTube』では1時間ほどの映像を通して、ハイライトだけではない空気感や流れも含めて楽しんでもらいたいと思っています。このフォーマットはこれからも続けていきたいですね。

これまで多くのエピソードを制作してきた中で、特に印象に残っている回はありますか?

質問の切り口によって答えは変わるのですが、Victory Lap Radioのストーリーの中で最も大きな転機になったのは、Corteizとのコラボレーションで出演したエピソードだと思います。あの回をきっかけに、僕はそれまで働いていた『Bankrupt Store』を辞めて、Victory Lap Radioにフルタイムで取り組むようになりました。それまで趣味の延長のように続けていたプロジェクトが、初めて「仕事として成立するかもしれない」と感じた瞬間でした。ただ、個人的に思い入れがあるのは、もっと初期のエピソードですね。当時はまだ視聴者も多くなくて、ただ友人たちが集まって自由にラップしているような雰囲気でした。誰かに見られている感覚がなかったからこそ、より自由に実験的なことができたんです。今はVictory Lap Radioというフォーマットが広く知られるようになり、出演者もある程度の期待を持って来てくれるので、あの頃の空気感を完全に再現するのは難しいですね。

そしてもう一つ、個人的に大切なのが現在のスタジオで最初に撮影したエピソードです。新しい拠点を探していた時期に、数カ月ほど番組を更新できない期間があって。その間に人々がまだ番組を待っていてくれているのか、不安もありました。新しいスタジオでの最初の回は、とにかく友人たちや新しいアーティストを呼んで、もう一度シンプルに番組を作ろうという気持ちで制作しました。Chy Cartier(チャイ・カルティエなど、その回で初めてVictory Lap Radioに出演したアーティストもいましたね。結果的にそのエピソードは非常に良い反応を得ることができました。大きなスターが出演していたわけではなく、ただ僕たちの仲間たちが集まった回だった。それでも多くの人に見てもらえたことで、「場所や出演者に関係なく、Victory Lap Radioそのものに興味を持ってくれている人がいる」と実感できたんです。だからこそ、あの回は個人的にとても大切なエピソードですね。


この先シーンがどこへ向かっていくのかとても楽しみですし、その中でVictory Lap Radioが何らかの役割を果たせていることを嬉しく思っています

近年のUKヒップホップシーンの現在地に迫る

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グライムやドリル、さらには近年のUKアンダーグラウンドなど、ここ数年でUKラップシーンは世界的な注目を集めています。現在のUKラップについて、どのように捉えていますか?

今のUKラップは、これまで以上に実験的なフェーズに入っていると思います。以前はグライム、あるいはドリルといった特定のジャンルで知られる時代がありましたが、今はもっと多様な音楽が生まれています。例えばジャークやジャジーなビートの上でラップするアーティストもいれば、ドリルをベースにしたサウンドを進化させているアーティストもいる。そうした新しい世代の試みが、世界中のリスナーの関心を集めているのだと思います。また、今のシーンで面白いのは、以前よりもアーティスト同士のサポートが生まれていることです。昔は「大きくなれるラッパーは1人だけ」といった雰囲気があり、競争や分断も強かった。ただ、現在はチャンスやリソースが増えたことで、「誰もが成功する余地がある」という認識が広がってきています。その結果、スタイルやサウンドの異なる多様なアーティストが共存するシーンになっています。Victory Lap Radioも、そうした異なるバックグラウンドや音楽性を持つアーティストが同じ空間に集まれる場所でありたいと思っています。今はUKラップにとって、これまでで最も大きな瞬間と言えるかもしれません。国際的な注目度やビジネス面、カルチャーとしての影響力を含めても、これほど盛り上がっている時期はないと思います。だからこそ、この先シーンがどこへ向かっていくのかとても楽しみですし、その中でVictory Lap Radioが何らかの役割を果たせていることを嬉しく思っています。

Victory Lap Radioを通して多くのアーティストを紹介してきたと思いますが、今後特に注目しているアーティストはいますか?

まず名前を挙げたいのはFinessekid(フィネッセ・キッド)ですね。かなり早い段階でVictory Lap Radioに出演してくれたアーティストですが、その後すぐにスケプタやLancey Foux(ランシー・フォークス)などとコラボレーションするようになりました。ラップのスキルはもちろん、アーティストとしての総合力という意味でも、将来的にはスーパースターになる可能性があると思っています。

それからJim Legxacy(ジム・レガシー)も挙げたいですね。アンダーグラウンドというわけではありませんが、ロンドンのシーンにとって非常にユニークな存在です。彼のサウンドや表現は、他の誰とも比較できない独自性がある。すでに評価は高まっていますが、まだキャリアの序盤にいると思っていて、いずれは世界的な名前になるはずです。

Victory Lap Radioの初期から関わっているアーティストとしてはkwes e(クウェズ・イー)もいます。最近になってツアーを回ったり、大きな楽曲をリリースしたりと、ようやく本格的にキャリアが動き出してきました。アートに対するこだわりも強いので、数年後にはかなり面白いポジションにいると思います。

また、ジョニーノも注目しているアーティストの1人です。UKラップの中でもアーティスティックでオルタナティブな方向性を持ちながら、グライムのエッセンスを未来的なサウンドへと昇華させている。今後さらに大きな成功を収める可能性があると思います。

BlazeYL(ブレイズYL)も面白い存在ですね。ロンドンのシーンに突然現れたような存在ですが、UKのカルチャーや歴史に根ざしながらも、2026年のサウンドのように感じられる非常にモダンな音を作っています。過去を再現するのではなく、まったく新しいものを提示しているところが魅力です。

女性アーティストで言えばLedbyherも素晴らしいですね。ここ1年で大きく注目を集めていて、SINN6R(シナー)とのコラボレーションや『Boiler Room』への出演などを通して、すでに国際的な広がりを見せ始めています。

そしてもう1人、Luchï(ルッチ)という東ロンドン出身の若いラッパーも挙げたいです。まだ自分のサウンドを模索している段階ではありますが、ラップスキルと才能は本当に素晴らしい。これからの成長がとても楽しみなアーティストですね。

Victory Lap Radioは、『YouTube』をプラットフォームとする一方で、ブランドやリテーラーと協働したイベントも開催しています。そうした取り組みはどのように実現しているのでしょうか?

ブランドからコラボレーションの相談を受けることは多いのですが、僕たちはかなり慎重にパートナーを選んでいます。Victory Lap Radioのカルチャーと本当に相性が良いと思えるブランドとしか一緒にやらないようにしているんです。特に意識しているのは、ファンにとって意味のある瞬間を作れるかどうかですね。例えば、ブランドと協力して無料のイベントを開催し、ファンが好きなラッパーを間近で見られるような機会を作る。さらにそこにアンダーグラウンドのアーティストをサポートアクトとして出演させることができれば、シーン全体にも還元できます。NikeやJordan Brand、Levi’sといったカルチャーへの理解があるブランドであれば、彼らの資金やリソースを活用してアーティストやコミュニティにプラスになるイベントを作ることができます。僕自身、若い頃は無料イベントで好きなラッパーを観ることができた経験に大きな影響を受けました。だからこそ、チケットを買えない若い人たちでもカルチャーに触れられる場を作ることはとても大切だと思っています。そうした瞬間を生み出すことも、Victory Lap Radioの役割の一つだと思います。

実際に開催したイベントでは、どのような反応を感じていますか?

以前、ストラトフォードにある『Foot Locker』でストアイベントを開催したことがあるのですが、入場を無料にしました。その影響もあってか多くの若いファンが集まってくれて。特にSINN6R(シナー) を見られることにすごく興奮していたのが印象的でした。ストアのような身近な場所で、自分の好きなラッパーを間近で見られる。そういう体験は、ファンにとって特別な瞬間になると思うんです。そして、その機会をVictory Lap Radioが作ることができたということが、僕にとっても嬉しいことでした。僕自身もロンドンで育つ中で、そうしたイベントに参加することで大きな刺激を受けてきました。だからこそ、今度は自分たちが若い世代やファンのために、同じような機会を作り続けていきたいと思っています。

これまで多くのブランドとコラボレーションしていますが、やはり印象的なのがCorteizとの取り組みです。改めて、どのような経緯でコラボレーションが実現したのでしょうか?

Corteizがまだ立ち上がったばかりの頃、彼らはロンドンの『Bankrupt Store』で最初のポップアップを開催しました。当時、僕はその店で働いていたので、ブランドのスタートを間近で見ていたんです。そこから彼らがここまで成長し、今では世界でも有数のストリートウェアブランドになったのは本当にすごいことだと思います。Victory Lap RadioとCorteizの関係は、同じロンドンのコミュニティから自然に生まれたものです。ロンドンは大きな都市ですが、UKラップやストリートウェアといったクリエイティブなシーンでは人とのつながりが重なり合うことが多い。僕自身もブランドを率いるClint(クリント)をはじめ、チームのメンバーとは以前から顔見知りでした。だからこそ、コラボレーションはとても自然な流れだったと思います。Corteizは、NikeやSupremeのような文脈に理解のあるブランド以外とはあまりコラボレーションをしないことで知られていますが、Victory Lap Radioは彼らのブランドが始まった頃の精神に近いものを持っていると感じてくれたのだと思います。彼らも最初は友人たちと一緒にブランドを作り上げていったし、Victory Lap Radioも同じように仲間たちと作ってきたプロジェクトです。そうした共通点があったからこそ、一緒に何かを作ることになったのだと思います。昨年はスケプタが出演したエピソードなどでも協力する機会がありました。これからもお互いに成長していく中で、関係を続けていけたら嬉しいですね。

最近では、25人以上のラッパーのフリースタイルを収録した短編映画「Training Mode」も話題になりました。このプロジェクトはどのように生まれたのでしょうか?

『Training Mode』は、実は何年も前からやりたいと思っていた企画でした。ただ当時は、実現するためのリソースや環境がまだ整っていなかったんです。Victory Lap Radio自体もグライムのサイファー文化から強く影響を受けていますが、僕たちは単に過去のスタイルを再現するのではなく、常に現代的な形にアップデートしたいと考えてきました。今は実験的なサウンドや新しい世代のアーティストが増えているので、UKカルチャーにとって重要だったフォーマットをベースにしながら、2026年のシーンに合う形に再構築したかったんです。『Training Mode』は、そうした考え方から生まれました。インスピレーション源の一つは、かつて多くの人が見ていたグライムのDVDシリーズです。ストリートやスタジオでのフリースタイル、アーティストの日常や舞台裏など、彼らのリアルな姿が映し出されていました。今はSNSの影響もあって、アーティストが常に“見られる存在”として振る舞う場面も多いですが、このプロジェクトではもっと人間的な側面や背景を見せたかった。ドキュメンタリーに近い、少し長尺でアーティスティックな映像にしたのもそのためです。制作にはおよそ1年を費やしましたし、多くのアーティストが参加してくれました。音楽だけでなく、彼らがどんな人物なのか、どんな背景を持っているのかといった部分まで伝えられる作品になったと思います。

日本のファンが作品を観られる機会はありますか?

もちろんです。実はもうすぐオンラインで公開する予定なんです。これまではまずロンドンでのシネマプレミアに限定していました。というのも、無料イベントとしてファンに来てもらい、いち早く作品を観てもらう場を作りたかったからです。ただ同時に、ロンドン以外、特に海外からの関心が非常に高まっているのも感じています。UKカルチャーに興味を持つインターナショナルのファンから「オンラインで公開してほしい」という声を多くもらっているんです。正確なタイミングはまだ言えませんが、もしかしたらこの記事が公開される頃には、YouTubeで視聴できるようになっているかもしれません。できるだけ多くの人に観てもらいたいと思っていますし、今のUKシーンで起きていることに興味を持っている人は世界中にいるはずですからね。日本のファンにもぜひ観てもらえたら嬉しいです。

フランスやドイツ、ブラジルなど、Victory Lap Radioは各国で特別エピソードを制作しています。言語やカルチャーが異なる中で、どのような基準で開催地を選んでいるのでしょうか?また、次の開催地の予定についても教えてください。

初めてマーチャンダイズをドロップしたとき、世界中から反響があったことに驚いたんです。これまでUKの音楽は、今ほど国際的な広がりを持っていなかった印象があったので、想像以上に海外のファンがいることに気づきました。その経験から思ったのは、言語や文化が違いはあれど、どの国にも独自のローカルシーンがあるということです。新しいアンダーグラウンドのアーティスト、地元のレジェンド、そしてスターたちが存在する。Victory Lap Radioのフォーマットは、そうしたシーンがある場所であればどこでも成立するものだと思っています。これまでにも、ブラジルのサンパウロ、ドイツのベルリン、フランスのパリでエピソードを制作してきました。さらに直近ではポルトガルのリスボンで収録しています。今月にはスペインのマドリードでも撮影を行う予定ですね。そして、今後ぜひ実現したい場所のひとつが東京です。日本は以前から僕たちにとって重要なインスピレーション源で、デザインやビジュアルの面でも影響を受けています。実際に日本のアーティストを紹介したこともありますし、日本にもアンダーグラウンドの新世代、シーンを築いてきたレジェンド、そして新しいスターがいることを知っています。

Victory Lap Radioはロンドン発のプロジェクトなので、もちろんロンドンのエピソードはこれからも続けていきます。ただ同時に、世界各地のシーンにスポットライトを当てることも重要だと思っています。ロンドンのリスナーに「世界の別の場所ではこんな音楽が生まれている」と伝えることは、シーン全体にとって大きな意味がある。最近はリスナーの感覚も変わってきていて、UKやアメリカの音楽だけでなく、さまざまな国の音楽に自然と耳を傾けるようになっています。だからこそ、これからも世界中を巡りながらVictory Lap Radioのエピソードを制作していきたいと思っています。

近年、日本でもUKラップへの関心が高まっています。実際にセントラル・シーをはじめとするUKアーティストが来日公演を行う機会も増えていますが、この動きはUKヒップホップシーンにとってどのような意味を持つのでしょうか?

UKラップがこれまで以上に国際的な注目を集めているということだと思います。以前は、UKのラッパーが日本に行ってライブをするというのはそれほど簡単なことではありませんでした。でも最近は、ツアーやライブで日本を訪れたアーティストたちが「日本はやばい」「ファンがとても熱心だ」と話すことが増えているんです。例えばアシュベックやBxksのようなアーティストが日本でパフォーマンスをして戻ってくると、現地のファンがUKの音楽にどれだけ関心を持っているかをよく聞きます。日本のリスナーは、UKで起きていることを本当によく理解していて、シーンに対する感度が高いと感じますね。それに、日本という国自体が長い間カルチャーの発信地として世界に影響を与えてきました。ファッションや音楽、映画、テレビなど、さまざまな分野で日本の文化は西洋のカルチャーとも密接に関わってきています。だからこそ、UKで新しいサウンドが生まれたとき、日本のリスナーがそれを自然に受け入れるのはとても納得がいくことなんです。ロンドンやUKのアーティストたちにとっても、日本のように音楽に対して強い情熱を持つ場所でパフォーマンスできることは大きな魅力です。僕たちは自分たちの音楽に誇りを持っていますし、その情熱を共有してくれる人たちがいるなら、世界中どこでも喜んで届けたいと思っています。そういう意味でも、日本は今、UKラップにとってとても重要な場所になっていると思いますし、多くのアーティストが実際に現地でパフォーマンスしたいと考えているはずです。

過去には日本のラッパー JumadibaがVictory Lap Radioに出演したこともありました。彼が出演した経緯を教えてください。

彼がロンドンに来ていたタイミングで、UKのアーティストであり僕たちとも関わりのあるSam Recks(サムレックス)と一緒に音楽制作をしていたんです。Samが「今、Jumadibaがロンドンにいるよ」と教えてくれて、それがきっかけでした。もともと名前はなんとなく知っていたんですが、改めて彼の音楽を聴いてみたら「これはVictory Lap Radioにぴったりだ」と思ったんです。これまで話してきたように、僕はずっとこの番組をロンドンだけに閉じたものにするのではなく、世界のアーティストとも交差する場所にしたいと考えていました。これまでもアメリカのアーティストが出演したことはありましたが、アメリカ以外の地域から参加したアーティストとしては、彼はかなり早いタイミングの存在でした。UKのラッパーと一緒にセッションすることで、ロンドンのシーンが海外のアーティストを受け入れるきっかけにもなりましたし、同時に彼自身がロンドンで認知される機会にもなったと思います。

彼の出演は、日本のアーティストにも大きな影響を与えたと思います。日本のシーンにとっても象徴的な瞬間だったのではないでしょうか。

本当にクールな出来事でしたね。僕たちがこれまで行ってきたコラボレーションは、どれも無理に作ったものではなく、自然な流れの中で実現してきたものなんです。Jumadibaの場合も同じで、彼がすでにサムレックスと一緒に制作していたことや、もともとUKの音楽に興味を持っていたこと、そして実際にロンドンに滞在していたことなど、すべてが自然につながっていました。だからこそ、Victory Lap Radioに出演することもとても自然な流れだったと思います。結果として、アメリカ以外の国から参加したアーティストとしては比較的早いタイミングの出演になりましたし、国際的なアーティストがどのようにこのフォーマットに参加できるのかを示す良い例にもなりました。

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ここ数年、UKラッパーと日本のラッパーによるコラボレーションが増えています。例えばJumadibaとSam Recksの楽曲『Better Days』や、AshbeckとIt-Worksによる『Shibuya』など、さまざまなプロジェクトが生まれています。こうした動きを、UK側からはどのように見ていますか?

実際、僕が日本のアーティストを知るきっかけの多くも、そうしたコラボレーションなんです。UKアーティストとの楽曲を通して初めて名前を知ることも多いですし、逆に日本のリスナーがアシュベックやAyrtn(エイトン)、サムレックスのようなUKアーティストを知るきっかけにもなっていると思います。そういう意味で、コラボレーションはとても自然な形のカルチャー交流ですよね。特に楽曲という形で残ることで、お互いのスタイルや個性がどのように混ざり合うのかをリスナーが感じ取ることができます。もちろん、最初に壁を越えるには誰かが一歩踏み出す必要があります。例えばサムが「Jumadibaと曲を作りたい」と考えたことがきっかけになり、その後に他のアーティスト同士のコラボレーションが生まれていく。そうやって少しずつシーン同士の距離が縮まっていくんだと思います。実際、こうした動きは日本に限ったものではありません。例えばBlanco(ブランコ)はブラジルのアーティストと頻繁に制作していますし、最近リスボンを訪れた際には、ロンドンでセッションを行う予定のポルトガルのプロデューサーとも出会いました。異なる国やカルチャーのアーティストがつながることで、新しい音楽が生まれる。そうした“橋”を作ることはとても重要だと思いますし、Victory Lap Radioの活動やラジオというフォーマットも、そうした交流を後押しする存在になれたら嬉しいですね。

最近はセントラルシーのようなメインストリームはもちろん、UKアンダーグラウンドのアーティストも国際的な注目を集めています。例えばEsDeeKidやFimiguerrero、Fake Mink、YTなど、次世代のアーティストも世界に広がり始めています。この流れをどのように見ていますか?

間違いなく、今がUKラップにとってこれまでで一番大きな瞬間だと思います。今名前が挙がったようなEsDeeKidやFimiguerrero、Fake Mink、YTのようなアーティストたちは、いまや海外でもソールドアウトのツアーを行うようになっています。彼らがキャリアを始めた頃は、イギリス国内でもここまで大きくなるとは想像されていなかったかもしれません。だからこそ、今起きていることはとても新鮮で、次の世代にとっても大きなインスピレーションになると思います。自分たちの音楽が、ローカルなシーンだけでなく国際的なレベルでも受け入れられる可能性があると示してくれているからです。例えば、かつては小さな会場でラップしていたアーティストが、今ではファッションブランドのイベントや大きな舞台に呼ばれるようになっている。そうした変化は、UKラップの可能性を広げています。彼らのようなアーティストが道を切り開くことで、これから登場する新しい世代のラッパーたちの夢や目標も、さらに大きなものになっていくはずです。今は本当にエキサイティングな時代だと思います。

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Victory Lap Radioを続けていくうえで、大切にしているコアな価値観や、絶対に譲らない原則はありますか?

言葉で完全に説明するのは少し難しいのですが、一番大事にしているのは「自分たちにとって正しいと感じることをする」という姿勢です。どれだけ有名なアーティストであっても、ただ名前が大きいという理由だけで出演してもらうことはありません。カルチャーに貢献していない人や、どこか作られた感じがするものには関わらないようにしています。Victory Lap Radioの核にあるのは、音楽やシーンに対してポジティブな影響を与えることです。僕たちの活動が、今起きているカルチャーを後押しし、次の世代のアーティストが活躍できるスペースを作ることにつながるなら、それが一番理想的だと思っています。もう一つ大切にしているのは、「売れたからやる」「お金のためにやる」という印象を与えないことです。僕たちは決して“セルアウト”したように見られたくない。常に意識しているのは、シーンを育てていくこと。例えるなら、植物に水をやるように、カルチャーが成長する環境を少しずつ整えていくことが、自分たちの役割だと思っています。

ロンドンにはさまざまなバックグラウンドを持つアーティストが集まり、互いに刺激し合う環境があります。そうした“コミュニティ”の存在は、UKヒップホップにとってどれほど重要なのでしょうか?

振り返ってみると、UKの音楽シーンは常に“プラットフォーム”とともに発展してきたと思います。例えばグライムやドリルが広がった背景には、それを支えるメディアや番組の存在がありました。具体的には、Lord of the Micsのようなバトル企画や、SBTV、Link Up TV、GRM Daily、GRIMEREPORTTVといったプラットフォームが、当時のアーティストを世に送り出す役割を果たしていました。さらにラジオ局で言えば、On The Radar RadioやRinse FMのような存在も重要でしたね。つまり、新しい音楽の波が生まれるときには、必ずそれを支える場所やメディアが存在していたんです。僕は、Victory Lap Radioが今のUKで起きている新しい波にとって、そうしたプラットフォームの一つになれたらいいと思っています。アーティスト同士が出会い、コラボレーションが生まれ、そしてそれをオーディエンスに届ける場所。音楽の時代と、それを支えるプラットフォームは常にセットで存在してきました。だからこそVictory Lap Radioもまた、今の世代のシーンを支える場になれたら嬉しいですね。

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今後のVictory Lap Radioとしての展望を教えてください。

これからは、活動の幅をさらに広げていきたいと考えています。もちろん、ラジオはこれからも僕たちの活動の中心であり続けます。ただ、それだけにとどまらず、いくつか新しい取り組みも計画しています。例えば、将来的にはレーベルとしての機能も持たせたいですね。すでにレコーディングスタジオも用意していて、プロデューサーとアーティストをつなげながら、楽曲制作そのものをサポートしていく構想があります。これまでのようにアーティストを紹介するだけでなく、音楽を生み出すプロセスにも関わり、彼らが次のレベルへ進む手助けをしたいんです。さらに、イベントやパーティーも増やしていきたいと思っています。ファンが好きなラッパーを間近で見られる機会を作ることは、僕たちにとっても大切なことです。そしてもう一つ大きな目標が、国際的な展開です。ロンドンのシーンを世界に紹介するだけでなく、各国のローカルシーンにもスポットライトを当てながら、ロンドンと世界をつなぐ“かけ橋”のような存在になれたらと思っています。2026年は、UKラップにとっても非常に重要な1年になるはずです。そして、Victory Lap Radioにとっても同じように大きな1年になると思います。いま進めている計画はどれもスケールの大きなものですし、多くのアーティストたちのビジョンとも重なっています。だからこそ、これからの展開にはとても期待しています。

これから音楽やカルチャーの世界に挑戦しようとしている若いクリエイターたちへメッセージをお願いします。

アーティストであれ、ブランドを始めたい人であれ、ラジオやDJに挑戦したい人であれ、一番大切なのは「とにかくやってみること」だと思います。多くの人が考えすぎてしまったり、自分にはできないと決めつけてしまったりしますが、Victory Lap Radioのストーリー自体が、身近にあるものを使って始めることの大切さを示していると思います。必ずしも高価な機材や多くの資金が必要なわけではありません。大事なのはアイデアと、一緒に何かを作ろうとする仲間の存在です。そうした人たちと集まり、まずは形にしてみることが重要なんです。ラッパーやプロデューサーを目指す人にとっても同じです。まずは実験すること、そして楽しむこと。夢を追うのはもちろん大切ですが、最初からお金や成功といった短期的なゴールだけを追いかけるべきではないと思います。自分が何が得意で、何が苦手なのかを試しながら見つけていく、そのプロセス自体を楽しむべきです。今は『Instagram』をはじめとするソーシャルメディアの影響で、「一夜にして成功する」というイメージが強くなっています。でも、今世界的に成功しているラッパーたちも、実際には長い時間をかけて努力し、技術を磨いてきています。外から見ると突然ブレイクしたように見えるだけなんです。だからこそ、焦らずにその過程を楽しんでほしい。友人たちと集まり、自分が本当に好きなことを見つけて、試行錯誤しながら続けていく。その途中で、きっと何か新しいものが生まれるはずです。

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最後に、Hypebeast Japanの読者へメッセージをお願いします。

一番伝えたいのは、2026年はぜひ日本に行きたいと思っています。もし実現すれば、日本の皆さんにUKのカルチャーやUKラッパーたちを紹介できたら嬉しいですね。僕たちがどこかの都市へ行くときは、単に自分たちのシーンを紹介するだけではなく、その場所で起きているカルチャーにも光を当てたいと思っています。僕たちのオーディエンスに日本のシーンを知ってもらうと同時に、日本のリスナーにもUKのシーンを楽しんでもらう。そうした双方向の関係を作ることが理想です。だからこそ、ロンドンと日本の都市の間に良い繋がりを築けたらと思っています。それがきっかけとなって、今後さらに多くのコラボレーションや新しい機会が生まれていけば最高ですね。日本に行くことができたら、皆さんが見たいと思うUKラッパーたちを連れて行きたいですし、同時に僕たち自身も日本のラッパーを知りたいと思っています。そうした交流を通して、両方のシーンにとって実りあるカルチャーの交換が生まれることを願っています。Victory Lap Radioとしても、日本の皆さんと直接つながれる日をとても楽しみにしています。

インタビュー終了後、東ロンドン・ダルストンのスタジオでは新たなエピソードの収録が行われた。気鋭のクリエイター 3Stacksによるロンドン在住アーティストにフォーカスを当てたビデオ・”Kino Vol.2”のリリースを記念し、Victory Lap Radioとコラボレーションが実現。YTやkews e、kareといった次世代アーティストが一本のマイクを回し合い、エネルギッシュなエピソードがまた一つ収録されることとなった。

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Victory Lap Radio
ロンドン発のプラットフォーム Victory Lap Radioは、仲間内のラジオセッションからスタートし、現在ではUKヒップホップの新たな動きを捉える存在へと発展している。その特徴は、商業性に依存しない“リアル”なスタンスにあり、アーティスト同士の自然な関係性やコミュニティの熱量をそのまま発信している点にある。近年は、セントラル・シーやデイブの国際的な活躍を背景に、UKヒップホップへの関心が世界的に高まっている。そうした中で、Victory Lap Radioはロンドン発のカルチャーを国内のみならず世界へ伝える役割を担っている。


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and integrate them seamlessly into the new content without adding new tags. Ensure the new content is fashion-related, written entirely in Japanese, and approximately 1500 words. Conclude with a “結論” section and a well-formatted “よくある質問” section. Avoid including an introduction or a note explaining the process.

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