Rewrite
ファッションと音楽は、互いに響き合いながら存在している。カルチャーを生きる者にとって、それは切り離すことのできないふたつの感覚であり、言葉以前の空気を共有するための手段でもある。時代が移ろうたびに、その関係性はかたちを変えながら更新されてきた。ある時代には、〈Vivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)〉がSex Pistols(セックス・ピストルズ)と共振するように鋭い輪郭を描き、またある時代には、Oasis(オアシス)が纏ったモッズコートやスポーツジャージが、ブリットポップの象徴となるように。かたちは変われど、両者は常にどこかで接続され、感覚の深部において結びつき続けている。
2025年にイタリアを代表するファッションブランド〈Jil Sander(ジル サンダー)〉のクリエイティブ・ディレクターに就任したシモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)。彼が手がける新たなプロジェクト「JIL SANDERL SOUND」は、そうした関係性を体現する試みのひとつだ。ファッションと音楽、その交差点にフォーカスした本プロジェクトは、ブランドが内包する純粋さと洗練を軸に、視覚と聴覚のあいだに潜む共鳴を探る。それは、直近2シーズンにおけるファッションショーの音楽演出にも明確に表れていると言える。2026年秋冬コレクションでは、アメリカの実験的エレクトロニック・ミュージシャン ローレル・ヘイロー(Laurel Halo)がサウンドを担当。その静謐で奥行きのある音像は、ブランドが持つ落ち着きと呼応し、静寂の美をより一層際立たせた。
今回のプロジェクトに際し発行したZINEにおいてシモーネは「音楽はフィルターを介さず感情を作り出せる、偉大なツールです。繊細な感性を持つ日本には、音楽への強い文化があります。そこには、いつも少しの魔法が宿っているようです」と語る。環境音楽の先駆者 吉村弘に象徴される日本のアンビエントは、日常の空間や自然の気配と結びつきながら、静かな余白を生み出してきた。環境に溶け込み、意識の外側に作用するそのあり方は、シモーネが作り出す装飾を削ぎ落とすことで本質へと迫るアプローチとリンクしているとも捉えられる。
今回「JIL SANDERL SOUND」の取り組みとして、『ジル サンダー銀座』にて往年の名レコードショップ『CISCO RECORDS』が期間限定で復活。同店へのオマージュとして、アイコニックなCISCOブルーで彩られた什器やタグ、特別仕様のショッピングバッグなど、当時の空間を再解釈したディテールが随所に落とし込まれている。会場内には、一部の作品を試聴できる4つのリスニングステーションを設置。さらに、日本発のBWVによるサウンドシステムを導入し、緻密に設計された音響環境が高い没入感を生み出す。ファッションと音楽が交差するこの空間は、まさに「JIL SANDERL SOUND」のプロジェクトに新たな視点をもたらしている。
本稿では、本イベントに際して来日していたシモーネ・ベロッティとローレル・ヘイローの言葉を辿りながら、ファッションと音楽が触れ合うその境界を見つめていく。
レコードショップとファッションストアという違いを意識するのではなく、ひとつの体験として受け取ってもらえるのが理想です
Hypebeast:「JIL SANDERL SOUND」は、どういったプロセスで生まれたプロジェクトなのでしょうか?
Simone Bellotti(以下、S):就任当初から、音楽とともに何かをつくりたいという思いは常にありました。そのアイデアを具体化するうえで大きな役割を果たしてくれたのが、ルッジェーロ・ピエトロマルキ(Ruggero Pietromarchi)の存在です。音楽、とりわけエレクトロニック・ミュージックの領域に深い知見を持っていて。彼を通じて多くの素晴らしいアーティストと出会うことができました。2026年秋冬コレクションでサウンドをお願いしたローレル・ヘイローもそのひとりです。彼女のようなアーティストと対話を重ねながらプロジェクトを形にしていけることを、とても誇りに思っています。また、音楽というもの自体がとても強い力を持っていると思います。とりわけ魅力的なのは、その即時性です。説明を必要とせず、ダイレクトに感情へと届く。その力強さがあるからこそ、私は音楽と向き合い続けたいと思っています。
確かに、その即応性は重要な要素ですね。
S:ええ。そして何より、こうした新しいチャプターをブランドとともにスタートするにあたって、周囲に素晴らしい人たちがいることをとても幸運に感じています。
ファッションブランドが“音”をここまで包括的に扱う意味を、どのように捉えていますか?
S:ひとつの“対話”だと捉えています。ファッションと音楽の最初の接点は、おそらく視覚的な側面にある。多くのミュージシャンやアーティストが、その装いによってアイコンとなってきたように、両者は常に新しい美学を共有しながら発展してきました。ただ、私自身がより関心を持っているのは、そうした表層的な関係というよりも、音楽が持つ心理的な側面です。音楽がどのように感情を伝達し、空間に作用するのか。その点に強く惹かれています。だからこそ、ローレルや、これまで協働してきたアーティストたちとともに、ショーにふさわしい空気や温度をいかに立ち上げるかを重視してきました。音楽は、ショーという体験を完成させるための重要な要素だと考えています。
過去2回のショーや今回の『CISCO RECORDS』との取り組みも踏まえて、音楽を「聴くもの」から「体験するもの」へと拡張する意図はありますか?
S:そうですね。音楽は、他者と時間や感情を共有するためのものでもあると思っています。コンサートで体感する音と、イヤフォンで個人的に聴く音では、まったく異なる体験が生まれますよね。だからこそ今回のような場で、多くの人が集い、同じ空間で音を共有することに大きな意味があると感じています。
デジタル化が進んだ現在において、あえてフィジカルなレコードショップを再現することをどう捉えていますか?
S:いまは誰もが常にオンラインでつながり、音楽にも瞬時にアクセスできる時代です。だからこそ、あえて時間をかけて音に向き合う体験には意味があると感じています。レコードを再生するという行為には、自然と集中が求められる。流し聴きではなく、意識的に音楽と対峙する時間が生まれるんです。デジタルのプレイリストのように無数の選択肢が受動的に流れてくるのとは異なり、アナログで音楽を聴くことは、自分の意思で選び取る行為でもある。アルゴリズムではなく、自らの判断で手に取る。そのプロセス自体に意味があると思います。それに、レコードには予期しない出会いがある。アーティスト名だけを頼りに手に取った作品が、針を落とした瞬間に新たな体験として立ち上がることもある。ストリーミングでは出会えない音も存在し、その偶然性や発見の感覚はいまでも特別なものです。もちろん、すべてが好みとは限らない。けれど、その“驚き”こそが、音楽の本質的な魅力のひとつなのだと思います。
Laurel Halo(以下、L):シモーネが話していたように、レコードをかけるという行為はひとつの“選択”だと思います。意識的に音楽と向き合うための行為であり、そのプロセス自体に意味がある。同時に、私たちはフィジカルな世界との接点を持ち続ける必要があるとも感じています。音楽やサウンドは、そもそも空気を伝わる振動として存在している、とても物理的なものですから。だからこそ、こうした空間で音を体験することには価値がある。デジタルでは得られない、身体的な感覚としての音楽をあらためて実感できる機会だと思います。
「服を見る場所」と「音楽を掘る場所」が重なることで、どのような新しい価値が生まれると考えていますか?
S:決して、ふたつの異なる空間として切り分けて見てほしいわけではありません。むしろ、それぞれが補完し合い、自然に溶け合う関係であってほしいと思っています。レコードショップとファッションストアという違いを意識するのではなく、ひとつの体験として受け取ってもらえるのが理想です。あたかも最初からそこにあったかのように、違和感なく共存している状態。外から見ると、いつもあるかのような状態だと嬉しいですね。
店舗の空間に馴染んでいますね。
S:そうですね。こうして才能ある人たちと協働し、自分たちの情熱を共有しながら形にできることは、最も理想的なことだと思っています。
今回の協業におけるレコードセレクションには、坂本龍一をはじめ、日本人アーティストの作品も多く見受けられました。日本の音楽に対して、どのような関心をお持ちなのでしょうか?
L:現代のアーティストで特に惹かれているのは、青葉市子ですね。彼女の音楽には、日本のさまざまな作品に通底する独特の感情が凝縮されていると感じています。アンビエントの領域ではChihei Hatakeyamaも好きですし、作曲家でいえば久石譲や武満徹には長く惹かれてきました。また、ススム・ヨコタや寺田創一といったエレクトロニック・ミュージックのアーティストたちも、とても重要な存在だと思っています。日本の音楽についてひとつ感じているのは、“空間”や“余白”、あるいは“気配”のようなものの扱い方です。もちろん日本には多様なスタイルや伝統があり、一概に語ることはできませんが、そうした感覚が音として立ち現れている点には強く惹かれます。一方で、そうした側面だけでは語れないのも日本の音楽の魅力です。たとえばシティポップのように、より開かれたポップネスやグルーヴを持つ音楽も素晴らしいですし、その多層性こそが日本の音楽の面白さだと感じています。
S:そうですね。最初に強く印象に残っている日本のアーティストは、やはり坂本龍一です。彼のアンビエント的なアプローチや、数々のサウンドトラックを通じて、その音楽に触れてきました。なかでも映画『レヴェナント:蘇えりし者』のサウンドは特に印象深く、作品自体も素晴らしいですが、音の使い方には強く惹かれました。最近だと、先ほどローレルから名前が上がったススム・ヨコタや吉村弘といったアーティストにも関心を広げています。数年前に来日した際、吉村弘のアルバム『Surround』をレコードで購入したのですが、その静謐なサウンドに強く引き込まれました。最近では、よりジャズに近い作品にも惹かれていて、坂元輝トリオのアルバムは特に素晴らしかったですね。また、Midori Hiranoの新譜や、武田和命のようなアーティストにも出会い、非常に刺激を受けています。こうして掘り下げていくと、日本の音楽シーンにはまだまだ発見があり、非常に豊かな広がりを持っていると感じますね。
L:日本で音楽を体験するうえで特に印象的なのは、その“深度”とリスペクトの強さです。音楽に対する向き合い方がとても丁寧で、文化としてしっかり根付いていると感じます。たとえば、DJのChee Shimizu(チー・シミズ)によるラジオ番組はとても素晴らしいですし、彼が手がけた書籍『Obscure Sound(オブスキュア・サウンド)』も印象的でした。自身の膨大でエソテリックなレコード・コレクションをまとめた内容で、ジャケットやレーベル情報を追体験できる構成になっていて、とても魅力的です。また、日本のレコードショップにも魅力を感じています。なかでも京都にある『Meditations』はお気に入りのひとつで、瞑想的な感覚を喚起する音楽にフォーカスしているのが特徴です。日本や中国、インドの伝統音楽から、現行のエレクトロニックやエクスペリメンタル・ミュージックまで幅広く扱っていて、京都を訪れるならぜひ足を運んでほしい場所ですね。こうした場所やアーティストに触れるたびに、日本の音楽文化の奥行きと豊かさをあらためて実感します。
数多くの日本のアーティストや場所の名前をお聞きできて嬉しいです。
L:『Meditations』のオーナーの潮田さんは、いつも素晴らしいリファレンスを共有してくれるんです。音楽的な視点だけでなく、その背景にあるストーリーや文脈まで含めて提示してくれるので、とても刺激を受けています。
2026年秋冬コレクションでは、サウンドにローレル・ヘイローさんを起用されています。彼女の音楽にどのような適合性を見出されたのでしょうか?
S:きっかけは、音楽プロジェクトのキュレーションを担うルッジェーロの存在でした。彼から彼女の音源をいくつか共有してもらい、初めてそのサウンドに触れたんです。実際に聴いたとき、まず強く惹かれたのは、そのスタイルの独自性でした。そしてショーのために彼女が用意してくれた楽曲を聴いた瞬間、自然と感情が動かされたのを覚えています。彼女の音楽は、いわゆるノイズ的な要素や多層的なサウンドを巧みに織り交ぜながら、同時にリズムが徐々に推進力を帯びていく。その構造がとても印象的でした。日常の中にあるような音の断片を想起させつつも、次第に高揚感を生み出していくバランス感覚が素晴らしい。さらに、瞑想的な静けさと、思わず身体を動かしたくなるような高揚感が同居している点にも惹かれました。深い没入感を伴いながらも、感情を開いていくような広がりがあるんです。ショーのラストで使用した楽曲は、彼女がジョン・ケイル(John Cale)と共作したものですが、そのサウンドと言葉は非常に力強く、同時に現代的な感覚を宿していました。こうした多様な要素をひとつに束ねながら、なおかつエレガントに成立させてしまう。そのバランスこそが、彼女の音楽に強い魅力を感じた理由です。
ローレル・ヘイローさんにとって、この話をいただいた時どのような心境だったのでしょうか?
L:まさに夢が実現したような出来事でした。同時に、とても光栄な機会でもあります。今回のプロジェクトは、長年コラボレーションを重ねてきたルッジェーロから声をかけてもらったことがきっかけでした。彼はミュージック・スーパーバイザーでありキュレーターとして、これまでにも私のコンサートを手がけてくれていて、そうした関係性のなかで今回の機会につながったことをとても嬉しく思っています。一方で、ランウェイショーにおける音楽は、コレクションのトーンや空気感を決定づける重要な要素でもあります。観る側がどのようにその服を理解し、どのようなダイナミクスを感じ取るか、そのフレームを形づくる役割を担っている。だからこそ、この仕事には大きな責任も伴うと感じていました。
「JIL SANDERL SOUND」は今後どのように進化していくプロジェクトだと捉えていますか?
S:まだ始まったばかりのプロジェクトですが、非常に良いスタートを切ることができたと感じています。今後はさらにスケールを広げながら、より多くの人々を巻き込んでいきたいですね。ファッションに限らず、異なる領域の人々にも開かれたプロジェクトへと発展していくことが理想ですし、そのなかで新しい対話や可能性が生まれていけばと思っています。また、若いアーティストたちをサポートできるような場として機能していくことも重要だと考えています。新しい才能が自然と交差し、次の表現へとつながっていく、そんなプラットフォームへと育てていきたいです。
JIL SANDERL SOUND
Jil Sanderのクリエイティブ・ディレクター シモーネ・ベロッティが手がける「JIL SANDERL SOUND」は、音楽をコレクションの空気感や解釈を形づくる重要な要素として位置づけている。同プロジェクトの一環として行われた『CISCO RECORDS』との取り組みにも見られるように、フィジカルな音楽体験にも着目。音を単に“聴くもの”ではなく、“体験するもの”として提示している。こうした試みを通じて、ファッションと音楽の境界を横断しながら、新たな表現の可能性を探っている。
Laurel Halo(ローレル・ヘイロー)
デトロイト出身の電子音楽家/プロデューサー。幼少期にクラシック音楽の教育を受け、ピアノやストリングスを基盤とした音楽的素養を持つ。アンビエントや実験的エレクトロニカを軸にしながら、近年はジャズや現代音楽的アプローチも取り入れ、没入感のある音響世界を構築。音楽は“聴く”というよりも“体験する”感覚に近く、幻想的で深いサウンドスケープによって国際的な評価を確立している。自身のレーベルAweも主宰。
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ファッションと音楽は、互いに響き合いながら存在している。カルチャーを生きる者にとって、それは切り離すことのできないふたつの感覚であり、言葉以前の空気を共有するための手段でもある。時代が移ろうたびに、その関係性はかたちを変えながら更新されてきた。ある時代には、〈Vivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)〉がSex Pistols(セックス・ピストルズ)と共振するように鋭い輪郭を描き、またある時代には、Oasis(オアシス)が纏ったモッズコートやスポーツジャージが、ブリットポップの象徴となるように。かたちは変われど、両者は常にどこかで接続され、感覚の深部において結びつき続けている。
2025年にイタリアを代表するファッションブランド〈Jil Sander(ジル サンダー)〉のクリエイティブ・ディレクターに就任したシモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)。彼が手がける新たなプロジェクト「JIL SANDERL SOUND」は、そうした関係性を体現する試みのひとつだ。ファッションと音楽、その交差点にフォーカスした本プロジェクトは、ブランドが内包する純粋さと洗練を軸に、視覚と聴覚のあいだに潜む共鳴を探る。それは、直近2シーズンにおけるファッションショーの音楽演出にも明確に表れていると言える。2026年秋冬コレクションでは、アメリカの実験的エレクトロニック・ミュージシャン ローレル・ヘイロー(Laurel Halo)がサウンドを担当。その静謐で奥行きのある音像は、ブランドが持つ落ち着きと呼応し、静寂の美をより一層際立たせた。
今回のプロジェクトに際し発行したZINEにおいてシモーネは「音楽はフィルターを介さず感情を作り出せる、偉大なツールです。繊細な感性を持つ日本には、音楽への強い文化があります。そこには、いつも少しの魔法が宿っているようです」と語る。環境音楽の先駆者 吉村弘に象徴される日本のアンビエントは、日常の空間や自然の気配と結びつきながら、静かな余白を生み出してきた。環境に溶け込み、意識の外側に作用するそのあり方は、シモーネが作り出す装飾を削ぎ落とすことで本質へと迫るアプローチとリンクしているとも捉えられる。
今回「JIL SANDERL SOUND」の取り組みとして、『ジル サンダー銀座』にて往年の名レコードショップ『CISCO RECORDS』が期間限定で復活。同店へのオマージュとして、アイコニックなCISCOブルーで彩られた什器やタグ、特別仕様のショッピングバッグなど、当時の空間を再解釈したディテールが随所に落とし込まれている。会場内には、一部の作品を試聴できる4つのリスニングステーションを設置。さらに、日本発のBWVによるサウンドシステムを導入し、緻密に設計された音響環境が高い没入感を生み出す。ファッションと音楽が交差するこの空間は、まさに「JIL SANDERL SOUND」のプロジェクトに新たな視点をもたらしている。
本稿では、本イベントに際して来日していたシモーネ・ベロッティとローレル・ヘイローの言葉を辿りながら、ファッションと音楽が触れ合うその境界を見つめていく。
レコードショップとファッションストアという違いを意識するのではなく、ひとつの体験として受け取ってもらえるのが理想です
Hypebeast:「JIL SANDERL SOUND」は、どういったプロセスで生まれたプロジェクトなのでしょうか?
Simone Bellotti(以下、S):就任当初から、音楽とともに何かをつくりたいという思いは常にありました。そのアイデアを具体化するうえで大きな役割を果たしてくれたのが、ルッジェーロ・ピエトロマルキ(Ruggero Pietromarchi)の存在です。音楽、とりわけエレクトロニック・ミュージックの領域に深い知見を持っていて。彼を通じて多くの素晴らしいアーティストと出会うことができました。2026年秋冬コレクションでサウンドをお願いしたローレル・ヘイローもそのひとりです。彼女のようなアーティストと対話を重ねながらプロジェクトを形にしていけることを、とても誇りに思っています。また、音楽というもの自体がとても強い力を持っていると思います。とりわけ魅力的なのは、その即時性です。説明を必要とせず、ダイレクトに感情へと届く。その力強さがあるからこそ、私は音楽と向き合い続けたいと思っています。
確かに、その即応性は重要な要素ですね。
S:ええ。そして何より、こうした新しいチャプターをブランドとともにスタートするにあたって、周囲に素晴らしい人たちがいることをとても幸運に感じています。
ファッションブランドが“音”をここまで包括的に扱う意味を、どのように捉えていますか?
S:ひとつの“対話”だと捉えています。ファッションと音楽の最初の接点は、おそらく視覚的な側面にある。多くのミュージシャンやアーティストが、その装いによってアイコンとなってきたように、両者は常に新しい美学を共有しながら発展してきました。ただ、私自身がより関心を持っているのは、そうした表層的な関係というよりも、音楽が持つ心理的な側面です。音楽がどのように感情を伝達し、空間に作用するのか。その点に強く惹かれています。だからこそ、ローレルや、これまで協働してきたアーティストたちとともに、ショーにふさわしい空気や温度をいかに立ち上げるかを重視してきました。音楽は、ショーという体験を完成させるための重要な要素だと考えています。
過去2回のショーや今回の『CISCO RECORDS』との取り組みも踏まえて、音楽を「聴くもの」から「体験するもの」へと拡張する意図はありますか?
S:そうですね。音楽は、他者と時間や感情を共有するためのものでもあると思っています。コンサートで体感する音と、イヤフォンで個人的に聴く音では、まったく異なる体験が生まれますよね。だからこそ今回のような場で、多くの人が集い、同じ空間で音を共有することに大きな意味があると感じています。
デジタル化が進んだ現在において、あえてフィジカルなレコードショップを再現することをどう捉えていますか?
S:いまは誰もが常にオンラインでつながり、音楽にも瞬時にアクセスできる時代です。だからこそ、あえて時間をかけて音に向き合う体験には意味があると感じています。レコードを再生するという行為には、自然と集中が求められる。流し聴きではなく、意識的に音楽と対峙する時間が生まれるんです。デジタルのプレイリストのように無数の選択肢が受動的に流れてくるのとは異なり、アナログで音楽を聴くことは、自分の意思で選び取る行為でもある。アルゴリズムではなく、自らの判断で手に取る。そのプロセス自体に意味があると思います。それに、レコードには予期しない出会いがある。アーティスト名だけを頼りに手に取った作品が、針を落とした瞬間に新たな体験として立ち上がることもある。ストリーミングでは出会えない音も存在し、その偶然性や発見の感覚はいまでも特別なものです。もちろん、すべてが好みとは限らない。けれど、その“驚き”こそが、音楽の本質的な魅力のひとつなのだと思います。
Laurel Halo(以下、L):シモーネが話していたように、レコードをかけるという行為はひとつの“選択”だと思います。意識的に音楽と向き合うための行為であり、そのプロセス自体に意味がある。同時に、私たちはフィジカルな世界との接点を持ち続ける必要があるとも感じています。音楽やサウンドは、そもそも空気を伝わる振動として存在している、とても物理的なものですから。だからこそ、こうした空間で音を体験することには価値がある。デジタルでは得られない、身体的な感覚としての音楽をあらためて実感できる機会だと思います。
「服を見る場所」と「音楽を掘る場所」が重なることで、どのような新しい価値が生まれると考えていますか?
S:決して、ふたつの異なる空間として切り分けて見てほしいわけではありません。むしろ、それぞれが補完し合い、自然に溶け合う関係であってほしいと思っています。レコードショップとファッションストアという違いを意識するのではなく、ひとつの体験として受け取ってもらえるのが理想です。あたかも最初からそこにあったかのように、違和感なく共存している状態。外から見ると、いつもあるかのような状態だと嬉しいですね。
店舗の空間に馴染んでいますね。
S:そうですね。こうして才能ある人たちと協働し、自分たちの情熱を共有しながら形にできることは、最も理想的なことだと思っています。
今回の協業におけるレコードセレクションには、坂本龍一をはじめ、日本人アーティストの作品も多く見受けられました。日本の音楽に対して、どのような関心をお持ちなのでしょうか?
L:現代のアーティストで特に惹かれているのは、青葉市子ですね。彼女の音楽には、日本のさまざまな作品に通底する独特の感情が凝縮されていると感じています。アンビエントの領域ではChihei Hatakeyamaも好きですし、作曲家でいえば久石譲や武満徹には長く惹かれてきました。また、ススム・ヨコタや寺田創一といったエレクトロニック・ミュージックのアーティストたちも、とても重要な存在だと思っています。日本の音楽についてひとつ感じているのは、“空間”や“余白”、あるいは“気配”のようなものの扱い方です。もちろん日本には多様なスタイルや伝統があり、一概に語ることはできませんが、そうした感覚が音として立ち現れている点には強く惹かれます。一方で、そうした側面だけでは語れないのも日本の音楽の魅力です。たとえばシティポップのように、より開かれたポップネスやグルーヴを持つ音楽も素晴らしいですし、その多層性こそが日本の音楽の面白さだと感じています。
S:そうですね。最初に強く印象に残っている日本のアーティストは、やはり坂本龍一です。彼のアンビエント的なアプローチや、数々のサウンドトラックを通じて、その音楽に触れてきました。なかでも映画『レヴェナント:蘇えりし者』のサウンドは特に印象深く、作品自体も素晴らしいですが、音の使い方には強く惹かれました。最近だと、先ほどローレルから名前が上がったススム・ヨコタや吉村弘といったアーティストにも関心を広げています。数年前に来日した際、吉村弘のアルバム『Surround』をレコードで購入したのですが、その静謐なサウンドに強く引き込まれました。最近では、よりジャズに近い作品にも惹かれていて、坂元輝トリオのアルバムは特に素晴らしかったですね。また、Midori Hiranoの新譜や、武田和命のようなアーティストにも出会い、非常に刺激を受けています。こうして掘り下げていくと、日本の音楽シーンにはまだまだ発見があり、非常に豊かな広がりを持っていると感じますね。
L:日本で音楽を体験するうえで特に印象的なのは、その“深度”とリスペクトの強さです。音楽に対する向き合い方がとても丁寧で、文化としてしっかり根付いていると感じます。たとえば、DJのChee Shimizu(チー・シミズ)によるラジオ番組はとても素晴らしいですし、彼が手がけた書籍『Obscure Sound(オブスキュア・サウンド)』も印象的でした。自身の膨大でエソテリックなレコード・コレクションをまとめた内容で、ジャケットやレーベル情報を追体験できる構成になっていて、とても魅力的です。また、日本のレコードショップにも魅力を感じています。なかでも京都にある『Meditations』はお気に入りのひとつで、瞑想的な感覚を喚起する音楽にフォーカスしているのが特徴です。日本や中国、インドの伝統音楽から、現行のエレクトロニックやエクスペリメンタル・ミュージックまで幅広く扱っていて、京都を訪れるならぜひ足を運んでほしい場所ですね。こうした場所やアーティストに触れるたびに、日本の音楽文化の奥行きと豊かさをあらためて実感します。
数多くの日本のアーティストや場所の名前をお聞きできて嬉しいです。
L:『Meditations』のオーナーの潮田さんは、いつも素晴らしいリファレンスを共有してくれるんです。音楽的な視点だけでなく、その背景にあるストーリーや文脈まで含めて提示してくれるので、とても刺激を受けています。
2026年秋冬コレクションでは、サウンドにローレル・ヘイローさんを起用されています。彼女の音楽にどのような適合性を見出されたのでしょうか?
S:きっかけは、音楽プロジェクトのキュレーションを担うルッジェーロの存在でした。彼から彼女の音源をいくつか共有してもらい、初めてそのサウンドに触れたんです。実際に聴いたとき、まず強く惹かれたのは、そのスタイルの独自性でした。そしてショーのために彼女が用意してくれた楽曲を聴いた瞬間、自然と感情が動かされたのを覚えています。彼女の音楽は、いわゆるノイズ的な要素や多層的なサウンドを巧みに織り交ぜながら、同時にリズムが徐々に推進力を帯びていく。その構造がとても印象的でした。日常の中にあるような音の断片を想起させつつも、次第に高揚感を生み出していくバランス感覚が素晴らしい。さらに、瞑想的な静けさと、思わず身体を動かしたくなるような高揚感が同居している点にも惹かれました。深い没入感を伴いながらも、感情を開いていくような広がりがあるんです。ショーのラストで使用した楽曲は、彼女がジョン・ケイル(John Cale)と共作したものですが、そのサウンドと言葉は非常に力強く、同時に現代的な感覚を宿していました。こうした多様な要素をひとつに束ねながら、なおかつエレガントに成立させてしまう。そのバランスこそが、彼女の音楽に強い魅力を感じた理由です。
ローレル・ヘイローさんにとって、この話をいただいた時どのような心境だったのでしょうか?
L:まさに夢が実現したような出来事でした。同時に、とても光栄な機会でもあります。今回のプロジェクトは、長年コラボレーションを重ねてきたルッジェーロから声をかけてもらったことがきっかけでした。彼はミュージック・スーパーバイザーでありキュレーターとして、これまでにも私のコンサートを手がけてくれていて、そうした関係性のなかで今回の機会につながったことをとても嬉しく思っています。一方で、ランウェイショーにおける音楽は、コレクションのトーンや空気感を決定づける重要な要素でもあります。観る側がどのようにその服を理解し、どのようなダイナミクスを感じ取るか、そのフレームを形づくる役割を担っている。だからこそ、この仕事には大きな責任も伴うと感じていました。
「JIL SANDERL SOUND」は今後どのように進化していくプロジェクトだと捉えていますか?
S:まだ始まったばかりのプロジェクトですが、非常に良いスタートを切ることができたと感じています。今後はさらにスケールを広げながら、より多くの人々を巻き込んでいきたいですね。ファッションに限らず、異なる領域の人々にも開かれたプロジェクトへと発展していくことが理想ですし、そのなかで新しい対話や可能性が生まれていけばと思っています。また、若いアーティストたちをサポートできるような場として機能していくことも重要だと考えています。新しい才能が自然と交差し、次の表現へとつながっていく、そんなプラットフォームへと育てていきたいです。
JIL SANDERL SOUND
Jil Sanderのクリエイティブ・ディレクター シモーネ・ベロッティが手がける「JIL SANDERL SOUND」は、音楽をコレクションの空気感や解釈を形づくる重要な要素として位置づけている。同プロジェクトの一環として行われた『CISCO RECORDS』との取り組みにも見られるように、フィジカルな音楽体験にも着目。音を単に“聴くもの”ではなく、“体験するもの”として提示している。こうした試みを通じて、ファッションと音楽の境界を横断しながら、新たな表現の可能性を探っている。
Laurel Halo(ローレル・ヘイロー)
デトロイト出身の電子音楽家/プロデューサー。幼少期にクラシック音楽の教育を受け、ピアノやストリングスを基盤とした音楽的素養を持つ。アンビエントや実験的エレクトロニカを軸にしながら、近年はジャズや現代音楽的アプローチも取り入れ、没入感のある音響世界を構築。音楽は“聴く”というよりも“体験する”感覚に近く、幻想的で深いサウンドスケープによって国際的な評価を確立している。自身のレーベルAweも主宰。
and integrate them seamlessly into the new content without adding new tags. Ensure the new content is fashion-related, written entirely in Japanese, and approximately 1500 words. Conclude with a “結論” section and a well-formatted “よくある質問” section. Avoid including an introduction or a note explaining the process.









