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前野健太の最新ミュージックビデオを手がけた、 UNDERCOVER PRODUCTIONとは?

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現代における新しいフォークの表現者として、高い評価を得ているシンガーソングライター前野健太。そんな彼の最新アルバム「サクラ」から、7インチシングルカットされた「夏を洗い流したらまた」のミュージックビデオが話題を呼びそうだ。

なぜなら、その制作を手がけたのは高橋盾さん率いる〈UNDERCOVER PRODUCTION〉。長年、“ジョニオ”さんとともに様々なクリエーションをともに手がけてきたアートディレクター永戸鉄也さん、フォトグラファーの水谷太郎さん、守本勝英さんが中心となり、既存の枠にとどまらない広告や映像などの制作を目指すために発足したばかりの新しいクリエイティブチームだ。

そこで、ここでは注目のミュージックビデオの公開に合わせて制作チームの主要メンバーである4人が登場。撮影時のエピソードから、スタートしたばかりの〈UNDERCOVER PRODUCTION〉の全貌やこれからの展望までをじっくり語っていただいた。

UNDERCOVERデザイナー 高橋盾

-まずは、〈UNDERCOVER PRODUCTION〉の記念すべき最初のクリエーションが前野健太さんのPVになった経緯から聞かせていただけますか?

水谷太郎(以下/水谷):〈UNDERCOVER PRODUCTION〉自体の話が持ち上がったのは去年の年末か年明けくらい。それぞれがファッションのフィールドでキャリアを積んできたなかで、一緒にチームを作ってこれまでとは全然違う動きをやっていけたら面白いんじゃないかというところからスタートしたんですけど、実際にプロジェクトを立ち上げて、じゃあ最初の仕事を何にしようというところまでは実は決めきれていなくて。そんなときに、10月のアンダーカバー京都店のオープニングイベントに前野健太さん(以下マエケン)が出てくれることになって、その流れのなかで僕らがこういう動きをしているというのを彼らサイドに何気なく話したら「ぜひ作ってもらいたい」と。で、そこから「ジョニオさんどうですか?」、「いやいや、やるでしょ」という感じで一気に話が進んでいった感じですね。

フォトグラファー 水谷太郎

高橋盾(以下/高橋):当然ミュージシャンなら誰でもよかったわけではなく、マエケンが持つバランスというのがちょうどいいなと感じたからです。

-今回のPVは全編ジョニオさんの地元である桐生で撮られたそうですが、それは〈UNDERCOVER PRODUCTION〉の最初のクリエーションであることも加味した上でのセレクトだったのでしょうか?

高橋:いや、それはストーリーを考えていくなかでたまたま桐生になったというだけです。例えばこういう団地で撮りたい、自然でも撮りたい、さびれた中華料理屋なんかでも撮りたいなんていうアイデアが出てきたときに、桐生ならそういう場所が狭いエリアのなかに色々とあって、かつ融通がきいていいなと。

水谷:マエケンというミュージシャンが、いわゆる昭和っぽさや日本の昔ながらの歌謡曲の新しいバージョンみたいなものを作っているとして、僕らがそこにマッチするテイストとして一番最初に思いついたのがカラオケの後ろに流れている映像でした。ああいったものを自分たちが本気で作ったらすごく面白い映像になるんじゃないかと。ただ、ジョニオさんがさっき言ったようなロケーションのイメージを1つのパッケージングにして撮影をセッティングするのは、時間的にも費用的にも東京では相当難しいんです。

アートディレクター 永戸鉄也

永戸鉄也(以下/永戸):映像を見てもらえるとわかると思いますが、あのバリエーションのロケ地を、全部近い距離で、あれだけコンパクトに移動しながら撮れるところというのはなかなかないですからね。そういう意味で桐生がベストだったということです。

高橋:中華屋は俺が小さい頃から通ってる店だし、繊維工場は同級生の実家。土手は高校の頃に友達と集まってたところで、撮影に全面協力してくれたフィルムコミッションの担当者の人はうちの弟のバーベキュー仲間(笑)。だから本当に話が早かったですね。

-撮影スタッフやキャストのクレジットを見ると、やはり皆さんがこれまでいろんな作品を一緒に作って来られた方々の名前がずらっと並んでいて、非常に豪華なのに手作り感があるのがすごいなと思いました。浅野忠信さんも何気なく出演されていたり。

フォトグラファー 守本勝英

守本勝英(以下/守本):美術の(松本)千広くんに入ってもらって、照明も(森寺)テツくんにお願いしました。それに、椎名林檎さんのPVとかを撮られている映像ディレクターの番場(秀一)さんが千広くんの美術のアシスタントをしてくれたり、バックステージのドキュメントムービーを撮ってくれたり。

水谷:全員がちょっとずつ“仕事をまたいで”作っているというか。今回カメラを回したのはモーリ(守本)で、もちろん僕も撮影のサポートはするんだけれど、現場を仕切る監督もやるし制作もやる。ジョニオさんもそう。テツくんに照明の提案をしたり、スタイリストの(石井)大に衣装のアドバイスをしたり。

永戸:そうそう。誰かが頭に立って、とかではなく、みんなの考えをシェアしながら繋ぎ合わせていった感じです。みんなそれぞれが一流の仕事をしてきた人たちなわけだから、とにかく現場がすごくスムーズでしたね。

水谷:例えば「あ、なんかこれダメだな」と思ったときも、何がダメなのかがみんなのなかですぐに明確化されて、解決策がバンバン出てくるんです。

高橋:太郎にしてもモーリにしても鉄也くんにしても、みんなそれぞれのテイストがあるわけだけれど、それが集まって一つになりかけたところで俺が一度バン!とぶち壊すことで、良いフィルターがかかったりもするんです。

-それは、やはり皆さんがこれまでいろんな作品を一緒に作って来られた中で培ってきた感覚の共有があるからこそなんでしょうね。

永戸:それはもう基本というか、〈UNDERCOVER PRODUCTION〉そのものの根底にあるものだと思います。

水谷:そうですね。僕の中でこの〈UNDERCOVER PRODUCTION〉の一番のポイントって、やっぱり〈UNDERCOVER〉という名前を立てていることだと考えています。長年服作りで世界と勝負しながら自分でビジネスも組み立てているようにゼロベースで何かを作るジョニオさんと、逆に僕らのようにいろんなクライアントワークをしてきた人間が同じ立場に立って何かを作ろうとなったときに、これまでにないものができるんじゃないかというひとつの面白い実験だと思ってるんですよ。

高橋:俺としては洋服作りがもちろんメインだけど、その中でもこれまでみんなとは写真集とかルックとかいろいろ作ってきたわけです。その積み重ねもあったし、洋服以外の表現というところでは今後プロダクションとしてやっていこうとしている広告のデザインやグラフィックというのも自分の好きなジャンルではあったから。それでこの話が持ち上がったときに、うちが今までやってきたことをベースに新しいジャンルにアプローチしていく上で、このメンバーだったらすごく面白いことができそうだなというのが直感としてありました。そもそも、最初はモーリとzine を作りたいなって話をしてたんだよね。

守本:そうですね。わりと常に作りたいものがたくさんある方なんですけど(笑)、媒体側にプレゼンをして作らせてもらうのではなくて、逆に自分たちから何かを発信できるような媒体を作ろうという考えから始まって、そのためにはどうすべきかをいろいろ突き詰めていった結果、それはプロダクションじゃないかと。

水谷:そもそも〈UNDERCOVER〉というブランドが洋服だけを作ってきたブランドではないし、僕らも写真だけを撮っている技術屋じゃない。このプロダクションには、音楽や美術、カルチャーの間を縦横無尽に行き来しながら自分でアウトプットしている人たちが集まっていると思うので、そのあたりの立体感も強みなのかなと。今回は表現手法が映像っていうことになったけど、今後はそれが空間作りでも良いし、映画でも面白いなとは思います。

-そのようなスタンスで、皆さんがファッションやエディトリアルで培ってきたセンスをいわば広告やPVといったマスに落とし込んだときに、一般の視聴者がどう感じるかがとても楽しみです。

永戸:今回のマエケンのPVがどう見えるか、確かに楽しみではあります。

水谷:あの曲調で、日本が舞台になった男と女のストーリーで、なのに主人公が外国人で、しかも場所が桐生の街。ものすごい違和感とともにストーリーが展開していって、さらにそこから後半に向けて歪みのある描写に移っていきますからね。どうでしょうね(笑)。

守本:とはいえ今回の映像は、いわゆるシュールさだけではない、僕らそれぞれが持つポップな部分というのを反映しているつもりなので、その辺がどう受け取られるのかは気になりますね。

高橋:マエケンを好きで聴いてる人なら、おそらく今回のPVの世界観は理解してくれるんじゃないかなと思います。うちらがマエケンのことを好きになったのと同じ理由で。

永戸:自分たちのテイストを入れつつあの綺麗な歌をどう引き立たせるかと考えたときに、まずマエケン自身に驚いてもらいたいという気持ちはありましたね。で、最初になんとなく方向性を説明した時に本人がめちゃめちゃ驚いて喜んでくれたから、ああ、これで良いんだなと思ったところはあるかなと。

守本:そもそもマエケン自身がアイドル的な人気があるアーティストではないから、僕はこのPVをきっかけに彼の存在や彼の音楽の良さをもっと知ってほしいという気持ちもあります。

-今後の〈UNDERCOVER PRODUCTION〉の展望についても少しうかがえますか?

水谷:構想としては、まず今回のようなミュージックビデオを続けて数本作りたいですね。マエケンの次は逆にどメジャーなアーティストとか。で、3本目はさらにアンダーグラウンドな人をフックアップしてみたり。そうやってメジャーとアングラの間を自在に行き来しながら作れたら面白いなと。

高橋:だからといってなんでもやるわけではなく、PVならやっぱりその人の曲が本当に良いと思わないと絶対に作れない。そこのベースをクリアした上で、突き進む感じだね。

水谷:将来的なことを言うと、僕はクルマのCMとかに挑戦してみたいと思いますね。クルマって、例えば雨に濡れたボディのシズル感や生っぽさも魅力の一つだと思うんですけど、そういう僕らが「クルマってやっぱりいいよな」と思うポイントをCGではない描写で表現してみたりとか。

守本:散々プレゼンやミーティングを重ねた結果がCGになっているのももちろんわかった上で、自分たちが本当に良いと思う見せ方を提案し続ける、というところにトライしていきたい気持ちはありますね。

水谷:そうそう。今の時代ならではのコマーシャリズムの王道みたいなものがあったとして、常にそこの隙間を突いていきたいなと。

永戸:隙間がなくなっちゃうと、いろんなものからカルチャー的側面が薄くなっちゃうからね。それは写真にしてもファッションにもしても同じ。

-最後に、皆さんが今回のPV作りの過程で最も大切にしていたこと、あるいは今後のプロダクション活動において指針にしていきたいこととは?

永戸:やっぱりコミュニケーションじゃないですかね。

守本:そうですね。時間の共有度合いも含めて。

水谷:作り手が本当に良いと思うものをちゃんとアウトプットしていくためにも極めて重要ですね。最近はそこが欠落しているというか。あの人が良いと言っているから、こういうものが今流行っているから、といったように表層的なコミュニケーションだけで決められている事柄が多いように思うので。

高橋:それと、作り手が本当に楽しんで作っているかどうか。俺らが大きな影響を受けた70年代や80年代とかって、やっぱりいろんな作品にそれが顕著に現れていた。映画にしてもCMにしてもファッションにしても、刺激的な作品というのは生み出された現場そのものがものすごく楽しいものだったんじゃないかなと、今になってあらためて思います。

永戸:下の世代から、あの人たちバカだな、やべえな、でも本当に楽しそうだなと思われるような仕事をしたいなとは思いますよね。

水谷:それこそ僕らが若い頃に見てたジョニオさんたちの世代も、まさにそんな感じでしたからね。

高橋:そういう意味では久々に今回のPVの現場は本当に楽しかった。これまでの現場でベスト5に入るくらい。これからもそういう現場感のあるモノ作りがしたいし、かつ日本人のこのチームでしかできないものにしたい。何っぽくもない、完全なオリジナルで。それをワールドワイドな規模でやれたらいいですね。

Text_Kai Tokuhara
Photo_Shuhei Kojima


UNDERCOVER PRODUCTION
www.undercoverproduction.com

Source: フィナム

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