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ファッションには「役割」がある。その役割を必要とする人たちがいるから、ジャンルが成り立ち、マーケットが成り立つ。近年、スポーツウェアはファッションの中で明確な役割を獲得してきた。アウトドアや競技のために設計された服は、いまやタウンウェアとして日常を支え、ビジネスの面でも確かな成果を上げている。
象徴的なブランドが「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」だ。2025年3月期には、同ブランドの売上高が1000億円を突破。機能性や快適性を備えたスポーツウェアは、もはや特定の消費者のニーズではなく、都市生活のスタンダードとして受け入れられた。
同様に、ストリートウェアもまた役割を変えてきた。かつてはカルチャーや反抗の象徴だった服は、産業として成熟したジャンルに転換した。2010年設立の「ヒューマンメイド(HUMAN MADE)」は2025年に上場を果たし、時価総額が1000億円を超える瞬間もあった。ストリートウェア由来のブランドが市場から評価を受けるようになったことは、その位置づけが単なる流行の域を越え、持続可能なビジネスとして認識され始めていることを示している。
スポーツウェアもストリートウェアも、それぞれが「何を担う服なのか」を明確にし、市場の中で可視化されてきたが、一方でこうした文脈とは異なる場所に立つ服も存在している。
日常を支えるわけではない。大量に売れるわけでもない。実用やカルチャー消費の延長線にもない。それでも消えず、毎シーズン提示され続け、特定の人々から支持を受ける服がある。それらは、いまのファッションの中でどのような役割を担っているのだろうか。「ノワール ケイ ニノミヤ(noir kei ninomiya)」は、その問いを最も端的に突きつけてくるブランドのひとつである。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
トレンドや市場の動きから距離を取りながら、独自の造形と言語でコレクションを発表し続けている。その服は、着用や実用といった前提を軽々と越え、ファッションが持つ別の可能性を示唆しているようにも見える。
現在の「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」が「布」の造形に重きを置いているのに対し、ノワール ケイ ニノミヤは「布地以外」の素材も積極的に使い、服の可能性を探っている。ここでは、過去のコレクションの中からいくつかのルックをピックアップして観察し、同ブランドの服が、現代のファッションの中でどのような位置に立ち、どのような役割を担っているのかを考えていきたい。(文:AFFECTUS)
目次
幻想を設計するアーキテクトな星
「ジミーチュウ(JIMMY CHOO)」とのコラボレーションシューズを発表した2026年春夏コレクションは、「星」が重要なモチーフとなっていた。テーマは「Pure and playful」。煌びやかなプロダクトが、ショーの冒頭を飾った。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
チュール製のフレアシルエットのスカートには、銀色のトップスを合わせた。モチーフには、五芒星という伝統的な星の形をチョイス。メタルな質感の星は数珠つなぎで成形され、布地では表すことのできない硬質なシルエットを完成させている。
ティアードスカートにスタイリングしたのは、星を拡大解釈したようなトップス。星に似たモチーフを規則正しくつなぎ合わせ、線形が束状、あるいは1本ずつ飛び出すように設計されている。銀色の棒の先端には、五芒星が取り付けられており、まるで絵本から飛び出た星々のようだ。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
夜になれば星が見られるとは限らない。照明が煌々と灯る都市の上空では、星は夜空に紛れてしまう。しかし、一見真っ暗に見える空だとしても、そこには星がある。ある種人間の生き方にも通底するようなこんなメッセージを、ノワール ケイ ニノミヤはこのルックを通して打ち出したように思える。
全身ブラックのルックは、リアリティのあるテーラードの上から、工芸的なアイテムをレイヤードしている。先述したホワイトのルックと同様に、星型モチーフをつなぎ合わせた構造である。異なるのは、星モチーフのサイズだ。銀色のトップスよりも、一つひとつの星が遥かに巨大。見えないからといって、存在が小さいとは限らない。目に映らなくても、確かな質量を持つものもあるのだ。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
星モチーフを衣服状にするだけでなく、アクセサリーに仕立てる普遍的な手法も実践している。フリルをあしらったブラウスと、黒いバルーンスカートは、主張の多い造形の中で安心感をもたらす。
柔らかな服に、アクセントをつけるのが星のネックレス。ここでの星の役割は衣服を引き立てる装飾品だが、そのつくり方はモチーフを数珠つなぎにしたもので実に簡素だ。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
五芒星の枠組みは、安全ピンをつなぎ合わせたものだった。金銭的価値のある素材が、目を奪うアイテムをつくる。それが一般的な発想だろう。だが、ノワール ケイ ニノミヤの手法は逆だ。チープな素材で、華やかなアイテムを製作した。
2026年春夏コレクションは、星という幻想的なモチーフを扱いながらも、その見え方やつくられ方を一方向に固定しなかった点にデザインの妙がある。
連続するモチーフから生まれるダイナミズム
ノワール ケイ ニノミヤには、一瞬にして目を奪うデザインが登場する。2025年春夏コレクションは人間の体を抽象化し、発光するドレスを発表し、デザイナー二宮啓が持つアイデアの大胆さを示した。しかし、このコレクションで注目されるべきはこれだけではない。連続性だ。

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
それはファーストルックから明らかだった。バルーン状に膨張したシルエットは、テクノロジーの文脈で再解釈されたクリストバル・バレンシアガ(Cristóbal Balenciaga)が手掛けたドレスのよう。ただし、造形の構成方法でバレンシアガと異なる文脈的価値をつくっている。
バレンシアガに限ったことではないが、通常服は布地あるいは革など、フラットな要素をベースに形作られていくことが多い。しかしノワール ケイ ニノミヤは、球体という立体を連続させて、バルーンシルエットという服飾史に残る伝統の形を完成させた。

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
別のルックでも、モチーフの連続による視覚的圧力は生まれていた。白いラインのソックス・スニーカーと、足元だけを見ればスポーティだが、視線を上に移していくと、有機物の生成過程を思わせるシルエットが現れている。
ここで使用されているのは、 馬蹄形のようなU型の縁を、 赤くギザギザに縁取ったモチーフ。 それを大量につなぎ合わせ、 重ね合わせることで現代美術のインスタレーションを想起させる立体を完成させている。 複雑な技術と回路による機器が、 現代人の生活には欠かせない。 しかし二宮の発想は、 複雑さを手放すことで、 新しい「何か」が立ち上がる可能性を示している。

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
連続するモチーフは、ダイナミックな形だけではない。リアルなドレスの上にも現れる。赤いリップを塗った唇のようなモチーフが、黒いドレスの上で映える。ここでモチーフは、服を形作る主役ではなく、ブラックドレスを彩るアクセントとして用いられている。
ロングドレスに使用された、大きく開いた唇を連想させるモチーフは、マリリン・モンロー的な官能性が連なっているかのようだ。しかし、やかんを上下逆にしたようにも見えるヘッドウェアが、シュールさを注ぎ、その熱を冷ましている。

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
モチーフの連続性が、さらにコンパクト化したルックも登場した。今度はより日常的なデザインの服、カジュアルな装いに、モチーフが繰り返し使われている。ここで用いられたのは、黒いベルトだ。
両腕や肩周りを拘束する、あるいは体を硬くガードするように、ベルトがいくつも取り付けられている。これまで取り上げたルックと異なり、アイテムの印象はやや乱雑に映る。それは、垂れ下がるベルトによるものだろう。連続性というと、規則正しさを思い浮かべがちだが、ノワール ケイ ニノミヤは、そのセオリーから外れる。そこにこそ、新しさの種があるのだと伝えるように。
2025年春夏コレクションは、同じ形のモチーフを連続して使用することがデザインの核となっていた。あるルックはそれにより服の造形そのものをダイナミックに見せ、あるルックではリアルな服をダイナミックに見せる装飾として活用。小さな「モノ」でも、数と質によってクリエイションが成り立つことを、このコレクションは証明している。
色彩は装飾以上の意味を持つ
色は、服の性格を決定づける要素だ。明るい色を数多く使う、暗い色だけを使う。同じ服を発表したとしても、色が違えばコレクションは異なる印象になるだろう。ノワール ケイ ニノミヤが2024年秋冬コレクションで選んだのは「多色」だった。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
モデルの顔が判別できないほど、捻れたワイヤーが上半身を覆い尽くす。ワイヤーの色は、ホワイト・レッド・ブルー・グリーン・イエローと鮮やか。足元を彩る「リーボック(Reebok)」の「インスタポンプフューリー(INSTAPUMP FURY)」とのコラボスニーカーも、イエロー・レッド・ブラックと多色使いだ。ソックスも蛍光グリーンを選んでいる。捻れ、絡み合ったワイヤーによる特異な造形は、決して整ってはいない。それでも、どこか軽やかさを感じさせる。それはスポーティな足元と、カラフルな色彩が要因だろう。色は、造形そのものの意味を変える。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
チュールによるギャザーを重ねたトップスとスカートに、胸元にはカラフルなリングが配されている。もし、このアイテムがブラック一色なら、「シモーン・ロシャ(Simone Rocha)」や「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」の文脈に近い、静けさが滲む内向きの幻想性を帯びていたかもしれない。だが、一瞬で意識を引き寄せるイエローのスカート、インスタポンプフューリーのマルチカラーと白いソックスは、原宿の女の子たちが、モードを自分のものとして着こなし、そのままランウェイを歩いているかのような印象さえ抱かせた。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
両肩が隆起し、蚕の繭のように膨らむコートは、ペールトーンの綿毛が規則正しく取り付けられている。側面から見た際には、コートのボリュームが如実に見て取れる。黒い布地の上でゆらめく色とりどりの綿毛は、フォルムの輪郭と奥行きを強調。このコートは、服ではなく人間の体を新たにデザインしている。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
ショーの終盤に登場したルックの色彩は、教会の窓を飾るステンドグラスを想起させる。中世ゴシック建築で最盛期を迎えたこのガラスのアートは建築性と時代性を備えており、ショーを見る者はここで時間を遡る錯覚に襲われる。
2024年秋冬で浮かび上がったのは、色彩が装飾以上の意味を持つという事実だった。その作用を一言で表すなら、「横断」である。ノワール ケイ ニノミヤはカラフルな色を媒介に、スタイル、体、情報、時間を行き来してみせた。
ノワール ケイ ニノミヤが果たしている役割とは?
ファッションには、複数の役割がある。日常を支える服があり、生活の効率を高める服がある。スポーツウェアは都市生活のスタンダードとなり、ストリートウェアはカルチャーを越えて巨大な産業へと成長した。いま、ファッションは「何のための服か」がはっきりと問われる時代にある。
そうした中で、ノワール ケイ ニノミヤの服は、少し異なる場所に立っている。日常の代替にはならず、着用の快適さを最優先しているわけでもない。大量に売れる服でもなければ、流行をなぞる服でもない。それでも、このブランドは毎シーズン、確かな熱量を伴ってコレクションを発表し続けている。
では、ノワール ケイ ニノミヤの服は、ファッションの中で何を担っているのだろうか。
2026年春夏コレクションでは、星という幻想的なモチーフが、構造として組み上げられていた。夢やイメージは曖昧なままではなく、組み立てられ、触れられるものへと変換されていた。2025年春夏コレクションでは、小さなモチーフの反復が造形を生み出し、大胆さはひらめきではなく、数と配置によって立ち上がることが示されていた。2024年秋冬コレクションでは、色彩が装飾を越え、スタイルや身体、情報、時間を横断していた。
これらのコレクションに共通しているのは、「役に立つかどうか」という物差しから、距離を取っている点だ。ノワール ケイ ニノミヤは、効率や合理性では測れない領域を引き受けている。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
言い換えれば、このブランドが立っているのは、ファッションが本来持っていた想像力の居場所だ。
服は、必ずしも現実に最適化される必要はない。別の世界線を思い描き、現実の見え方を変えるための装置にもなり得る。ノワール ケイ ニノミヤは、その可能性を、構造や反復、色彩という手法で更新している。
ノワール ケイ ニノミヤは、「カワイイ」「カッコイイ」というファッションの中心に立つブランドではない。だが、ファッションが単なる消費や機能に回収されてしまわないための、重要なポジションを担っている。その居場所があるからこそ、リアルな服も、機能的な服も、意味を持ち続ける。
幻想は、現実から目を逸らすためのものではない。ノワール ケイ ニノミヤが提示しているのは、現実をずらして見せるための服だ。その「ずれ」こそが、現代のファッションシーンに欠かせない一つのファクターなのだろう。
2016年より新井茂晃が「ファッションを読む」をコンセプトにスタート。ウェブサイト「アフェクトゥス(AFFECTUS)」を中心に、モードファッションをテーマにした文章を発表する。複数のメディアでデザイナーへのインタビューや記事を執筆し、ファッションブランドのコンテンツ、カナダ・モントリオールのオンラインセレクトストア「エッセンス(SSENSE)」の日本語コンテンツなど、様々なコピーライティングも行う。“affectus”とはラテン語で「感情」を意味する。

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ファッションには「役割」がある。その役割を必要とする人たちがいるから、ジャンルが成り立ち、マーケットが成り立つ。近年、スポーツウェアはファッションの中で明確な役割を獲得してきた。アウトドアや競技のために設計された服は、いまやタウンウェアとして日常を支え、ビジネスの面でも確かな成果を上げている。
象徴的なブランドが「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」だ。2025年3月期には、同ブランドの売上高が1000億円を突破。機能性や快適性を備えたスポーツウェアは、もはや特定の消費者のニーズではなく、都市生活のスタンダードとして受け入れられた。
同様に、ストリートウェアもまた役割を変えてきた。かつてはカルチャーや反抗の象徴だった服は、産業として成熟したジャンルに転換した。2010年設立の「ヒューマンメイド(HUMAN MADE)」は2025年に上場を果たし、時価総額が1000億円を超える瞬間もあった。ストリートウェア由来のブランドが市場から評価を受けるようになったことは、その位置づけが単なる流行の域を越え、持続可能なビジネスとして認識され始めていることを示している。
スポーツウェアもストリートウェアも、それぞれが「何を担う服なのか」を明確にし、市場の中で可視化されてきたが、一方でこうした文脈とは異なる場所に立つ服も存在している。
日常を支えるわけではない。大量に売れるわけでもない。実用やカルチャー消費の延長線にもない。それでも消えず、毎シーズン提示され続け、特定の人々から支持を受ける服がある。それらは、いまのファッションの中でどのような役割を担っているのだろうか。「ノワール ケイ ニノミヤ(noir kei ninomiya)」は、その問いを最も端的に突きつけてくるブランドのひとつである。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
トレンドや市場の動きから距離を取りながら、独自の造形と言語でコレクションを発表し続けている。その服は、着用や実用といった前提を軽々と越え、ファッションが持つ別の可能性を示唆しているようにも見える。
現在の「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」が「布」の造形に重きを置いているのに対し、ノワール ケイ ニノミヤは「布地以外」の素材も積極的に使い、服の可能性を探っている。ここでは、過去のコレクションの中からいくつかのルックをピックアップして観察し、同ブランドの服が、現代のファッションの中でどのような位置に立ち、どのような役割を担っているのかを考えていきたい。(文:AFFECTUS)
幻想を設計するアーキテクトな星
「ジミーチュウ(JIMMY CHOO)」とのコラボレーションシューズを発表した2026年春夏コレクションは、「星」が重要なモチーフとなっていた。テーマは「Pure and playful」。煌びやかなプロダクトが、ショーの冒頭を飾った。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
チュール製のフレアシルエットのスカートには、銀色のトップスを合わせた。モチーフには、五芒星という伝統的な星の形をチョイス。メタルな質感の星は数珠つなぎで成形され、布地では表すことのできない硬質なシルエットを完成させている。
ティアードスカートにスタイリングしたのは、星を拡大解釈したようなトップス。星に似たモチーフを規則正しくつなぎ合わせ、線形が束状、あるいは1本ずつ飛び出すように設計されている。銀色の棒の先端には、五芒星が取り付けられており、まるで絵本から飛び出た星々のようだ。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
夜になれば星が見られるとは限らない。照明が煌々と灯る都市の上空では、星は夜空に紛れてしまう。しかし、一見真っ暗に見える空だとしても、そこには星がある。ある種人間の生き方にも通底するようなこんなメッセージを、ノワール ケイ ニノミヤはこのルックを通して打ち出したように思える。
全身ブラックのルックは、リアリティのあるテーラードの上から、工芸的なアイテムをレイヤードしている。先述したホワイトのルックと同様に、星型モチーフをつなぎ合わせた構造である。異なるのは、星モチーフのサイズだ。銀色のトップスよりも、一つひとつの星が遥かに巨大。見えないからといって、存在が小さいとは限らない。目に映らなくても、確かな質量を持つものもあるのだ。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
星モチーフを衣服状にするだけでなく、アクセサリーに仕立てる普遍的な手法も実践している。フリルをあしらったブラウスと、黒いバルーンスカートは、主張の多い造形の中で安心感をもたらす。
柔らかな服に、アクセントをつけるのが星のネックレス。ここでの星の役割は衣服を引き立てる装飾品だが、そのつくり方はモチーフを数珠つなぎにしたもので実に簡素だ。

ノワール ケイ ニノミヤ 2026年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
五芒星の枠組みは、安全ピンをつなぎ合わせたものだった。金銭的価値のある素材が、目を奪うアイテムをつくる。それが一般的な発想だろう。だが、ノワール ケイ ニノミヤの手法は逆だ。チープな素材で、華やかなアイテムを製作した。
2026年春夏コレクションは、星という幻想的なモチーフを扱いながらも、その見え方やつくられ方を一方向に固定しなかった点にデザインの妙がある。
連続するモチーフから生まれるダイナミズム
ノワール ケイ ニノミヤには、一瞬にして目を奪うデザインが登場する。2025年春夏コレクションは人間の体を抽象化し、発光するドレスを発表し、デザイナー二宮啓が持つアイデアの大胆さを示した。しかし、このコレクションで注目されるべきはこれだけではない。連続性だ。

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
それはファーストルックから明らかだった。バルーン状に膨張したシルエットは、テクノロジーの文脈で再解釈されたクリストバル・バレンシアガ(Cristóbal Balenciaga)が手掛けたドレスのよう。ただし、造形の構成方法でバレンシアガと異なる文脈的価値をつくっている。
バレンシアガに限ったことではないが、通常服は布地あるいは革など、フラットな要素をベースに形作られていくことが多い。しかしノワール ケイ ニノミヤは、球体という立体を連続させて、バルーンシルエットという服飾史に残る伝統の形を完成させた。

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
別のルックでも、モチーフの連続による視覚的圧力は生まれていた。白いラインのソックス・スニーカーと、足元だけを見ればスポーティだが、視線を上に移していくと、有機物の生成過程を思わせるシルエットが現れている。
ここで使用されているのは、 馬蹄形のようなU型の縁を、 赤くギザギザに縁取ったモチーフ。 それを大量につなぎ合わせ、 重ね合わせることで現代美術のインスタレーションを想起させる立体を完成させている。 複雑な技術と回路による機器が、 現代人の生活には欠かせない。 しかし二宮の発想は、 複雑さを手放すことで、 新しい「何か」が立ち上がる可能性を示している。

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
連続するモチーフは、ダイナミックな形だけではない。リアルなドレスの上にも現れる。赤いリップを塗った唇のようなモチーフが、黒いドレスの上で映える。ここでモチーフは、服を形作る主役ではなく、ブラックドレスを彩るアクセントとして用いられている。
ロングドレスに使用された、大きく開いた唇を連想させるモチーフは、マリリン・モンロー的な官能性が連なっているかのようだ。しかし、やかんを上下逆にしたようにも見えるヘッドウェアが、シュールさを注ぎ、その熱を冷ましている。

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

ノワール ケイ ニノミヤ 2025年春夏コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight
モチーフの連続性が、さらにコンパクト化したルックも登場した。今度はより日常的なデザインの服、カジュアルな装いに、モチーフが繰り返し使われている。ここで用いられたのは、黒いベルトだ。
両腕や肩周りを拘束する、あるいは体を硬くガードするように、ベルトがいくつも取り付けられている。これまで取り上げたルックと異なり、アイテムの印象はやや乱雑に映る。それは、垂れ下がるベルトによるものだろう。連続性というと、規則正しさを思い浮かべがちだが、ノワール ケイ ニノミヤは、そのセオリーから外れる。そこにこそ、新しさの種があるのだと伝えるように。
2025年春夏コレクションは、同じ形のモチーフを連続して使用することがデザインの核となっていた。あるルックはそれにより服の造形そのものをダイナミックに見せ、あるルックではリアルな服をダイナミックに見せる装飾として活用。小さな「モノ」でも、数と質によってクリエイションが成り立つことを、このコレクションは証明している。
色彩は装飾以上の意味を持つ
色は、服の性格を決定づける要素だ。明るい色を数多く使う、暗い色だけを使う。同じ服を発表したとしても、色が違えばコレクションは異なる印象になるだろう。ノワール ケイ ニノミヤが2024年秋冬コレクションで選んだのは「多色」だった。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
モデルの顔が判別できないほど、捻れたワイヤーが上半身を覆い尽くす。ワイヤーの色は、ホワイト・レッド・ブルー・グリーン・イエローと鮮やか。足元を彩る「リーボック(Reebok)」の「インスタポンプフューリー(INSTAPUMP FURY)」とのコラボスニーカーも、イエロー・レッド・ブラックと多色使いだ。ソックスも蛍光グリーンを選んでいる。捻れ、絡み合ったワイヤーによる特異な造形は、決して整ってはいない。それでも、どこか軽やかさを感じさせる。それはスポーティな足元と、カラフルな色彩が要因だろう。色は、造形そのものの意味を変える。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
チュールによるギャザーを重ねたトップスとスカートに、胸元にはカラフルなリングが配されている。もし、このアイテムがブラック一色なら、「シモーン・ロシャ(Simone Rocha)」や「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」の文脈に近い、静けさが滲む内向きの幻想性を帯びていたかもしれない。だが、一瞬で意識を引き寄せるイエローのスカート、インスタポンプフューリーのマルチカラーと白いソックスは、原宿の女の子たちが、モードを自分のものとして着こなし、そのままランウェイを歩いているかのような印象さえ抱かせた。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
両肩が隆起し、蚕の繭のように膨らむコートは、ペールトーンの綿毛が規則正しく取り付けられている。側面から見た際には、コートのボリュームが如実に見て取れる。黒い布地の上でゆらめく色とりどりの綿毛は、フォルムの輪郭と奥行きを強調。このコートは、服ではなく人間の体を新たにデザインしている。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
ショーの終盤に登場したルックの色彩は、教会の窓を飾るステンドグラスを想起させる。中世ゴシック建築で最盛期を迎えたこのガラスのアートは建築性と時代性を備えており、ショーを見る者はここで時間を遡る錯覚に襲われる。
2024年秋冬で浮かび上がったのは、色彩が装飾以上の意味を持つという事実だった。その作用を一言で表すなら、「横断」である。ノワール ケイ ニノミヤはカラフルな色を媒介に、スタイル、体、情報、時間を行き来してみせた。
ノワール ケイ ニノミヤが果たしている役割とは?
ファッションには、複数の役割がある。日常を支える服があり、生活の効率を高める服がある。スポーツウェアは都市生活のスタンダードとなり、ストリートウェアはカルチャーを越えて巨大な産業へと成長した。いま、ファッションは「何のための服か」がはっきりと問われる時代にある。
そうした中で、ノワール ケイ ニノミヤの服は、少し異なる場所に立っている。日常の代替にはならず、着用の快適さを最優先しているわけでもない。大量に売れる服でもなければ、流行をなぞる服でもない。それでも、このブランドは毎シーズン、確かな熱量を伴ってコレクションを発表し続けている。
では、ノワール ケイ ニノミヤの服は、ファッションの中で何を担っているのだろうか。
2026年春夏コレクションでは、星という幻想的なモチーフが、構造として組み上げられていた。夢やイメージは曖昧なままではなく、組み立てられ、触れられるものへと変換されていた。2025年春夏コレクションでは、小さなモチーフの反復が造形を生み出し、大胆さはひらめきではなく、数と配置によって立ち上がることが示されていた。2024年秋冬コレクションでは、色彩が装飾を越え、スタイルや身体、情報、時間を横断していた。
これらのコレクションに共通しているのは、「役に立つかどうか」という物差しから、距離を取っている点だ。ノワール ケイ ニノミヤは、効率や合理性では測れない領域を引き受けている。

ノワール ケイ ニノミヤ 2024年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)
言い換えれば、このブランドが立っているのは、ファッションが本来持っていた想像力の居場所だ。
服は、必ずしも現実に最適化される必要はない。別の世界線を思い描き、現実の見え方を変えるための装置にもなり得る。ノワール ケイ ニノミヤは、その可能性を、構造や反復、色彩という手法で更新している。
ノワール ケイ ニノミヤは、「カワイイ」「カッコイイ」というファッションの中心に立つブランドではない。だが、ファッションが単なる消費や機能に回収されてしまわないための、重要なポジションを担っている。その居場所があるからこそ、リアルな服も、機能的な服も、意味を持ち続ける。
幻想は、現実から目を逸らすためのものではない。ノワール ケイ ニノミヤが提示しているのは、現実をずらして見せるための服だ。その「ずれ」こそが、現代のファッションシーンに欠かせない一つのファクターなのだろう。
2016年より新井茂晃が「ファッションを読む」をコンセプトにスタート。ウェブサイト「アフェクトゥス(AFFECTUS)」を中心に、モードファッションをテーマにした文章を発表する。複数のメディアでデザイナーへのインタビューや記事を執筆し、ファッションブランドのコンテンツ、カナダ・モントリオールのオンラインセレクトストア「エッセンス(SSENSE)」の日本語コンテンツなど、様々なコピーライティングも行う。“affectus”とはラテン語で「感情」を意味する。

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