
凄腕工房ジョルジュ・ランファンが手掛けた名作
シェーヌダンクルは、エルメスジュエリーの象徴する存在ですが、今回紹介するのはそのなかでも特別なモデルであるトレセです。特別な理由は一目瞭然。ゴールドの編み込みの意匠です。
トレセの編み込みは型押しではありません。この重厚な表情が生まれているのは、ゴールドの糸を実際に編み込んで作っているからこそ。ゴールドを編み込むには当然卓越した技術力を必要としますが、トレセを製作したのは20世紀のフランスを代表するジュエリー職人だったジョルジュ・ランファン(Georges Lenfant)の工房なんです。ジョルジュ・ランファンはチェーン細工の専門家で、凄腕ジュエラー。「カルティエ(Cartier)」や「ヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)」などのジュエリーを数多く手掛けました。ジョルジュは工房を1900年に創設し、1945年に亡くなるまでその責任者として活躍しましたが、1915年からは当時弱冠11歳だったジョルジュの息子のジャック・ランファン(Jacques Lenfant)が工房に加わって職人として活躍。父の死後、ジャックは弟らと工房を率いてエルメスをはじめとする数々のメゾンのジュエリーを手掛け、高い名声を得たんです。
たいていのエルメスのゴールドジュエリーは顧客からのオーダー品なのですが、トレセは市場に流通している数がオーダー品にしては多いので、上顧客向けに用意されていた「上級ライン」のような位置付けだったと考えられます。トレセ自体が希少なアイテムですが、僕のお店では過去に一度だけローズゴールドのトレセを扱ったことがあります。おそらく、トレセのデザインを気に入ったエルメスの上顧客が、「同じ形でローズゴールドのモデルを作れないか」と、特別にオーダーしたものだったのでしょう。
