Rewrite
『Hypebeast(ハイプビースト)』が展開する音楽ディストリビューション・レーベル「Hypetrak(ハイプトラック)」より、徳島発、次世代ヒップホップシーンを牽引するラッパー T-STONEが、前作『Travel』に続き最新シングル『福』をリリースした。
本作は、NSW yoonを迎えたコラボレーション楽曲の第2弾。また〈SEVESKIG(セヴシグ)〉による“SS2026 Collection Runway Show in Seoul”で初披露されたトラックでもある。サウンドプロデュースを手がけたのは、AKAI Professional公式MPCプレイヤーとしても知られるKO-neyと、〈DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIP〉THE OPEN部門優勝のPACHI-YELLOW。豪快なブラスが印象的な高揚感あふれるビートの上で、“福/服”というダブルミーニングを巧みに織り交ぜたリリックが展開される。T-STONEとNSW yoonによる緊密なマイクリレーが冴え渡る、エネルギッシュかつファッションとの親和性を感じさせる1曲に仕上がっている。
そこで今回のリリースを記念して、T-STONE本人と〈SEVESKIG〉デザイナー NORIにインタビューを敢行。楽曲制作とファッションにおける共通点、“SS2026 Collection Runway Show in Seoul”での裏話などを伺った。
続けるって簡単なことじゃないし、覚悟や信念がないとできないことだから、そういう姿勢は素直に尊敬していますね
Hypebeast:お2人がお会いしたきっかけはなんですか?
T-STONE(以下T):一番最初のきっかけは、僕が仲良くさせてもらっている徳島のセレクトショップ『JACOMO』の海渡さんを通じてです。海渡さんがパリ・ファッションウィークのタイミングでお仕事でフランスに行くことになって、「僕もファッションがすごく好きなので、一緒に行かせてください」とお願いして同行したんです。その時、パリの……。
長野剛識(以下N):『シャルル・ド・ゴール空港』ね。
T:パリのシャルル・ド・ゴール空港に着いて、時差ボケのまま喫煙所に入ったときに、偶然NORIさんもいらっしゃって。そこで共通の知人であるHAKUさんを介して紹介してもらったのが、最初の出会いでした。
その時の印象について教えてください。
T:ちょうどその日が“夏至の日”で、街中が音楽で溢れていたんですよ。夜になると、通りのあちこちにステージが組まれて、裏路地でもいろんな音が鳴っていて。そんな日に、HAKUさんから「行ってみなよ」と誘われて、ひとりでパリの街に出たんです。日本でいうとLOOPみたいな電動キックボード Trottinette(トロティネット)に乗って。現地に着くと、少しストリート寄りのエリアで、治安もあまり良さそうじゃなくて(笑)。でも、そこでNORIさんと2度目ましてを果たして。アサヒビールを片手にワンカンしながら、ストリートの空気を感じていました。目の前では、フランスの有名なラッパーがライブをしていて、まさにお祭りのような夜でしたね。その時にNORIさんが「T?マイクジャックしに行かんでいい?」って何度も言ってくるんですよ(笑)。最初は「いやいや、それはさすがに日本で逆の立場なら違うじゃないですか」って止めてたんですけど、4ラリーくらい繰り返して、最終的には「もう行きましょう!」ってなって。2度目ましての関係なのに(笑)。裏口に行ったら、身長190センチくらいの黒人のセキュリティが2人立ってて。「I’m a Japanese rapper. Give me five seconds. I wanna mic performance.(私は日本のラッパーです。5秒ください。マイクパフォーマンスをしたいんです。)」って、片言の英語で必死に伝えました。ステッカーを渡して、「This is my sticker, gifting for you(これは私のステッカーです。ぜひ受け取ってください。)」って言ったら、めっちゃ怪訝な顔されて(笑)。でも、YouTubeでT-STONEを見せたら、ちょっと認めてくれたんですよ。そこにセキュリティのボスが来て、NORIさんの友人で身長が2mくらいあるヤニスが間に入ってくれて。結局ステージには上がれなかったけど、最後はヤニスが抱きしめて「もう帰ろう」って(笑)。それが僕にとっての最初の印象でした。最初は正直、「なんか言ってるな、この先輩」くらいのテンションだったんですけど、何度も言われていくうちに、誰かに見られてるような感覚になって。あの瞬間、「勇気を持って前に進むのか、引き下がるのか」を試されてる気がしました。
N:印象ね……。どうなんだろう。そのパリの喫煙所で会った時は、曲とか何も聞いてなかったから。なんか坊主の子がいるなって感じだったけど。
T:確かにあの時は坊主でしたね。
中々面白い出会いだったんですね(笑)。その出会いから、お互いのどんな部分に「共通点」や「親近感」を感じましたか?
N:Tはすごく不器用なんですよ。器用に立ち回ったり、言葉を飾ったりするタイプじゃない。でも、そういう真っ直ぐなところにすごく共感します。自分もそういう部分があるから、なんか自然と通じるものを感じたというか。
T:僕不器用ですか?(笑)。
N:不器用だよ(笑)。
T:よく言われるっすね、あんまり自分では分からないけど(笑)。
N:あとはアクティブなところですかね。ショーの時とかも「Liveやって」って言ったらすぐ引き受けてくれたりとか。普通ショーで歌ったりとかって、緊張しちゃう人とかもいる中で、Tは臆さずやってくれて。
SEVESKIGの“SS2026 Collection Runway Show in Seoul”で、T-STONEさんがライブパフォーマンスを行うことになった経緯を教えてください。
T:きっかけは、あのフランスでの出会いからなんです。その後、僕の方から「またアトリエに遊びに行かせてください」ってお伝えして、そこからけっこう頻繁にお邪魔させてもらうようになりました。NORIさん、本当にお忙しいのに、時間を割いてくださって。打ち合わせとかじゃなくて、本当に他愛もない話をよくしてたんです。「今こういうことしてるんですよ」とか、「次のコレクションはこういうテーマでやろうと思ってるんだ」みたいな、そんな話をお互いにして。そこから自然な流れで、一緒に飲みに行かせてもらうようになって。いろんなお店で語り合ってる時に、ある夜、NORIさんがふと「T、ライブする?」って(笑)。ちょうどその頃、韓国でファッションショーをやる予定があるって話をされていて。「えっ、韓国で? すごいっすね!」って言ったら、「T、やってみる?」みたいな感じで。その流れから決まったんです。しかもそのタイミングで、僕は韓国のラッパー・NSW yoonとのつながりもあって。なんかこう、“韓国に呼ばれてる気がする”というか、不思議な縁を感じていました。最初は僕ひとりの出演の予定だったんですけど、せっかくだからyoonとも一緒にやりたいと思って、片言の英語と翻訳機を駆使して気持ちを伝えたんです。「日本のブランド SEVESKIGが7月に韓国でショーをするんだ。そこでライブをしたい。一緒に曲を作らないか?」って。そしたらyoonも応えてくれて。そこから新しい曲を一緒に作って、今回のパフォーマンスにつながりました。
N:すごく良い流れだったよね。日本のアーティストであるTと、韓国のアーティストが同じステージに立って、韓国という場所で一緒に表現するっていうのは、すごく意味のあることだと思ったし、2人にとってもきっといい経験になったと思う。
逆に、「自分と違うな」と思う点はありますか?
T:違うというよりも、むしろ見習いたい部分が多いですね。NORIさんって、本当に“探究心”がすごいんですよ。何かを深く追いかけることに対して、時間を惜しまないというか。実際にその探求している姿を直接見たわけじゃないんですけど、話しているだけで伝わってくるんです。バイクが好きだったり、ファッションに対しての情熱だったり、好きなことが本当に多い。でもどれもただ“好き”で終わらずに、それぞれを徹底的に掘り下げていく。浅く広くじゃなくて、一つひとつの“好き”に深みがあるんですよね。まるで刀を何本も持っていて、それぞれを自分のコレクションとして磨き続けているような感覚というか。そうやって自分の中に取り込んで、ちゃんとアウトプットにつなげている。僕自身も音楽を作る人間として、その姿勢は本当に見習いたいなと思っています。
N:自分も見習いたいところはありますね。僕も昔、10代から20代半ばくらいまでラップをやってたんですよ。でも途中で諦めてしまって。だからこそ、Tみたいにずっと音楽を続けて、それをちゃんと形にしているのは本当にすごいなと思う。続けるって簡単なことじゃないし、覚悟や信念がないとできないことだから。そういう姿勢は、素直に尊敬していますね。
T:ありがとうございます。
N:Tのリリックって、すごく“らしい”というか、ストレートなんですよね。荒削りな部分もあるけど、その荒々しさが逆にすごく魅力的で、いつもいいなと思ってます。今回のショーでも彼にお願いしたんですけど、テーマが“16歳のときの思い出”だったんです。Tはもうキャリアの出だしではないけれど、あの未完成な熱量というか、まだ磨かれていない始まりの感じをすごく持っていて。それがこのテーマにぴったり合うなと思ったんです。そういう、まだ粗さが残っているのに力強い表現って、他のラッパーにはなかなかない。そこがTの大きな魅力で、僕はそこがすごく好きなんですよね。
T-STONEさんがSEVESKIGを好きになったきっかけはなんですか?
T:きっかけは、もう完全にNORIさんですね。ブランドとしてというより、まず人としてのNORIさんに惹かれたのが最初です。“NORIさんだからSEVESKIGが好きになった”という感じです。
音楽とファッション、それぞれの世界で「共通して大事にしていること」は何だと思いますか?
N:服を作る上で一番大事にしているのは“テーマ性”ですね。毎シーズンの始まりには、まずテーマをしっかり作るところから始めます。デザインや生地づくりよりも、そのテーマを考える時間の方が長いくらいで、だいたい2ヶ月くらいかけて練り上げるんです。テーマを深く掘り下げていく過程で、自分の中に芯が生まれる。そこからようやく素材を作りに工場へ行ったり、デザインに落とし込んだりしていく。もちろん生地やディテールにもこだわっていますが、すべての基盤にあるのは“テーマ”。そこに一番時間と情熱を注いでいます。
T:音楽を作る上で一番大切にしているのは、“何を伝えたいのか”という部分ですね。ラップって本当に奥が深くて、ただリズムに乗せて言葉を並べているようで、実は一言一句に意味があるんです。聴く人には会話のように聞こえるかもしれませんが、そこにはちゃんと自分の想いや意図が込められている。だからこそ、ただ思いついたことを並べるんじゃなくて、1曲ごとに“核”となるテーマや“背骨”のようなものを持つようにしています。あとは“音”。ビートの鳴りや質感から世界観を広げていく過程もすごく大事で、自分の心の中の感情や景色をどう音に変換できるかを常に意識しています。
お互いの表現を見て、「これは自分のやり方にも通じるな」と感じた部分はありますか?
N::表現の仕方は違っても、根本にあるプロセスや姿勢はすごく近いと思います。いろんなものをインプットして、それを自分なりに咀嚼してからアウトプットしていく。その流れは、ファッションでも音楽でも本質的には同じですよね。それに、ファンとの関係の築き方や、自分の世界観をどう伝えていくかという点でも、Tと自分はすごく似ている気がします。作っているものが違うだけで、やっていることの根っこはほとんど一緒だなと感じますね。
T:NORIさんを見ていて本当にすごいなと思うのは、好きなことへの“探求心”と、その幅の広さですね。好きなものが本当に多くて、しかも一つ一つを深く掘り下げている。自分も将来的にあんなふうに、たくさんの“好き”を持って生きていけたらいいなと思います。好きなことを見つけるのって実は簡単じゃなくて、それを追求するのにもエネルギーがいる。でも、好きだからこそ頑張れるし、音楽を作る上でもその探求心は欠かせません。好きなものがなければ、言葉も生まれないんですよね。それに、僕は音楽の世界の人間ですが、ファッションという全く違う世界に触れることが本当に刺激になるんです。たとえば、韓国でのファッションショーでは、ステージの裏側やモデル、メイク、スタイリストなど、すべての要素が一つのチームとして動く姿を間近で見て、ものづくりの奥深さを改めて感じました。ラップもファッションも“人の前に立つ”表現という意味では共通していて、シルエットやスタイルも含めた“自分の見せ方”の重要性を強く実感しましたね。今回の経験を通して、ファッションの持つ力や、自分の表現とのつながりをより深く考えるようになりました。
ちなみに⻑野さんがHip Hopを好きになったきっかけはなんですか?
N:Hip Hopに出会ったのは小学校5年生の頃でした。2つ上の兄貴がいて、ある日「これいいから聴けよ」って、Run-D.M.C.の『My Adidas』が入ったアルバムを聴かせてくれたのがきっかけですね。それまでは邦楽とかアニメの主題歌ばかり聴いていたんですけど、その時初めて洋楽、しかもHip Hopというジャンルに触れて、すごく衝撃を受けたのを覚えています。リズムの感じも、言葉のノリも、それまで聴いてきた音楽とはまったく違っていて、「こんな世界があるんだ」と強く惹かれました。そこからアメリカという国そのものにも興味を持つようになって、同時にファッションにも自然とハマっていきました。中学までは部活中心の生活だったので、外でHip Hopカルチャーに触れる機会はあまりなかったんですけど、高校に入ってから本格的にスケートを始めて、大会にも出るようになりました。当時は『Thrasher Magazine』や『101』のスケートビデオを観ていて、その中で流れていた音楽に、グリーン・デイやノートリアス・B.I.G.といったアーティストたちがいて。そういう映像や音からカルチャー全体のかっこよさに惹かれて、「自分もこういう世界で生きたいな」と思ったのが、Hip Hopにのめり込んでいきました。
長野さんの小学生時代というと30年前……?
N:もう35年くらい前ですね。
当時は日本においてどのくらいHip Hopが浸透していたのでしょうか?
N:俺が小学生の頃は、正直まだほとんど浸透してなかったと思います。もちろん年上の人たちの動きまではわからなかったけど、身の回りではHip Hopを聴いている人なんて全然いなかったですね。多分、日本で本格的にHip Hopが広がり始めたのは1993年とか95〜96年くらいなんじゃないかなと思ってて。その頃にZEEBRAさんやDJ MUROさんといった人たちが出てきて、日本のシーンを作っていった印象があります。
長年Hip Hopを見てきた中で⻑野さんの好きなラッパーやビートメーカーについても教えてください。
N:うーん、そうですね。プリモ(DJ Premier)はやっぱりすごく好きですね。あとはヤング・サグ(Young Thug)も好きだったし。Hip Hopだけじゃなくて、The Clash(クラッシュ)みたいなバンドも聴いてました。でも一番影響を受けたというか、高校生の頃に一番聴いていたのは、やっぱりDJ MUROさんですね。日本でHip Hopをやっていくうえで、あの人の存在は本当に大きかったと思います。
DJ MUROさんはまさしく日本のHip Hopシーンを変えたレジェンドのひとりですね
N:いまだにDJ MUROさんのカセットは持ってますよ。たぶん当時のものがまだ家に残ってると思います、すごく貴重ですよね。今回のコレクションにも、実はMUROさんへのオマージュを込めたアイテムがいくつかあって。ハンチングやキャップを逆にかぶるようなスタイルも、当時の彼の影響を感じながら取り入れました。
洋服のアウトプットをする際に、Hip Hopがインスピレーション源になることもありますか?
N:今シーズンはまさにそういうテーマだったんですよ。コレクション全体が“16歳の頃の記憶”をベースにしていて、当時の自分の頭の中の3分の1くらいはHip Hopでできてたと思うんです。だから、自然とそこからインスピレーションを引っ張ってきたっていう感覚ですね。
全部、服がきっかけで繋がっている、だからこそ、“服”という言葉を“幸福”の“福”と重ねて、このタイトルにしたんです
新曲『福』にはどんな想いを込めましたか?
T:実は服(ファッション)をテーマにした楽曲って、キャリアの中で初めてなんですよ。作ろうと思ったことはあったんですけど、世に出すのはこれが初。ようやくこのタイミングで出せたなっていう感じです。僕、ファッションは昔から好きなんですけど、本当に服が好きな人たちに比べたら全然無頓着な方で。でも最近ようやく、「ファッションってこういう風に楽しむものなんだ」とか、「こういうところが大切なんだ」って実感するようになってきたんです。たとえばさっきNORIさんが言っていたMy Adidas』をすぐ自分のSpotifyに入れたり、藍染のシューレースを買って自分のスーパースターに通してみたりとか。徳島出身なので藍染って地元のカルチャーでもあるし、自分なりのファッションの楽しみ方を見つけてる感じですね。
ご自身にとって、洋服とはどんな存在でしょうか?
T:服に対する思い入れには、もう少しパーソナルな背景もあります。僕、ほんまに貧乏育ちで、若い頃は服を買うお金なんて全然なくて。バイトで稼いだ2万円でメルカリで古着を買って、それをライブ衣装にしてました。先輩に服を譲って貰った分、今は逆に自分が後輩に服をあげる立場になっている。その“受け継がれていく感じ”も、僕にとっては“服”というテーマの一部なんです。転機になったのは、徳島のセレクトショップ『JACOMO』の海渡さんとの出会いです。僕のLIVEを見た海渡さんが声をかけてくれて、「うちの服を撮影の時に貸してあげるよ」って言ってくれたんです。あの時、リースという概念を初めて知りました。ANARCHYさんとかKOHHさんが着ていた服も、ブランドから借りてることがあるんだって。そこから、『JACOMO』を通じていろんな洋服に触れて、ファッションの奥深さを知っていきました。海人さんのおかげでフランスにも行けて、ファッションショーを生で体感して、最終的にNORIさんとも出会うことになる。全部、服がきっかけで繋がっているんです。だからこそ、“服”という言葉を“幸福”の“福”と重ねて、このタイトルにしたんです。洋服が人を繋げてくれて、そこから新しい出会いや縁が生まれる。その流れ自体が“福”なんだと思う。そして制作ではNORIさんや海渡さんが本気で向き合ってくれて、甘い評価じゃなく、ギリギリまで詰めてくれた。だからこそ、ただのファッションソングではない“魂のこもった一曲”になったと思います。
この楽曲の制作中、SEVESKIGの服やデザインから影響を受けた部分はありましたか?
T:今回のコレクションテーマが“MEMORIES”だったので、楽曲のサビにも“思い出”という要素を強く落とし込みました。NORIさんの10代の記憶や、当時NORIさんが影響を受けていた影響を受けたDJ MUROさん、1990年代のアーティスト、スケートカルチャーなど、その原体験を服という形で再構築しているのを見て、自分自身の“メモリー”とも向き合いたくなったんです。海渡さんともよく話すんですけど、「記憶って人間が都合よく書き換えていくもの」だって。たとえば、いま怪我をしたら最悪だと思うけど、1年後には「あの怪我があったから成長できた」って思うように、人の記憶は時間とともに柔らかく変化していく。その考え方がすごく面白くて、今回の“MEMORIES”というテーマにもすごくリンクしたんですよね。そこから、僕にとってのメモリーとは何か、服とは何かを改めて掘り下げました。昔はお金がなくて買えなかったラグジュアリーな服、でもその服たちがNORIさんや海渡さんとの出会いを生み、いまの自分に繋がっている、そうした服にまつわる記憶を歌詞に反映しています。たとえば曲中にある「破れた夢も繋ぎ直して、履き潰すまで着こなす」というライン。これは、革靴が履き込むほど味が出るように、自分の夢や人生も擦り切れるまで着こなしていくという意味を込めています。ファッションの比喩を通して、自分の生き方そのものを描いたんです。同じく共演した韓国のアーティスト NSW yoonも、自分の“服の記憶”をラップしています。彼は子どもの頃、adidasが流行っていたけど家が裕福ではなくて、母親が買ってくれたadidasの服を着て遠足に行ったら「偽物だ」って笑われた経験があるそうです。けれど彼はそれをきっかけに「いつか自分の力で好きな服を買えるようになる」と誓い、今それを実現している。その思いを“服が福を招く”という言葉に変えてラップしているんです。だからこの『福』という楽曲は、僕とyoonそれぞれの“服と記憶”を通じたストーリーが交差する作品になっています。ファッションと人生、そのどちらにも宿る“メモリー”を音楽で表現したんです。
トラックの雰囲気やサウンドメイクにはどんなこだわりがありますか?
T:ベースにあったのは“90年代ヒップホップの空気感”ですね。あの時代特有の、ちょっとざらついたビート感やソウルフルなムードは、今回の『福』にも欠かせない要素でした。ただ、今回は〈SEVESKIG〉のファッションショーで披露するという前提があったので、単にクラシックに寄せるのではなく、ランウェイで映えるテンポ感を意識しました。ファッションショーって、僕の中ではどこか速さや緊張感のあるイメージがあるんですよ。だから、いわゆる「ドン・ドゥ・タッ」という王道のビートではなく、少しだけテンポを上げたトラックを意識しました。サウンド面では、トランペットやサックスのような生音を取り入れて洒落感を出しつつも、やりすぎない。オシャレすぎると自分らしさから離れてしまうので、あくまでT-STONEらしい土っぽさを残したかったんです。今回のトラック制作には、プロデューサーのPACHI-YELLOWさんとMBC所属のKornyさんという、2人の強力なクリエイターに携わっていただきました。特にPACHI-YELLOWさんは、先日のDMC大会で日本一にもなったDJで、どうしても彼のスクラッチを入れたかった。Hip Hopのルーツって、やっぱりDJ文化、ブロックパーティーの時代にあるじゃないですか。スクラッチって、単なる音の装飾じゃなくて、ヒップホップの記憶そのものなんですよ。だからこの曲のテーマである“MEMORIES”にもすごく合っていて、スクラッチを入れるタイミングや流れにもかなりこだわりました。また、NORIさんから「ラップの掛け合いを入れてほしい」というリクエストがあって、曲の終盤では僕とyoonが2小節ずつ掛け合う構成になっています。リズムのぶつかり合い、テンションの重なりがショー全体の熱量を引き上げてくれる、そんな意識で作りました。
N:ビートも初めは割と90’sっぽい感じだったけど、途中からドラムっぽくちょっと切り替わったりしてたよね。「裏入れてみようか」みたいなね。あの試みは良かった。
楽曲『福』を通してユーザーに何を伝えたいですか?
T:一言で言うなら、「服に着られるんじゃなくて、着こなせ。」ですね。“服に着られる”というのは、そのブランドの背景やデザイナーの想いを知らずに、ただ「流行ってるから」や「ハイブランドだから」といった理由で身につけることだと思うんです。どんなに高価でも、どんなに話題になっている服でも、その服が持つストーリーや思想を理解していなければ、結局は“着られている”状態。逆に、その服が作られた背景や想いを知ったうえで、「自分の解釈」で着こなすことができれば、それはもう立派な自己表現だと思います。僕自身、おしゃれの達人ってわけじゃないですけど、そういう自分で選んで着るっていう姿勢はすごく大事にしています。そうやって服と向き合うことで、人との出会いも自然と広がっていくんですよね。実際、僕が今回〈SEVESKIG〉のNORIさんと出会えたのも、服が好きだったからこそ。ファッションが繋いでくれた縁なんです。それに今回、ファッションショーでライブするというのは、僕にとってもずっと夢のひとつでした。以前フランスに行ったとき、いろんなブランドのランウェイを生で見て、「いつか自分もこういう場に立ちたい」と本気で思ったんです。だから今回、〈SEVESKIG〉のショーのランウェイでマイクを握ってパフォーマンスできたことは、僕にとって歩いたと言っていいぐらい特別な経験でした。モデルとしてではなくても、自分の言葉と音でその空間に立てたという意味では、夢がひとつ叶った感覚がありますね。
N:ランウェイ歩くよりすごいんじゃない?(笑)
T:逆に!?ならよかったです。(笑)ファッションのおかげで自分が夢見たものを叶えさせてもらってるというか。だから好きなものを探求し続けるっていうのはすごい大切なことだということを伝えたいです。
最後に今後の展望について、お2人の構想はありますか?
N:そうですね。これまで〈SEVESKIG〉では約6回ほどショーという形でコレクションを発表してきたんですが、今後はショー以外の見せ方も模索していきたいと思っています。たとえばアーティストとコラボレーションして、新しい形で披露してみるとか。あるいは海外、うちの取扱店があるLAなどに行って、その土地でしかできない発信方法を試みるのも面白いなと考えています。ショーというフォーマットはすごく特別で、ブランドの世界観を一気に表現できるんですけど、もっと自由で、体験的な見せ方もあるんじゃないかと思っていて。そうした新しい形で〈SEVESKIG〉の“今”を伝えられたらいいなと思っています。
T:まず直近では、12月3日(水)にyoonとのコラボレーションによる6曲入りのEPをリリースします。その中には今回の『福』と前回リリースした『Travel』も収録されているので、ぜひ多くの人に聴いてもらいたいです。そして今後の展望としては、やっぱり僕の中で揺るがない夢は『日本武道館』です。日本人として生まれた以上、日の丸の下でライブをするというのは、ずっと掲げてきた目標です。今回yoonと制作していく中で、彼は韓国人で、僕は日本人という背景があって。そうした異なるルーツを持つ者同士でクリエイティブを重ねることで、改めて“自分が日本人である”という意識を強く感じました。日本人同士で活動していると当たり前になってしまう部分も、海外のアーティストと向き合うと、より鮮明に見えてくるんですよね。yoonは本当に日本のことが大好きで、そうした姿勢に触れるたびに「日本という国は本当に素晴らしい」と思わされます。僕自身も、音楽を通じて、そしてヒップホップというカルチャーを通じて、この国をもっと良くしていきたい。そんな想いを、これからも活動の軸にしていきたいと思っています。
ちなみにお2人の展望はありますか?
N::2人の展望か……。とりあえず飲みに行く(笑)。
T::近々飲みに行きます。
アーティスト:T-STONE
タイトル:『福』
配信日:11月19日(水)
配信リンク
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『Hypebeast(ハイプビースト)』が展開する音楽ディストリビューション・レーベル「Hypetrak(ハイプトラック)」より、徳島発、次世代ヒップホップシーンを牽引するラッパー T-STONEが、前作『Travel』に続き最新シングル『福』をリリースした。
本作は、NSW yoonを迎えたコラボレーション楽曲の第2弾。また〈SEVESKIG(セヴシグ)〉による“SS2026 Collection Runway Show in Seoul”で初披露されたトラックでもある。サウンドプロデュースを手がけたのは、AKAI Professional公式MPCプレイヤーとしても知られるKO-neyと、〈DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIP〉THE OPEN部門優勝のPACHI-YELLOW。豪快なブラスが印象的な高揚感あふれるビートの上で、“福/服”というダブルミーニングを巧みに織り交ぜたリリックが展開される。T-STONEとNSW yoonによる緊密なマイクリレーが冴え渡る、エネルギッシュかつファッションとの親和性を感じさせる1曲に仕上がっている。
そこで今回のリリースを記念して、T-STONE本人と〈SEVESKIG〉デザイナー NORIにインタビューを敢行。楽曲制作とファッションにおける共通点、“SS2026 Collection Runway Show in Seoul”での裏話などを伺った。
続けるって簡単なことじゃないし、覚悟や信念がないとできないことだから、そういう姿勢は素直に尊敬していますね
Hypebeast:お2人がお会いしたきっかけはなんですか?
T-STONE(以下T):一番最初のきっかけは、僕が仲良くさせてもらっている徳島のセレクトショップ『JACOMO』の海渡さんを通じてです。海渡さんがパリ・ファッションウィークのタイミングでお仕事でフランスに行くことになって、「僕もファッションがすごく好きなので、一緒に行かせてください」とお願いして同行したんです。その時、パリの……。
長野剛識(以下N):『シャルル・ド・ゴール空港』ね。
T:パリのシャルル・ド・ゴール空港に着いて、時差ボケのまま喫煙所に入ったときに、偶然NORIさんもいらっしゃって。そこで共通の知人であるHAKUさんを介して紹介してもらったのが、最初の出会いでした。
その時の印象について教えてください。
T:ちょうどその日が“夏至の日”で、街中が音楽で溢れていたんですよ。夜になると、通りのあちこちにステージが組まれて、裏路地でもいろんな音が鳴っていて。そんな日に、HAKUさんから「行ってみなよ」と誘われて、ひとりでパリの街に出たんです。日本でいうとLOOPみたいな電動キックボード Trottinette(トロティネット)に乗って。現地に着くと、少しストリート寄りのエリアで、治安もあまり良さそうじゃなくて(笑)。でも、そこでNORIさんと2度目ましてを果たして。アサヒビールを片手にワンカンしながら、ストリートの空気を感じていました。目の前では、フランスの有名なラッパーがライブをしていて、まさにお祭りのような夜でしたね。その時にNORIさんが「T?マイクジャックしに行かんでいい?」って何度も言ってくるんですよ(笑)。最初は「いやいや、それはさすがに日本で逆の立場なら違うじゃないですか」って止めてたんですけど、4ラリーくらい繰り返して、最終的には「もう行きましょう!」ってなって。2度目ましての関係なのに(笑)。裏口に行ったら、身長190センチくらいの黒人のセキュリティが2人立ってて。「I’m a Japanese rapper. Give me five seconds. I wanna mic performance.(私は日本のラッパーです。5秒ください。マイクパフォーマンスをしたいんです。)」って、片言の英語で必死に伝えました。ステッカーを渡して、「This is my sticker, gifting for you(これは私のステッカーです。ぜひ受け取ってください。)」って言ったら、めっちゃ怪訝な顔されて(笑)。でも、YouTubeでT-STONEを見せたら、ちょっと認めてくれたんですよ。そこにセキュリティのボスが来て、NORIさんの友人で身長が2mくらいあるヤニスが間に入ってくれて。結局ステージには上がれなかったけど、最後はヤニスが抱きしめて「もう帰ろう」って(笑)。それが僕にとっての最初の印象でした。最初は正直、「なんか言ってるな、この先輩」くらいのテンションだったんですけど、何度も言われていくうちに、誰かに見られてるような感覚になって。あの瞬間、「勇気を持って前に進むのか、引き下がるのか」を試されてる気がしました。
N:印象ね……。どうなんだろう。そのパリの喫煙所で会った時は、曲とか何も聞いてなかったから。なんか坊主の子がいるなって感じだったけど。
T:確かにあの時は坊主でしたね。
中々面白い出会いだったんですね(笑)。その出会いから、お互いのどんな部分に「共通点」や「親近感」を感じましたか?
N:Tはすごく不器用なんですよ。器用に立ち回ったり、言葉を飾ったりするタイプじゃない。でも、そういう真っ直ぐなところにすごく共感します。自分もそういう部分があるから、なんか自然と通じるものを感じたというか。
T:僕不器用ですか?(笑)。
N:不器用だよ(笑)。
T:よく言われるっすね、あんまり自分では分からないけど(笑)。
N:あとはアクティブなところですかね。ショーの時とかも「Liveやって」って言ったらすぐ引き受けてくれたりとか。普通ショーで歌ったりとかって、緊張しちゃう人とかもいる中で、Tは臆さずやってくれて。
SEVESKIGの“SS2026 Collection Runway Show in Seoul”で、T-STONEさんがライブパフォーマンスを行うことになった経緯を教えてください。
T:きっかけは、あのフランスでの出会いからなんです。その後、僕の方から「またアトリエに遊びに行かせてください」ってお伝えして、そこからけっこう頻繁にお邪魔させてもらうようになりました。NORIさん、本当にお忙しいのに、時間を割いてくださって。打ち合わせとかじゃなくて、本当に他愛もない話をよくしてたんです。「今こういうことしてるんですよ」とか、「次のコレクションはこういうテーマでやろうと思ってるんだ」みたいな、そんな話をお互いにして。そこから自然な流れで、一緒に飲みに行かせてもらうようになって。いろんなお店で語り合ってる時に、ある夜、NORIさんがふと「T、ライブする?」って(笑)。ちょうどその頃、韓国でファッションショーをやる予定があるって話をされていて。「えっ、韓国で? すごいっすね!」って言ったら、「T、やってみる?」みたいな感じで。その流れから決まったんです。しかもそのタイミングで、僕は韓国のラッパー・NSW yoonとのつながりもあって。なんかこう、“韓国に呼ばれてる気がする”というか、不思議な縁を感じていました。最初は僕ひとりの出演の予定だったんですけど、せっかくだからyoonとも一緒にやりたいと思って、片言の英語と翻訳機を駆使して気持ちを伝えたんです。「日本のブランド SEVESKIGが7月に韓国でショーをするんだ。そこでライブをしたい。一緒に曲を作らないか?」って。そしたらyoonも応えてくれて。そこから新しい曲を一緒に作って、今回のパフォーマンスにつながりました。
N:すごく良い流れだったよね。日本のアーティストであるTと、韓国のアーティストが同じステージに立って、韓国という場所で一緒に表現するっていうのは、すごく意味のあることだと思ったし、2人にとってもきっといい経験になったと思う。
逆に、「自分と違うな」と思う点はありますか?
T:違うというよりも、むしろ見習いたい部分が多いですね。NORIさんって、本当に“探究心”がすごいんですよ。何かを深く追いかけることに対して、時間を惜しまないというか。実際にその探求している姿を直接見たわけじゃないんですけど、話しているだけで伝わってくるんです。バイクが好きだったり、ファッションに対しての情熱だったり、好きなことが本当に多い。でもどれもただ“好き”で終わらずに、それぞれを徹底的に掘り下げていく。浅く広くじゃなくて、一つひとつの“好き”に深みがあるんですよね。まるで刀を何本も持っていて、それぞれを自分のコレクションとして磨き続けているような感覚というか。そうやって自分の中に取り込んで、ちゃんとアウトプットにつなげている。僕自身も音楽を作る人間として、その姿勢は本当に見習いたいなと思っています。
N:自分も見習いたいところはありますね。僕も昔、10代から20代半ばくらいまでラップをやってたんですよ。でも途中で諦めてしまって。だからこそ、Tみたいにずっと音楽を続けて、それをちゃんと形にしているのは本当にすごいなと思う。続けるって簡単なことじゃないし、覚悟や信念がないとできないことだから。そういう姿勢は、素直に尊敬していますね。
T:ありがとうございます。
N:Tのリリックって、すごく“らしい”というか、ストレートなんですよね。荒削りな部分もあるけど、その荒々しさが逆にすごく魅力的で、いつもいいなと思ってます。今回のショーでも彼にお願いしたんですけど、テーマが“16歳のときの思い出”だったんです。Tはもうキャリアの出だしではないけれど、あの未完成な熱量というか、まだ磨かれていない始まりの感じをすごく持っていて。それがこのテーマにぴったり合うなと思ったんです。そういう、まだ粗さが残っているのに力強い表現って、他のラッパーにはなかなかない。そこがTの大きな魅力で、僕はそこがすごく好きなんですよね。
T-STONEさんがSEVESKIGを好きになったきっかけはなんですか?
T:きっかけは、もう完全にNORIさんですね。ブランドとしてというより、まず人としてのNORIさんに惹かれたのが最初です。“NORIさんだからSEVESKIGが好きになった”という感じです。
音楽とファッション、それぞれの世界で「共通して大事にしていること」は何だと思いますか?
N:服を作る上で一番大事にしているのは“テーマ性”ですね。毎シーズンの始まりには、まずテーマをしっかり作るところから始めます。デザインや生地づくりよりも、そのテーマを考える時間の方が長いくらいで、だいたい2ヶ月くらいかけて練り上げるんです。テーマを深く掘り下げていく過程で、自分の中に芯が生まれる。そこからようやく素材を作りに工場へ行ったり、デザインに落とし込んだりしていく。もちろん生地やディテールにもこだわっていますが、すべての基盤にあるのは“テーマ”。そこに一番時間と情熱を注いでいます。
T:音楽を作る上で一番大切にしているのは、“何を伝えたいのか”という部分ですね。ラップって本当に奥が深くて、ただリズムに乗せて言葉を並べているようで、実は一言一句に意味があるんです。聴く人には会話のように聞こえるかもしれませんが、そこにはちゃんと自分の想いや意図が込められている。だからこそ、ただ思いついたことを並べるんじゃなくて、1曲ごとに“核”となるテーマや“背骨”のようなものを持つようにしています。あとは“音”。ビートの鳴りや質感から世界観を広げていく過程もすごく大事で、自分の心の中の感情や景色をどう音に変換できるかを常に意識しています。
お互いの表現を見て、「これは自分のやり方にも通じるな」と感じた部分はありますか?
N::表現の仕方は違っても、根本にあるプロセスや姿勢はすごく近いと思います。いろんなものをインプットして、それを自分なりに咀嚼してからアウトプットしていく。その流れは、ファッションでも音楽でも本質的には同じですよね。それに、ファンとの関係の築き方や、自分の世界観をどう伝えていくかという点でも、Tと自分はすごく似ている気がします。作っているものが違うだけで、やっていることの根っこはほとんど一緒だなと感じますね。
T:NORIさんを見ていて本当にすごいなと思うのは、好きなことへの“探求心”と、その幅の広さですね。好きなものが本当に多くて、しかも一つ一つを深く掘り下げている。自分も将来的にあんなふうに、たくさんの“好き”を持って生きていけたらいいなと思います。好きなことを見つけるのって実は簡単じゃなくて、それを追求するのにもエネルギーがいる。でも、好きだからこそ頑張れるし、音楽を作る上でもその探求心は欠かせません。好きなものがなければ、言葉も生まれないんですよね。それに、僕は音楽の世界の人間ですが、ファッションという全く違う世界に触れることが本当に刺激になるんです。たとえば、韓国でのファッションショーでは、ステージの裏側やモデル、メイク、スタイリストなど、すべての要素が一つのチームとして動く姿を間近で見て、ものづくりの奥深さを改めて感じました。ラップもファッションも“人の前に立つ”表現という意味では共通していて、シルエットやスタイルも含めた“自分の見せ方”の重要性を強く実感しましたね。今回の経験を通して、ファッションの持つ力や、自分の表現とのつながりをより深く考えるようになりました。
ちなみに⻑野さんがHip Hopを好きになったきっかけはなんですか?
N:Hip Hopに出会ったのは小学校5年生の頃でした。2つ上の兄貴がいて、ある日「これいいから聴けよ」って、Run-D.M.C.の『My Adidas』が入ったアルバムを聴かせてくれたのがきっかけですね。それまでは邦楽とかアニメの主題歌ばかり聴いていたんですけど、その時初めて洋楽、しかもHip Hopというジャンルに触れて、すごく衝撃を受けたのを覚えています。リズムの感じも、言葉のノリも、それまで聴いてきた音楽とはまったく違っていて、「こんな世界があるんだ」と強く惹かれました。そこからアメリカという国そのものにも興味を持つようになって、同時にファッションにも自然とハマっていきました。中学までは部活中心の生活だったので、外でHip Hopカルチャーに触れる機会はあまりなかったんですけど、高校に入ってから本格的にスケートを始めて、大会にも出るようになりました。当時は『Thrasher Magazine』や『101』のスケートビデオを観ていて、その中で流れていた音楽に、グリーン・デイやノートリアス・B.I.G.といったアーティストたちがいて。そういう映像や音からカルチャー全体のかっこよさに惹かれて、「自分もこういう世界で生きたいな」と思ったのが、Hip Hopにのめり込んでいきました。
長野さんの小学生時代というと30年前……?
N:もう35年くらい前ですね。
当時は日本においてどのくらいHip Hopが浸透していたのでしょうか?
N:俺が小学生の頃は、正直まだほとんど浸透してなかったと思います。もちろん年上の人たちの動きまではわからなかったけど、身の回りではHip Hopを聴いている人なんて全然いなかったですね。多分、日本で本格的にHip Hopが広がり始めたのは1993年とか95〜96年くらいなんじゃないかなと思ってて。その頃にZEEBRAさんやDJ MUROさんといった人たちが出てきて、日本のシーンを作っていった印象があります。
長年Hip Hopを見てきた中で⻑野さんの好きなラッパーやビートメーカーについても教えてください。
N:うーん、そうですね。プリモ(DJ Premier)はやっぱりすごく好きですね。あとはヤング・サグ(Young Thug)も好きだったし。Hip Hopだけじゃなくて、The Clash(クラッシュ)みたいなバンドも聴いてました。でも一番影響を受けたというか、高校生の頃に一番聴いていたのは、やっぱりDJ MUROさんですね。日本でHip Hopをやっていくうえで、あの人の存在は本当に大きかったと思います。
DJ MUROさんはまさしく日本のHip Hopシーンを変えたレジェンドのひとりですね
N:いまだにDJ MUROさんのカセットは持ってますよ。たぶん当時のものがまだ家に残ってると思います、すごく貴重ですよね。今回のコレクションにも、実はMUROさんへのオマージュを込めたアイテムがいくつかあって。ハンチングやキャップを逆にかぶるようなスタイルも、当時の彼の影響を感じながら取り入れました。
洋服のアウトプットをする際に、Hip Hopがインスピレーション源になることもありますか?
N:今シーズンはまさにそういうテーマだったんですよ。コレクション全体が“16歳の頃の記憶”をベースにしていて、当時の自分の頭の中の3分の1くらいはHip Hopでできてたと思うんです。だから、自然とそこからインスピレーションを引っ張ってきたっていう感覚ですね。
全部、服がきっかけで繋がっている、だからこそ、“服”という言葉を“幸福”の“福”と重ねて、このタイトルにしたんです
新曲『福』にはどんな想いを込めましたか?
T:実は服(ファッション)をテーマにした楽曲って、キャリアの中で初めてなんですよ。作ろうと思ったことはあったんですけど、世に出すのはこれが初。ようやくこのタイミングで出せたなっていう感じです。僕、ファッションは昔から好きなんですけど、本当に服が好きな人たちに比べたら全然無頓着な方で。でも最近ようやく、「ファッションってこういう風に楽しむものなんだ」とか、「こういうところが大切なんだ」って実感するようになってきたんです。たとえばさっきNORIさんが言っていたMy Adidas』をすぐ自分のSpotifyに入れたり、藍染のシューレースを買って自分のスーパースターに通してみたりとか。徳島出身なので藍染って地元のカルチャーでもあるし、自分なりのファッションの楽しみ方を見つけてる感じですね。
ご自身にとって、洋服とはどんな存在でしょうか?
T:服に対する思い入れには、もう少しパーソナルな背景もあります。僕、ほんまに貧乏育ちで、若い頃は服を買うお金なんて全然なくて。バイトで稼いだ2万円でメルカリで古着を買って、それをライブ衣装にしてました。先輩に服を譲って貰った分、今は逆に自分が後輩に服をあげる立場になっている。その“受け継がれていく感じ”も、僕にとっては“服”というテーマの一部なんです。転機になったのは、徳島のセレクトショップ『JACOMO』の海渡さんとの出会いです。僕のLIVEを見た海渡さんが声をかけてくれて、「うちの服を撮影の時に貸してあげるよ」って言ってくれたんです。あの時、リースという概念を初めて知りました。ANARCHYさんとかKOHHさんが着ていた服も、ブランドから借りてることがあるんだって。そこから、『JACOMO』を通じていろんな洋服に触れて、ファッションの奥深さを知っていきました。海人さんのおかげでフランスにも行けて、ファッションショーを生で体感して、最終的にNORIさんとも出会うことになる。全部、服がきっかけで繋がっているんです。だからこそ、“服”という言葉を“幸福”の“福”と重ねて、このタイトルにしたんです。洋服が人を繋げてくれて、そこから新しい出会いや縁が生まれる。その流れ自体が“福”なんだと思う。そして制作ではNORIさんや海渡さんが本気で向き合ってくれて、甘い評価じゃなく、ギリギリまで詰めてくれた。だからこそ、ただのファッションソングではない“魂のこもった一曲”になったと思います。
この楽曲の制作中、SEVESKIGの服やデザインから影響を受けた部分はありましたか?
T:今回のコレクションテーマが“MEMORIES”だったので、楽曲のサビにも“思い出”という要素を強く落とし込みました。NORIさんの10代の記憶や、当時NORIさんが影響を受けていた影響を受けたDJ MUROさん、1990年代のアーティスト、スケートカルチャーなど、その原体験を服という形で再構築しているのを見て、自分自身の“メモリー”とも向き合いたくなったんです。海渡さんともよく話すんですけど、「記憶って人間が都合よく書き換えていくもの」だって。たとえば、いま怪我をしたら最悪だと思うけど、1年後には「あの怪我があったから成長できた」って思うように、人の記憶は時間とともに柔らかく変化していく。その考え方がすごく面白くて、今回の“MEMORIES”というテーマにもすごくリンクしたんですよね。そこから、僕にとってのメモリーとは何か、服とは何かを改めて掘り下げました。昔はお金がなくて買えなかったラグジュアリーな服、でもその服たちがNORIさんや海渡さんとの出会いを生み、いまの自分に繋がっている、そうした服にまつわる記憶を歌詞に反映しています。たとえば曲中にある「破れた夢も繋ぎ直して、履き潰すまで着こなす」というライン。これは、革靴が履き込むほど味が出るように、自分の夢や人生も擦り切れるまで着こなしていくという意味を込めています。ファッションの比喩を通して、自分の生き方そのものを描いたんです。同じく共演した韓国のアーティスト NSW yoonも、自分の“服の記憶”をラップしています。彼は子どもの頃、adidasが流行っていたけど家が裕福ではなくて、母親が買ってくれたadidasの服を着て遠足に行ったら「偽物だ」って笑われた経験があるそうです。けれど彼はそれをきっかけに「いつか自分の力で好きな服を買えるようになる」と誓い、今それを実現している。その思いを“服が福を招く”という言葉に変えてラップしているんです。だからこの『福』という楽曲は、僕とyoonそれぞれの“服と記憶”を通じたストーリーが交差する作品になっています。ファッションと人生、そのどちらにも宿る“メモリー”を音楽で表現したんです。
トラックの雰囲気やサウンドメイクにはどんなこだわりがありますか?
T:ベースにあったのは“90年代ヒップホップの空気感”ですね。あの時代特有の、ちょっとざらついたビート感やソウルフルなムードは、今回の『福』にも欠かせない要素でした。ただ、今回は〈SEVESKIG〉のファッションショーで披露するという前提があったので、単にクラシックに寄せるのではなく、ランウェイで映えるテンポ感を意識しました。ファッションショーって、僕の中ではどこか速さや緊張感のあるイメージがあるんですよ。だから、いわゆる「ドン・ドゥ・タッ」という王道のビートではなく、少しだけテンポを上げたトラックを意識しました。サウンド面では、トランペットやサックスのような生音を取り入れて洒落感を出しつつも、やりすぎない。オシャレすぎると自分らしさから離れてしまうので、あくまでT-STONEらしい土っぽさを残したかったんです。今回のトラック制作には、プロデューサーのPACHI-YELLOWさんとMBC所属のKornyさんという、2人の強力なクリエイターに携わっていただきました。特にPACHI-YELLOWさんは、先日のDMC大会で日本一にもなったDJで、どうしても彼のスクラッチを入れたかった。Hip Hopのルーツって、やっぱりDJ文化、ブロックパーティーの時代にあるじゃないですか。スクラッチって、単なる音の装飾じゃなくて、ヒップホップの記憶そのものなんですよ。だからこの曲のテーマである“MEMORIES”にもすごく合っていて、スクラッチを入れるタイミングや流れにもかなりこだわりました。また、NORIさんから「ラップの掛け合いを入れてほしい」というリクエストがあって、曲の終盤では僕とyoonが2小節ずつ掛け合う構成になっています。リズムのぶつかり合い、テンションの重なりがショー全体の熱量を引き上げてくれる、そんな意識で作りました。
N:ビートも初めは割と90’sっぽい感じだったけど、途中からドラムっぽくちょっと切り替わったりしてたよね。「裏入れてみようか」みたいなね。あの試みは良かった。
楽曲『福』を通してユーザーに何を伝えたいですか?
T:一言で言うなら、「服に着られるんじゃなくて、着こなせ。」ですね。“服に着られる”というのは、そのブランドの背景やデザイナーの想いを知らずに、ただ「流行ってるから」や「ハイブランドだから」といった理由で身につけることだと思うんです。どんなに高価でも、どんなに話題になっている服でも、その服が持つストーリーや思想を理解していなければ、結局は“着られている”状態。逆に、その服が作られた背景や想いを知ったうえで、「自分の解釈」で着こなすことができれば、それはもう立派な自己表現だと思います。僕自身、おしゃれの達人ってわけじゃないですけど、そういう自分で選んで着るっていう姿勢はすごく大事にしています。そうやって服と向き合うことで、人との出会いも自然と広がっていくんですよね。実際、僕が今回〈SEVESKIG〉のNORIさんと出会えたのも、服が好きだったからこそ。ファッションが繋いでくれた縁なんです。それに今回、ファッションショーでライブするというのは、僕にとってもずっと夢のひとつでした。以前フランスに行ったとき、いろんなブランドのランウェイを生で見て、「いつか自分もこういう場に立ちたい」と本気で思ったんです。だから今回、〈SEVESKIG〉のショーのランウェイでマイクを握ってパフォーマンスできたことは、僕にとって歩いたと言っていいぐらい特別な経験でした。モデルとしてではなくても、自分の言葉と音でその空間に立てたという意味では、夢がひとつ叶った感覚がありますね。
N:ランウェイ歩くよりすごいんじゃない?(笑)
T:逆に!?ならよかったです。(笑)ファッションのおかげで自分が夢見たものを叶えさせてもらってるというか。だから好きなものを探求し続けるっていうのはすごい大切なことだということを伝えたいです。
最後に今後の展望について、お2人の構想はありますか?
N:そうですね。これまで〈SEVESKIG〉では約6回ほどショーという形でコレクションを発表してきたんですが、今後はショー以外の見せ方も模索していきたいと思っています。たとえばアーティストとコラボレーションして、新しい形で披露してみるとか。あるいは海外、うちの取扱店があるLAなどに行って、その土地でしかできない発信方法を試みるのも面白いなと考えています。ショーというフォーマットはすごく特別で、ブランドの世界観を一気に表現できるんですけど、もっと自由で、体験的な見せ方もあるんじゃないかと思っていて。そうした新しい形で〈SEVESKIG〉の“今”を伝えられたらいいなと思っています。
T:まず直近では、12月3日(水)にyoonとのコラボレーションによる6曲入りのEPをリリースします。その中には今回の『福』と前回リリースした『Travel』も収録されているので、ぜひ多くの人に聴いてもらいたいです。そして今後の展望としては、やっぱり僕の中で揺るがない夢は『日本武道館』です。日本人として生まれた以上、日の丸の下でライブをするというのは、ずっと掲げてきた目標です。今回yoonと制作していく中で、彼は韓国人で、僕は日本人という背景があって。そうした異なるルーツを持つ者同士でクリエイティブを重ねることで、改めて“自分が日本人である”という意識を強く感じました。日本人同士で活動していると当たり前になってしまう部分も、海外のアーティストと向き合うと、より鮮明に見えてくるんですよね。yoonは本当に日本のことが大好きで、そうした姿勢に触れるたびに「日本という国は本当に素晴らしい」と思わされます。僕自身も、音楽を通じて、そしてヒップホップというカルチャーを通じて、この国をもっと良くしていきたい。そんな想いを、これからも活動の軸にしていきたいと思っています。
ちなみにお2人の展望はありますか?
N::2人の展望か……。とりあえず飲みに行く(笑)。
T::近々飲みに行きます。
アーティスト:T-STONE
タイトル:『福』
配信日:11月19日(水)
配信リンク
and integrate them seamlessly into the new content without adding new tags. Ensure the new content is fashion-related, written entirely in Japanese, and approximately 1500 words. Conclude with a “結論” section and a well-formatted “よくある質問” section. Avoid including an introduction or a note explaining the process.










