様々な憶測が飛び交っていた数ヶ月間を経て、先日、〈Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)〉がVirgil Abloh(ヴァージル・アブロー)のメンズウェアデザイナー就任を正式に発表した。今年初頭に退任したKim Jones(キム・ジョーンズ)の後任となるわけだが、そのニュースがファッションシーン全体に衝撃を与えたのは言うまでもない。Ablohは、アフリカ系アメリカ人初となる〈Louis Vuitton〉のアーティスティックディレクターとなり、フランスの伝統を重んじる同ブランドにおける3人目の黒人シニアデザイナーとなったのだ。
Ablohの就任は、ファッション業界全体が変革期に差し掛かっていることも意味している。今まで以上に、ストリートウェアと伝統的なラグジュアリーファッションの距離が縮まっているということだ。これは前任者が長年にわたり取り組んできたことでもあり、昨年話題になった〈Supreme(シュプリーム)〉とのコラボレーションを見れば、2つの境界線が曖昧になってきていることを理解しやすいだろう。Ablohのデビューコレクションは、7月に行われるパリファッションウィークでお披露目となる予定。その前に、我々『HYPEBEAST』はファッションシーンのキーマンたちに話を聞いた。
JULIEN BOUDET/HYPEBEAST
ーまず、このニュースには驚きましたか?
Samuel Ross(サミュエル・ロス)/ 〈A-COLD-WALL*(ア・コールド・ウォール)〉ファウンダー兼クリエイティブディレクター:素晴らしいニュースだよ。休むことなく、洗練されたプロダクトやファッションの新たな境地を模索し続けているのがVirgilなんだ。しっかりとシーンに受け入れられ、人々の購買意欲も掻き立てる。彼は、人々の想像を超えるクレバーなメンズウェアを生み出すことができるんだ。
Angelo Flaccavento(アンジェロ・フラッカヴェント)/ ファッションジャーナリスト:特に驚きませんでした。それは数ヶ月にわたり様々な噂が飛び交っていたからだけではありません。今回の人選は私たちが抱くハイプを映し出すものであり、コミュニケーションがもたらしたものだと考えています。Ablohはデザインの天才ではありませんが、コミュニケーションにおいては非常にスマートなんです。また、彼は最も文化的なデザイナーとは言えませんが、人々にそう思わせるよう行動することに優れています。そして何より、普通のアイテムにクールな雰囲気をプラスすることができるんです。〈Louis Vuitton〉から見て、彼を敬遠する理由はないですよね?
Stavros Karelis(スタブロス・カリレス)/ 『Machine-A』ファウンダー兼バイイングディレクター:ここ最近のKim JonesやHedi Slimane(エディ・スリマン)、Riccardo Tisci(リカルド・ティッシ)らの動向から見ても、「VirgilがLouis Vuittonのメンズウェアデザイナーになるのでは?」と予想していた人は多かっただろうね。でも、正式な発表があるまでは真実じゃない。ギリギリでの大どんでん返しだってあるわけだからね。
Lawrence Schlossman(ローレンス・シュロスマン)/ 『Grailed』ブランドディレクター:Kim Jonesがを去る以前から、Virgilのことは噂になっていたよね。けれど、やっぱりオフィシャルな発表を聞いたときは驚いたね。
Joerg Koch(イエルク・コーク)/ 『032c』ファウンダー兼チーフエディター:噂が出始めてから結構時間が経っていたからね。今回は、幸運にも噂が現実になったって感じかな。
“Kim Jonesが残した遺産をVirgil以上にいい形で継承できる人はいないと思う”
ーAblohは、〈Louis Vuitton〉にどのような変化をもたらすと思いますか?
Angelo:おそらく、ストリート志向の若い感性をもたらすと思います。ただし、彼が「自分は正統派デザイナーだ」と世界に訴えようとし、実験経路を進まなければの話です。そうなると、最悪のシナリオになってしまうでしょうね。
Stavros:ここ数年のVirgilや〈Off-White™(オフホワイト)〉を見ればわかるように、自身のワークに文化的で政治的なメッセージをプラスすることで、彼は幅広い層にアプローチできるということを実証したと思う。コラボレーションや表現方法を取っても、近年では類を見ないやり方を用いて人気を獲得している。若い層が彼を崇拝しているのは言うまでもなく、旧世代の人たちだって彼を認めざるを得ない状況なんだ。それはプロダクトに限ったことではなく、社会への影響力を生み出す能力もさ。Kim Jones時代の〈Louis Vuitton〉も似たようなアプローチを実践し、男心をくすぐるファッションを提供するためラグジュアリーとストリートの融合へと進んでいた。こういったアプローチにおいて、Kim Jonesが残した遺産をVirgil以上にいい形で継承できる人はいないと思う。様々な表現方法やアイデアを通して、この象徴的なブランドとロゴをユースやストリートカルチャー、さらなる注目へとつなげることは可能さ。
Lawrence:VirgilはKim Jonesが築いた遺産を受け継ぎながら、この最も名高いブランドにエネルギーを注入してくれると思う。そして、進歩的な方法でメンズビジネス全体を形成してくれるんじゃないかな。
Joerg:すでに〈Louis Vuitton〉は変わったよ。黒人のアマチュアデザイナーをメンズウェアのアーティスティックディレクターに起用したわけだから。
Thibault Montamat/New York Times
“今回の人選は私たちが抱くハイプを映し出すものであり、コミュニケーションがもたらしたものだと考えています。Ablohはデザインの天才ではありませんが、コミュニケーションにおいては非常にスマートなんです”
ー〈Louis Vuitton〉でのAblohの仕事は、〈Off-White™〉でのそれと比べてどんな違いが出ると思いますか?
Angelo:彼は〈Louis Vuitton〉のラグジュアリーな要素を強調してくると思います。ただ、全体的な美的感覚は〈Off-White™〉とさほど変わらないでしょう。もちろん、私の意見は的外れかもしれませんが。
Stavros:世界中を見わたしても、〈Louis Vuitton〉ほどパワフルかつ有名なブランドはない。まさに、ラグジュアリーとロゴの代表的成功例さ。けれども、その超パワフルなラグジュアリーブランドが若い世代とコネクトする必要があるんだ。これまで築いてきた伝統を維持しながらも、現在進行形のシーンとつながらなくてはいけないということさ。その点、Virgilはブランドにとっての新たな道を切り開くことができるはずだ。自身のブランドがそうだったようにね。唯一異なるのは規模感かな。〈Louis Vuitton〉のファンはVirgilのブランドのファンとは数の面で桁が違う。〈Louis Vuitton〉はストリートカルチャーに歩み寄ろうとしているラグジュアリーブランドで、一方のVirgilはストリートカルチャーからラグジュアリーへと移行していった。スタート地点は違うけれど、Virlgilの就任でラグジュアリーとストリートの定義も変わってくるだろうね。でき上がるプロダクトは違うけれど、アプローチの仕方に関しては、これまで彼がやってきたことと似たようなものになるんじゃないかと考えているよ。ラグジュアリーとストリートの意味を見直して、より現代にマッチしたものへと変えることはできると思う。
Lawrence:これから彼が〈Louis Vuitton〉でやっていくこと、そして〈Off-White™〉でのコアビジネス、それぞれには明確なビジョンがあるはず。仮に、そういった方向性がないのであれば、「LVMH」が〈Off-White™〉を買収するといった動きもあるかもしれない。どちらにせよ、Virgilが〈Off-White™〉の成功で得た経験をうまく活用することを期待している。特にアクセサリーとコラボレーションでね。
Joerg:〈Louis Vuitton〉とでは、その背景がまったく異なる。Virgilはその通りに行動すると思うね。
ーストリートウェアにとって、この動きはどんな意味を持っているとお考えですか?
Angelo:ストリートウェアにとっては最後の賛美となるだろうね。白鳥の歌にもなり得る。
Stavros:ストリートウェアやストリートカルチャーが持つパワーは計り知れない。だからこそ、巨大なファッションブランドがリンクしたがっているのさ。ストリートカルチャーは幅広い層に問いかけることができる。多種多様な人種に受け入れられているんだ。そして、現実社会で何が起きているのかをよりタイムリーに、より正確に映し出している。政治的、文化的な問題にだって敏感さ。だからこそ、この動きはストリートウェアにおけるルネッサンスだと考えているよ。もちろん、重要な意味を持ち、カルチャーと密接につながっているストリートウェアに限っての話だけどね。
Lawrence:ストリートウェアは今回のような出来事を必要としていたのか、望んでいたのかは別として、Virgil Ablohが〈Louis Vuitton〉のデザイナーに就任したことでハッキリするのは、デザイン面においてもビジネス面においても、サブカルチャーの存在がファッションの世界でしっかりと認知されているということさ。
Joerg:Virgil Ablohの就任はストリートウェアにとって歴史的な出来事だと思う。なぜなら、その存在価値を上位層にも認められたわけだから。巨大なラグジュアリーファッショングループ(KeringやLVMH)がリアルなマーケットに反応したんだ。誰がデジタルの世界でバズを起こせるのか、誰がエネルギーを生み出すのか、誰がラグジュアリーグッズを購入するのか? それはミレニアル世代であり、ジェネレーションZなのさ。Virgil Ablohはこういった層に育てられ、こういった層のことをちゃんと理解している。ラグジュアリーファッションにとっても重要なことで、必要なのはファッションの専門的な勉強をしてきたかどうかではないんだ。
“Virgil Ablohがのデザイナーに就任したことでハッキリするのは、デザイン面においてもビジネス面においても、サブカルチャーの存在がファッションの世界でしっかりと認知されているということさ”
Imaxtree
ーファッション業界における古い体質にも変化は現れると思いますか?
Angelo:スマートなノンプロによるシステムへの復讐ですよ。見せかけが本物のデザインに勝利したんです。
Stavros:業界で働く人の多くは、この何十年も続く古い体質を見直そうとしているはずさ。なぜなら、それは今現在何が起きているのかを本当の意味で映し出すものではないから。いつだって変化は必要なんだ。失敗を恐れず、前へ進むことがね。
Lawrence:ある意味、Virgil Ablohは患者第一号なんだ。影響力のある有色人種が、ついに閉鎖的で時代の逆を行く考え方のファッション業界に風穴を開けるって意味でね。プレッシャーはすごいだろうけど、間違いなく正しい方向への第一歩さ。これは始まりに過ぎないんだ。
ーこれまでの〈Louis Vuitton〉の顧客は、今回の人選に対してどう思うんでしょうか?
Angelo:全ては新たな顧客を獲得するためなんです。年配の人たちは、おそらく若返った気分になるんじゃないでしょうか。
Stavros:これまでの〈Louis Vuitton〉の顧客こそ、革新的なものや独自性、今日で言うところのラグジュアリーを求めているんじゃないかな。ラグジュアリーというのは、考えようによっては限定アイテムって意味にもなるからね。そういった限定アイテムは、伝統的なものにユニークな要素をプラスして具体化されるもの。同時に、揺るぎない信念と文化的つながりを生み出すのさ。そういった意味では、昔からの顧客はVirgilのアプローチを喜んで受け入れるような気がするよ。
Lawrence:すでにKim Jonesが確固たる基盤を築いているから、Virgilの就任に関係なく、〈Louis Vuitton〉のメンズビジネスはしっかりした青写真を描けていると思う。世界中の若者に支持されているブランドだし、そういった層から絶大な人気を誇る人物を重要ポストに採用することで、ブランドへの忠誠はより高まるんじゃないかな。
Joerg:Kim JonesからVirgil Ablohに変わったことで、〈Louis Vuitton〉のメンズウェアが顧客に対して大きなショックを与えることはないと思う。顧客はより刺激的なモーメントを求めていて、Virgilはそれを供給することができるんじゃないかな。
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Source: HYPE BEAST