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新作フレグランスのインスタレーション会場をレポート

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三宅一生が“最も長く構想した”フレグランスが誕生 テーマは「塩」

 イッセイ ミヤケ パルファムの誕生は、1992年に登場した「ロードゥ イッセイ」に遡る。“イッセイの水”と名付けられたピュアでフレッシュなフレグランスは、生命の源で無限の可能性を秘めた素材である「水」にフォーカスを当てた。「生命の源」は三宅氏のフレグランスにおいて常にインスピレーションの根底にあり、美しい香りの数々を生み出してきた。ロードゥ イッセイの登場から2年後の1994年には「ロードゥ イッセイ プールオム」が誕生。澄んだ透明感と気品を宿す不朽の名香として、今もなお世界中で人気を集めている。

「ル セルドゥ イッセイ オードトワレ」(50mL 1万780円、100mL 1万4850円、レフィル 150mL 1万6940円)

Imaged by イッセイ ミヤケ パルファム

 名香の誕生から30年ーー。現代のマスキュリニティを揺さぶり、大地や生命のエレメントを感じさせる新たな香り「ル セルドゥ イッセイ」のテーマは、水と同じく人の生命に欠かせない「塩」。実は三宅氏は1990年代から、「塩」をテーマにした香りの構想を持っていたそうだ。2022年に惜しまれながら逝去した、稀代のデザイナー 三宅一生が“最も長く構想した”フレグランスと言える。

 本来匂いのない塩に香りを与えたのは、調香師 カンタン・ビシュ氏。三宅氏が遺した塩というテーマを彼が独自に解釈し、大地に残された水の記憶や、刻印のように堆積した塩がインスピレーションとなったという。「『波が大地を覆い、そして引いていく瞬間』を香りに閉じ込めた」と話す。海を表現するのは天然由来のマリン シーウィードとオークモス。そして大地のエネルギーを思わせるジンジャーや、多彩でパワフルなミネラル感を醸し出すベチバー、アップサイクルされたシダーウッドが織り重なり、海と大地の邂逅(かいこう)が、生き生きとした生命力を感じさせる香りへと仕上げられた。

 ボトルデザインを手掛けた吉岡氏は、30年以上イッセイ ミヤケのプロジェクトに携わり、さまざまなプロダクトや空間デザインを生み出してきたが、イッセイ ミヤケのフレグランスボトルをデザインするのは今回が初めて。吉岡氏は、塩というテーマを光で表現するため、ガラスという素材で、シャープな直線から楕円へと流れるようなラインと彫刻的なフォルムを生み出した。ボトルの底にデザインされたガラスの塊の中の水滴。そこから、力強い重厚感と、生命のエネルギーを象徴するような光を放つボトルが生まれた。

香りのベールをくぐり、“塩”のイマジネーションを表す展覧会

 イッセイ ミヤケと吉岡氏の関係性は、多くの人が知るところ。インスタレーションもさまざまなテーマで制作してきた。そんな吉岡氏が今回表現するのが、香りの世界。展覧会ではボトルデザインに込めた発想を起点に、感覚を呼び覚ますダイナミックな体験に挑戦した。

 エントランスでは、ル セルドゥ イッセイの香りがするミストがゲストを出迎え、インスタレーション会場へと誘う。吉岡氏のシンプリシティの美学を体現するかのようなガラスの球体のオブジェは、開けると香りが広がる仕組みに。フレグランスボトルは実物の塩の結晶とともに展示し、無機質なマテリアルと自然のマテリアルを同居させた。

 また彫刻的なフォルムのボトルデザインが生み出されるまでのプロセス、および試作品を公開。会場限定の映像作品は、香りを手掛けたカンタン氏のインタビューや、過去に写真家のアーヴィング・ペン(Irving Penn)が撮影したイッセイ ミヤケ パルファムのヴィジュアルなどを限定で公開。そのほか三宅氏をはじめ、吉岡氏やカンタン氏、ヴィジュアルイメージを手掛けたマーカス・トムリンソン氏のバイオグラフィーとともに、各人が担当したパートへの想いが記されたパネルも用意されている。

ISSEY MIYAKE PARFUMS: LE SEL D’ISSEY HERO MOVIE Video by Marcus Tomlinson

■ISSEY MIYAKE LE SEL D’ISSEY: Imagination of Salt
会期:8月28日(水)〜9月8日(日)※会期中無休
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
開館時間:10:00〜19:00
入場料:無料

Interview with 吉岡徳仁:三宅一生との香りの対話、ボトルデザインと香りの関係、香りのインスタレーションで描くもの

⎯⎯吉岡氏は三宅氏とは長きに渡ってコラボレーションされてきましたが、三宅氏とはどんな人物でしょうか?

 一言ではとても難しいですが、ずっと思っていたのは「モノづくりに一生を捧げた人」だということ。これまでにない、新しいものを生み出す喜びを純粋に楽しんでいらっしゃる人で、一緒に仕事をすると私もその喜びを共有させていただける。もちろん大変な部分もたくさんありましたが、振り返ると面白いプロジェクトばかりでしたね。

⎯⎯三宅氏と「香り」について何か対話をしたことはありますか?

 直接何か語り合ったようなことはありませんでした。ロードゥ イッセイを発売した当時の多くのフレグランスは、セクシーやラグジュアリーというイメージが強く、そういうフレグランスが人気を集めていましたが、この香りはいわゆるトレンドとは一線を画しピュアで透明感があり、ボトルのデザインもシンプルで美しいという全く新しいアプローチだったと思います。香りのプロダクトであっても、一生さんらしい新しいものへの挑戦が詰め込まれたものなんだと感じていました。

⎯⎯今回のル セルドゥ イッセイのプロジェクトについて、生前の一生さんとはどんなお話を交わしたのでしょうか。

 プロジェクトが本格的に始まる前、2020年に一生さんに電話した時に「塩の香りを創ろうと思っている」と仰っていたんです。僕は率直に「塩からインスパイアされた香りってどんなものだろう」と思ったのですが、お聞きするタイミングを逃してしまって…。今度会ったら打ち合わせをしようと話していた矢先に訃報を受け取りました。この時の電話が一生さんとの最後の会話でした。

⎯⎯長年のコラボレーションの中で、意外にもフレグランスボトルのデザインを手掛けるのは初めてだとお聞きしました。

 まずはフレグランスというプロダクトについて、業界の基本的なことなどをリサーチするところから始めました。新しいカテゴリーという意味で、これまでご一緒させていただいたコラボレーションにはないプロセスがあり新鮮でした。とはいえ、イッセイ ミヤケとのコラボレーションの根底にある「新しいものを創る」という考えは今回も変わらずに常に念頭にありましたが。

⎯⎯「塩の香り」をフレグランスボトルにどうやって落とし込んだのでしょうか。

 まずは僕なりに、「一生さんのインスピレーションになった塩」とはどんなものだろうかと解釈を深めていきました。塩と聞いて、まずは食べ物や海の塩(潮)が思い浮かびましたが、日本人にとっては神事に扱われるように神聖なイメージもある。そんなふうに、塩の多面性とその魅力を表現できないかと。視覚的な要素というよりは、塩が持つ輝きや光そのもの、そして大地の力強さをボトルに落とし込み、この光を表現するため、ガラスと光沢のあるメタリック素材を組み合わせています。そして力強さや、より「放たれる光」を感じられるように、水滴のようなくりぬきを施しました。

Imaged by Masaru Furuya

⎯⎯デザイン面で難しかった点は?

 フレグランスのボトルデザインは、ブランドが最初の香り(ロードゥ イッセイ)を発売した30年以上前と比べてあらゆるものが生み出されていて、「新しいものを作る」というアプローチが非常に難しいものでもありました。ですが、だからこそ、変わった形状にするのではなく、「一見シンプルなのにどこか違う」と感じられるようなデザインに挑戦したいと考えたのです。正面から見ると長方形ですが、近づいて触れてみると楕円形のことが分かるという風に。インスタレーション会場にはいくつかデザインプロセスを展示していますが、これはほんの一部。実際は展示している倍以上のテストやサンプルを重ねています。ガラスのくりぬき部分も、さまざまな丸みや大きさで試行錯誤を重ね、3Dのデモンストレーションでも何パターンも光の反射具合などをテストしてみました。グラフィックも、中身のフレグランスとボトルデザインが際立つように細かく調整しました。

⎯⎯今回のインスタレーションのテーマは“目には見えない”香りです。ボトルのデザインから発想し、どのように展示や空間デザインを考えましたか?

 これまでの空間デザインと大きく異なる「香りを可視化する」ために、もっとも重要視したのは「体験」です。香りを体験して、といっても、いわゆる鼻で香りを嗅ぐだけではなく、全身で感じて、その体験を持ち帰っていただけるようなインスタレーションにしたかったのです。香りは記憶と深く結びつくものだと言われていますが、このインスタレーションから何か新しい香りの体験を記憶として持ち帰っていただけたらという思いでデザインしました。そして、僕がインスタレーションなどを作るときにいつも念頭にあるのは、「空気感」や「何もしない空間」を、「いかにつくらずして生み出すか」ということ。特に今回のような香りとボトルデザインにおいては、シンプルに美しさが際立つものにしたかった。会場の「21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3」は少し変わった形のスペースで、映像が展示してある中央の空間は、あえてゆとりを持たせた展示スペースをデザインしました。

⎯⎯吉岡さんの視点で、本展の見どころを教えてください。

 まずは入り口のミストはぜひ体験していただきたいです。それからボトルと一緒に展示している塩の結晶は本物を用意しました。自然の産物なので個体差があり、「これだ」というものを見つけるのが予想以上に難しかった。構想段階では、巨大な結晶を置くことも考えていたんです。よく見てみると表面の光の反射や透明感が一つずつ異なるので、塩が持つ光の要素をより体感できるのではないかと思います。香りを試すコーナーもマテリアルにこだわりました。ムエットやガラスの漏斗で香りを試すことが多いと思いますが、今回はガラスの球体のフタを開けることで、ル セルドゥ イッセイの香りが広がる仕組みになっています。

⎯⎯三宅氏がこのインスタレーションを見たら、何と声をかけると思いますか?

 いつも僕が携わらせていただいたコラボレーションやデザインが完成しても、特に自分から報告をするようなことはしていませんでした。周りの方々が、それとなくどんな反応だったかを教えてくれるという感じでしょうか。でも、「いいんじゃないかな」と言ってくれたら嬉しいですね。

■吉岡徳仁
1967年生まれ。倉俣史朗、三宅一生のもとでデザインを学び、2000年に吉岡徳仁デザイン事務所を設立。デザイン、建築、現代美術の領域において活動し、国際的に高く評価されている。代表先は東京2020オリンピックトーチのほか、パリ・オルセー美術館に常設展示されているガラスのベンチ「Water Block」、結晶の椅子「VENUS」など。

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三宅一生が“最も長く構想した”フレグランスが誕生 テーマは「塩」

 イッセイ ミヤケ パルファムの誕生は、1992年に登場した「ロードゥ イッセイ」に遡る。“イッセイの水”と名付けられたピュアでフレッシュなフレグランスは、生命の源で無限の可能性を秘めた素材である「水」にフォーカスを当てた。「生命の源」は三宅氏のフレグランスにおいて常にインスピレーションの根底にあり、美しい香りの数々を生み出してきた。ロードゥ イッセイの登場から2年後の1994年には「ロードゥ イッセイ プールオム」が誕生。澄んだ透明感と気品を宿す不朽の名香として、今もなお世界中で人気を集めている。

「ル セルドゥ イッセイ オードトワレ」(50mL 1万780円、100mL 1万4850円、レフィル 150mL 1万6940円)

Imaged by イッセイ ミヤケ パルファム

 名香の誕生から30年ーー。現代のマスキュリニティを揺さぶり、大地や生命のエレメントを感じさせる新たな香り「ル セルドゥ イッセイ」のテーマは、水と同じく人の生命に欠かせない「塩」。実は三宅氏は1990年代から、「塩」をテーマにした香りの構想を持っていたそうだ。2022年に惜しまれながら逝去した、稀代のデザイナー 三宅一生が“最も長く構想した”フレグランスと言える。

 本来匂いのない塩に香りを与えたのは、調香師 カンタン・ビシュ氏。三宅氏が遺した塩というテーマを彼が独自に解釈し、大地に残された水の記憶や、刻印のように堆積した塩がインスピレーションとなったという。「『波が大地を覆い、そして引いていく瞬間』を香りに閉じ込めた」と話す。海を表現するのは天然由来のマリン シーウィードとオークモス。そして大地のエネルギーを思わせるジンジャーや、多彩でパワフルなミネラル感を醸し出すベチバー、アップサイクルされたシダーウッドが織り重なり、海と大地の邂逅(かいこう)が、生き生きとした生命力を感じさせる香りへと仕上げられた。

 ボトルデザインを手掛けた吉岡氏は、30年以上イッセイ ミヤケのプロジェクトに携わり、さまざまなプロダクトや空間デザインを生み出してきたが、イッセイ ミヤケのフレグランスボトルをデザインするのは今回が初めて。吉岡氏は、塩というテーマを光で表現するため、ガラスという素材で、シャープな直線から楕円へと流れるようなラインと彫刻的なフォルムを生み出した。ボトルの底にデザインされたガラスの塊の中の水滴。そこから、力強い重厚感と、生命のエネルギーを象徴するような光を放つボトルが生まれた。

香りのベールをくぐり、“塩”のイマジネーションを表す展覧会

 イッセイ ミヤケと吉岡氏の関係性は、多くの人が知るところ。インスタレーションもさまざまなテーマで制作してきた。そんな吉岡氏が今回表現するのが、香りの世界。展覧会ではボトルデザインに込めた発想を起点に、感覚を呼び覚ますダイナミックな体験に挑戦した。

 エントランスでは、ル セルドゥ イッセイの香りがするミストがゲストを出迎え、インスタレーション会場へと誘う。吉岡氏のシンプリシティの美学を体現するかのようなガラスの球体のオブジェは、開けると香りが広がる仕組みに。フレグランスボトルは実物の塩の結晶とともに展示し、無機質なマテリアルと自然のマテリアルを同居させた。

 また彫刻的なフォルムのボトルデザインが生み出されるまでのプロセス、および試作品を公開。会場限定の映像作品は、香りを手掛けたカンタン氏のインタビューや、過去に写真家のアーヴィング・ペン(Irving Penn)が撮影したイッセイ ミヤケ パルファムのヴィジュアルなどを限定で公開。そのほか三宅氏をはじめ、吉岡氏やカンタン氏、ヴィジュアルイメージを手掛けたマーカス・トムリンソン氏のバイオグラフィーとともに、各人が担当したパートへの想いが記されたパネルも用意されている。

ISSEY MIYAKE PARFUMS: LE SEL D’ISSEY HERO MOVIE Video by Marcus Tomlinson

■ISSEY MIYAKE LE SEL D’ISSEY: Imagination of Salt
会期:8月28日(水)〜9月8日(日)※会期中無休
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
開館時間:10:00〜19:00
入場料:無料

Interview with 吉岡徳仁:三宅一生との香りの対話、ボトルデザインと香りの関係、香りのインスタレーションで描くもの

⎯⎯吉岡氏は三宅氏とは長きに渡ってコラボレーションされてきましたが、三宅氏とはどんな人物でしょうか?

 一言ではとても難しいですが、ずっと思っていたのは「モノづくりに一生を捧げた人」だということ。これまでにない、新しいものを生み出す喜びを純粋に楽しんでいらっしゃる人で、一緒に仕事をすると私もその喜びを共有させていただける。もちろん大変な部分もたくさんありましたが、振り返ると面白いプロジェクトばかりでしたね。

⎯⎯三宅氏と「香り」について何か対話をしたことはありますか?

 直接何か語り合ったようなことはありませんでした。ロードゥ イッセイを発売した当時の多くのフレグランスは、セクシーやラグジュアリーというイメージが強く、そういうフレグランスが人気を集めていましたが、この香りはいわゆるトレンドとは一線を画しピュアで透明感があり、ボトルのデザインもシンプルで美しいという全く新しいアプローチだったと思います。香りのプロダクトであっても、一生さんらしい新しいものへの挑戦が詰め込まれたものなんだと感じていました。

⎯⎯今回のル セルドゥ イッセイのプロジェクトについて、生前の一生さんとはどんなお話を交わしたのでしょうか。

 プロジェクトが本格的に始まる前、2020年に一生さんに電話した時に「塩の香りを創ろうと思っている」と仰っていたんです。僕は率直に「塩からインスパイアされた香りってどんなものだろう」と思ったのですが、お聞きするタイミングを逃してしまって…。今度会ったら打ち合わせをしようと話していた矢先に訃報を受け取りました。この時の電話が一生さんとの最後の会話でした。

⎯⎯長年のコラボレーションの中で、意外にもフレグランスボトルのデザインを手掛けるのは初めてだとお聞きしました。

 まずはフレグランスというプロダクトについて、業界の基本的なことなどをリサーチするところから始めました。新しいカテゴリーという意味で、これまでご一緒させていただいたコラボレーションにはないプロセスがあり新鮮でした。とはいえ、イッセイ ミヤケとのコラボレーションの根底にある「新しいものを創る」という考えは今回も変わらずに常に念頭にありましたが。

⎯⎯「塩の香り」をフレグランスボトルにどうやって落とし込んだのでしょうか。

 まずは僕なりに、「一生さんのインスピレーションになった塩」とはどんなものだろうかと解釈を深めていきました。塩と聞いて、まずは食べ物や海の塩(潮)が思い浮かびましたが、日本人にとっては神事に扱われるように神聖なイメージもある。そんなふうに、塩の多面性とその魅力を表現できないかと。視覚的な要素というよりは、塩が持つ輝きや光そのもの、そして大地の力強さをボトルに落とし込み、この光を表現するため、ガラスと光沢のあるメタリック素材を組み合わせています。そして力強さや、より「放たれる光」を感じられるように、水滴のようなくりぬきを施しました。

Imaged by Masaru Furuya

⎯⎯デザイン面で難しかった点は?

 フレグランスのボトルデザインは、ブランドが最初の香り(ロードゥ イッセイ)を発売した30年以上前と比べてあらゆるものが生み出されていて、「新しいものを作る」というアプローチが非常に難しいものでもありました。ですが、だからこそ、変わった形状にするのではなく、「一見シンプルなのにどこか違う」と感じられるようなデザインに挑戦したいと考えたのです。正面から見ると長方形ですが、近づいて触れてみると楕円形のことが分かるという風に。インスタレーション会場にはいくつかデザインプロセスを展示していますが、これはほんの一部。実際は展示している倍以上のテストやサンプルを重ねています。ガラスのくりぬき部分も、さまざまな丸みや大きさで試行錯誤を重ね、3Dのデモンストレーションでも何パターンも光の反射具合などをテストしてみました。グラフィックも、中身のフレグランスとボトルデザインが際立つように細かく調整しました。

⎯⎯今回のインスタレーションのテーマは“目には見えない”香りです。ボトルのデザインから発想し、どのように展示や空間デザインを考えましたか?

 これまでの空間デザインと大きく異なる「香りを可視化する」ために、もっとも重要視したのは「体験」です。香りを体験して、といっても、いわゆる鼻で香りを嗅ぐだけではなく、全身で感じて、その体験を持ち帰っていただけるようなインスタレーションにしたかったのです。香りは記憶と深く結びつくものだと言われていますが、このインスタレーションから何か新しい香りの体験を記憶として持ち帰っていただけたらという思いでデザインしました。そして、僕がインスタレーションなどを作るときにいつも念頭にあるのは、「空気感」や「何もしない空間」を、「いかにつくらずして生み出すか」ということ。特に今回のような香りとボトルデザインにおいては、シンプルに美しさが際立つものにしたかった。会場の「21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3」は少し変わった形のスペースで、映像が展示してある中央の空間は、あえてゆとりを持たせた展示スペースをデザインしました。

⎯⎯吉岡さんの視点で、本展の見どころを教えてください。

 まずは入り口のミストはぜひ体験していただきたいです。それからボトルと一緒に展示している塩の結晶は本物を用意しました。自然の産物なので個体差があり、「これだ」というものを見つけるのが予想以上に難しかった。構想段階では、巨大な結晶を置くことも考えていたんです。よく見てみると表面の光の反射や透明感が一つずつ異なるので、塩が持つ光の要素をより体感できるのではないかと思います。香りを試すコーナーもマテリアルにこだわりました。ムエットやガラスの漏斗で香りを試すことが多いと思いますが、今回はガラスの球体のフタを開けることで、ル セルドゥ イッセイの香りが広がる仕組みになっています。

⎯⎯三宅氏がこのインスタレーションを見たら、何と声をかけると思いますか?

 いつも僕が携わらせていただいたコラボレーションやデザインが完成しても、特に自分から報告をするようなことはしていませんでした。周りの方々が、それとなくどんな反応だったかを教えてくれるという感じでしょうか。でも、「いいんじゃないかな」と言ってくれたら嬉しいですね。

■吉岡徳仁
1967年生まれ。倉俣史朗、三宅一生のもとでデザインを学び、2000年に吉岡徳仁デザイン事務所を設立。デザイン、建築、現代美術の領域において活動し、国際的に高く評価されている。代表先は東京2020オリンピックトーチのほか、パリ・オルセー美術館に常設展示されているガラスのベンチ「Water Block」、結晶の椅子「VENUS」など。

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