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目次
空間設計が印象的だったミス ディオール展覧会
⎯⎯展覧会「ミス ディオール 展覧会 Stories of a Miss ある女性の物語」に足を運ばれました。ミューズを務め長い年月をミス ディオールと過ごしていると思いますが、今回の展覧会はどんな思いで観られましたか?
まず空間設計が印象的で、五感が研ぎ澄まされるような感覚に導いてくれるものでした。例えばですが、円形の部屋は聖堂のチャペルのようで、中にいると外の音は全く聞こえず心が落ち着きましたし、一方でチュールがあしらわれた部屋はまるで母のスカートの下に隠れている子どもの頃に戻ったような、遊び心があふれる感覚になりましたし、触れてみたい、という感覚にもなりました。
⎯⎯「お母さんのスカートの下」とは、とても素敵な表現ですね。私もそんなことをしていたなと思い出しました(笑)。そのほかにも視覚だけでなく、嗅覚や聴覚にも訴えかけられる仕掛けがたくさんありました。
幾千もの花々の刺しゅうが施されたミス ディオール ドレスが飾られた部屋ではその美しさに魅了され、そして置かれていたオブジェから香ってきた、ジャスミンやチュベローズなどの香りを全身で浴びて、嗅覚Fを刺激されました。さらにはミス ディオールの歴史を巡る近未来的な螺旋状の道では視覚的に訴えかけてくるものがありました。そのほか、写真や絵画、コレクションに出された洋服や衣装がずらりと並んだ空間など、全身の感覚、五感が覚醒される展覧会だったと思います。
東京・六本木で開催された展覧会「ミス ディオール 展覧会 Stories of a Miss ある女性の物語」
Image by ディオール
ミス ディオールとは、一緒に進化する存在
⎯⎯長くミス ディオールのミューズを務めています。ナタリーさんにとってミスディオールとはどういった存在でしょうか。
ミス ディオールの“キャラクター”を長年演じてきたことで、このキャラクターの進化とともに、私自身の人生の変化と重なり合うように一緒に変化を遂げることができたことは、私の人生の中で大きな存在であることは間違いありません。ディオールは、私をまるでファミリーの一員かのように感じさせれくれています。ディオールの素晴らしい職人の方々やリーダーの人たちと長年にわたり親交を深めることができ、今ではまるで自宅に戻るかのような感覚になります。
昔は、ファッションショーに行くとすごく圧倒されて、ちょっとたじろいでしまう自分がいたのですが、今はまるで旧友と久しぶりに会うような、いつも温かく迎えてくれて、私は特別だという風に思っています。
意識外のところにある香りの重要性
⎯⎯ナタリーさんにとって、香りをまとうこととは?
そうですね。香りはとにかく私にとって特別だということをお伝えしたいですね。例えるのであれば、”意識外”のところにあるというふうに思うんです。私たち人間はコミュニケーションの中で、見えるもの、あるいは耳で聞こえてくるもの、さらには触って感じるもの…とまず五感に重きを置いていますが、その中で、「匂い」という香ることだけは意識外のところにあります。なのでそれだけより力を持ち、「なぜこんなに香りに影響されるのだろう?」と思いながらも、それが分からないまま私たちは生きていると思います。香りは、人と人、人と場所、人と物のつながりの役割を担ったり、あるいは記憶を蘇らせたり…。
⎯⎯そこまで香りを深く意識したのはなぜですか?
エドヨン(Ed Yong)著書の動物が持つ感覚に関する本「An Immense World」を読んだときに、香りや匂いに特化した1章があったんです。生き物には、香りや匂いを感知する受容体が免疫系の中に含まれていると。だから人によっては、臭覚で病を匂いで判別できる人もいるという、それだけでとっても神秘的ですよね。私たち理解できないところとつながりを持っている、だからこそ香りが重要だと思っています。
初めてのフレグランスはジャン・レノからのプレゼント
⎯⎯香りについて、そもそものところに遡りますが、ナタリーさんが初めてフレグランスを使ったのはいつでしょうか?
実は私の最初のフレグランスは、映画「レオン(LEON)」を撮影していた時に、ジャン・レノ(Jean Reno)から「ケンゾー(KENZO)」のフレグランスをプレゼントしてもらったものです。葉っぱの形をしたフレグランスだったんですが、「私、大人になった!」と実感したのを覚えています。フレグランスの付け方は、母から教わったのですが頭の上にシューっと吹きかけて、そこを潜ります。あまりきつく香らないので、ルーティーン化しています。日中はミス ディオールのオードゥ パルファンを軽くつけ、特別なイベントがある夜などはしっかりつける。そんな感じです。
そういえば余談になりますが、展覧会の後に関係者の方々が集まった晩餐会があり、その時に2つの香りがとても印象的だったのですが、1つが何の香りが分からなくて…。
⎯⎯どんな香りでしたか?
分かっているのはバラの香りです。まるでグラースの、そこで3週間しか咲かないローズ ドゥ メ(センティフォリアローズ)を想起させるような香りが漂っていました。
そしてもう1つは、エントランス付近でインセンスのような香りがして。それが京都のお寺に行った時の記憶が蘇ったのですが、なんの香りなのか…。
日本の風物詩、蚊取り線香にも魅了される⁉︎
⎯⎯お線香っぽい香り?もしかしたら蚊取り線香ではないでしょうか?
蚊を取る⁉︎ あれが虫除けの香り!? 普段、使っている虫除けはスプレーで良い香りとは思ったことがなく、あの香りは本当に良い香りでした。いくつか買って帰らないと(笑)。
⎯⎯日本人はあの香りがすると「夏が来た」という気分になります(笑)。その他に、今回の日本滞在で記憶に残ったことはありますか?
藍染が好きで、それを見学することができて感動しましたし、おいしい食事や美しいバーにも心が躍りました。それからカラオケにも行ったんです。楽しかったです!
⎯⎯カラオケで何を歌われたんですか?
1曲目はバングルス(The Bangles)の「エターナル・フレーム(Eternal Flame)」を歌いました。その他にもたくさん歌いましたよ(笑)。
⎯⎯すごい! お聞きしたかったです(笑)。今回の来日では五感に響く出来事が多かったのですね。感情を揺さぶられると言えば、公開された映画「メイ・ディセンバー ゆれる真実」(原題:May December)も、いろいろと考えさせられる話題作です。
私が演じたのはある女優です。実在する事件、約20年前に未成年の男の子と不倫をし獄中で子どもを出産、出所後に結婚するという、不倫スキャンダル“メイ・ディセンバー事件”を起こした女性の物語をドラマ化するためにその女性を演じるという女優の役です。ストーリーは、私が演じる女優が、その女性を演じるために、リサーチを進めていく過程で、どんどん話は複雑になっていく…というもの。
テーマは、「アートとは、反モラル的な内容になれるかどうか」もしくは「誰かの人生を描く中で、その人と関わり、その人の人生を変えずしてその人を描写することはできるのかどうか、または常にその反対になるのかどうか」。
⎯⎯深いテーマですね…。今回の女優という役と、女優としての自分自身の間で、重なる部分があったら教えてください。
私が演じたエリザベスという女優は、決していい人とは言えません。そういったところとは重なってないことを願っているのですが、もちろん、彼女が行ったリサーチの内容、例えばその演じる人の人生を聞いてみたり、あるいは質問をしてみたりと、その人の側面を調べていくということは、重なることもあります。ただあくまでもそれは手順的なところであって、性格、人柄は重なっていないという風に私は思っています。
⎯⎯最後に、これからの世の中を担う子どもたちに、香りを知るということについて、さらには未来に向けたメッセージをお願いします。
そうですね、特に女の子、そして香りについていうと「あなた自身が何を望んでいて、どういう香りを自分のために身につけたいのか」ということです。小さい頃から女性に向けては、「こういう風に行動を取らないといけない」「周りのためにこういう風に身なりを整えなければいけない」「こういう香りは身につけてないといけない」といったメッセージが多い中で、そうではなく「あなた自身はどういう香りを身につけたいの?」か。それを踏まえて、「じゃああなた自身の望み通りに、どういう香りを身につけ、楽しむのか」ということをぜひ考えてほしいと思っています。香りだけではなく、全てのことにおいて「他人からどう望まれているのか」ではなく、「私は何を望むのか」、これが大切だと思います。
ディオールのヘリテージを知り尽くす人物に聞く、ミス ディオールにまつわる話
⎯⎯フレデリック・ブードゥリエ(FREDERIC BOURDELIER)さんはディオールでブランドの遺産を研究・管理をしているということですが、具体的にはどういったお仕事なのでしょうか?
私はジャーナリストの方々と同じように、ディオールという1946年の誕生から長い歴史を持つブランドのヘリテージ、過去への探究や真実を追求するための、“証拠”や“素材”を探して、それを照合し確かめるという仕事になります。
⎯⎯ミス ディオールの香りは、ブランドのヘリテージが詰め込まれた香りだと思います。フレデリックさんからみて、その唯一無二の魅力は何だと思いますか?
おっしゃる通りのミス ディオールは、クリスチャン ディオールの全ての歴史を体現しています。1947年に誕生以来、全ての歴史を網羅していると言っても過言ではないでしょう。ムッシュ ディオールが提唱した「女性に忠実であること」、それが唯一無二ではないでしょうか。つまり、エレガンスや女性さしさ、グラマラスでそして女性を大切にする価値観や喜び、さらにはクチュールにも通じるサヴォアファール。そのメッセージを発信し続けているのが、ミス ディオールなのです。
⎯⎯そこまで貴重であるミス ディオールを、常に時代にフィットさせ進化させていくのは怖いことでもあると思います。
ここまで長い間、その時代の女性たちを魅了し続けているのは、デザイナーやパフューマーの才能の賜物だと思います。これまでのミス ディオールを尊重しながらも、その中でアーティスティックなヴィジョンを持って進化させていくことが必要なんだと。そこには、ミス ディオールとパフューマーの“対話”があり、互いが共鳴し価値を高め合っている、そんな関係が築き上げられているから、時代とともに新たな、そして誰をも虜にするミス ディオールが生まれていると思います。
⎯⎯現在のディオール パフューム クリエイション ディレクター、フランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)とはどれぐらい対話を積み重ね、今回の「ミス ディオール パルファン」は誕生したのでしょうか?
クルジャンから多くの質問を受け、今もずっと続いているのです。まずディオールの歴史について、それからミス ディオールについて。アーカイヴも見せてほしいと言われ、細かいディテールに至るまで知りたいと考えてくれています。クルジャンの歴史やアーカイヴに対するアプローチは本当に素晴らしいものです。
⎯⎯ディオールの歴史を遡り、そして進化させてきたと思いますが、これまで一番心に響いたエピソードはありますか?
クルジャンがディオールの仲間なって2年の間、とにかく細かいところまで知りたいというリクエストが来ました。そのためわれわれも一生懸命調べるんですが、それによりまた新しい発見もあったんです。
1つは、ミス ディオールが「コロール(花の冠)」という名前だったということです。元々、コロールというコレクションラインがあったのですが、そこからフレグランスも名付けようとした。1947年の3〜4月に、このコロールという名称をフレグランスに使用するという、商標登録がされていたことが分かりました。ただそれは実際には使われず、6ヶ月後の1947年8月にはミス ディオールという名称で商標登録がされていたのですが、私も最近まで知らなかったことです。
⎯⎯なぜ変更されたのでしょうか?
コレクションラインのコロールは、あるジャーナリストが「まさにこれはニュールックね!」と言ったことから、「ニュールック」となった。だからフレグランスももっとモダンな名前、ミス ディオールになったのではないでしょうか。
⎯⎯ミス ディオールの誕生秘話にそんなエピソードがあるとは!
それから、もう1つ発見がありました。1947年の10、11月に発売になったフランスの雑誌に、「クリスマスにクリスチャン ディオールのフレグランスが発売になります」という広告が打たれていたのですが、そのフレグランスが複数形になっているんです。つまり、1つではなく2つ、2種類をローンチしようとしていたことがそこで分かりました。1つはミス ディオール、もう1つは「ディオラマ」という名前だったんですけれども、ディオラマは今ではヴィンテージ的な存在です。
ミス ディオールが70年以上続き成功を収めたのは、やはりクリスチャン ディオールというメゾンのあらゆる要素がここに詰まっている、1つの象徴だからだと思います。リボンや千鳥格子、さらには生きる喜びや若々しさといったものです。そういった価値観が全て詰まっていて今も受け継がれているのです。
⎯⎯ディオラマはその後、発売されたのでしょうか?
ミス ディオール発売の1年後にローンチされました。現在でも世界で2ヶ所、30 Montaigneとグランヴィルの博物館で販売されています。10年前の本の情報なので正確ではないかもですが、ディオラマはよりシックな女性に向けた香りとして、ミス ディオールは若い世代に向けた香りとして展開されたようで、もしかしたら母と娘に向けたフレグランスシリーズだったかもしれないですね。
⎯⎯ディオラマは今でも販売されているという、とても興味深いお話です。また1949年にミス ディオールというドレスも制作されています。このドレスが作られた背景や、ドレスに込められた想い、フレグランスとの関係について教えてください。
1949年のコレクションは3度目のコレクションで、だまし絵「トロンプルイユ」という名前がついています。細かい刺しゅうが施されているドレスですが、花束のように、また手入れの行き届いた庭園のようにも見えます。視覚的な錯覚を生じさせる効果を狙ったものですが、それは夢にもつながっていますし、非常にアーティスティックな美しいドレスだと思います。
実は、ミス ディオールという名のついたドレスは、その後にもたくさん出ているのです。ムッシュ ディオールはアーティストであり、素晴らしいクリエイターでもありましたが、マーケティングの人でもあったわけですね。ですから、このミス ディオールというドレスを発表することによって、フレグランスのミス ディオールも話題になる、そういう目的もありました。先見の眼を持っていて、それでいて企業家・実業家でもあったということです。ドレスとこのフレグランスが片足ずつ前に進むように、並行して前進しているわけです。それ以降もさまざまなデザイナーがミス ディオールのドレスを新しく解釈してクリエートしていますし、また、ナタリー・ポートマンが着用したものもあります。現クリエイティブディレクターのマリア・グラツィア・キウリのロゴにも採用されていますし、そうやって歴史が続いていることを、われわれは貴重だと思っています。
⎯⎯ディオールにとってナタリー・ポートマンはどういった存在でしょうか。
ナタリーのコミットする力やエネルギー、人柄、カリスマ性、人間としての価値観、人道的なプロジェクトの支援など、言葉での言い尽くせないほどの素晴らしい才能を持った人だと思います。そして特別なフレグランスであるミス ディオール、さらには特別なディオールというメゾン。この頂点の、3者の出会いが今につながっています。
ムッシュ ディオールは才能にあふれる強い女性に囲まれていた人でした。母のマドレーヌ、妹のカトリーヌ、ミューズとして知られるミッツァ・ブリカール…。そういう意味でも、ナタリーの存在は私たちにとても重要な意味があります。
ナタリーは、クルジャンとも定期的に会って話をしていますし、南仏に行ってローズガーデンも訪ねています。それからクチュール部門とも対話を重ねていますし。今回の日本での展覧会でたくさんの写真を撮ったり、彼女自身、そういった“会話”を常に大切にしている。ただ私が思うのは、これは広告のためのアンバサダーではないということです。本当の友人であり、メゾンの友人です。友人として話をしたりお互いに交流することは自然なことだと思います。
(編集・福崎明子)
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空間設計が印象的だったミス ディオール展覧会
⎯⎯展覧会「ミス ディオール 展覧会 Stories of a Miss ある女性の物語」に足を運ばれました。ミューズを務め長い年月をミス ディオールと過ごしていると思いますが、今回の展覧会はどんな思いで観られましたか?
まず空間設計が印象的で、五感が研ぎ澄まされるような感覚に導いてくれるものでした。例えばですが、円形の部屋は聖堂のチャペルのようで、中にいると外の音は全く聞こえず心が落ち着きましたし、一方でチュールがあしらわれた部屋はまるで母のスカートの下に隠れている子どもの頃に戻ったような、遊び心があふれる感覚になりましたし、触れてみたい、という感覚にもなりました。
⎯⎯「お母さんのスカートの下」とは、とても素敵な表現ですね。私もそんなことをしていたなと思い出しました(笑)。そのほかにも視覚だけでなく、嗅覚や聴覚にも訴えかけられる仕掛けがたくさんありました。
幾千もの花々の刺しゅうが施されたミス ディオール ドレスが飾られた部屋ではその美しさに魅了され、そして置かれていたオブジェから香ってきた、ジャスミンやチュベローズなどの香りを全身で浴びて、嗅覚Fを刺激されました。さらにはミス ディオールの歴史を巡る近未来的な螺旋状の道では視覚的に訴えかけてくるものがありました。そのほか、写真や絵画、コレクションに出された洋服や衣装がずらりと並んだ空間など、全身の感覚、五感が覚醒される展覧会だったと思います。
東京・六本木で開催された展覧会「ミス ディオール 展覧会 Stories of a Miss ある女性の物語」
Image by ディオール
ミス ディオールとは、一緒に進化する存在
⎯⎯長くミス ディオールのミューズを務めています。ナタリーさんにとってミスディオールとはどういった存在でしょうか。
ミス ディオールの“キャラクター”を長年演じてきたことで、このキャラクターの進化とともに、私自身の人生の変化と重なり合うように一緒に変化を遂げることができたことは、私の人生の中で大きな存在であることは間違いありません。ディオールは、私をまるでファミリーの一員かのように感じさせれくれています。ディオールの素晴らしい職人の方々やリーダーの人たちと長年にわたり親交を深めることができ、今ではまるで自宅に戻るかのような感覚になります。
昔は、ファッションショーに行くとすごく圧倒されて、ちょっとたじろいでしまう自分がいたのですが、今はまるで旧友と久しぶりに会うような、いつも温かく迎えてくれて、私は特別だという風に思っています。
意識外のところにある香りの重要性
⎯⎯ナタリーさんにとって、香りをまとうこととは?
そうですね。香りはとにかく私にとって特別だということをお伝えしたいですね。例えるのであれば、”意識外”のところにあるというふうに思うんです。私たち人間はコミュニケーションの中で、見えるもの、あるいは耳で聞こえてくるもの、さらには触って感じるもの…とまず五感に重きを置いていますが、その中で、「匂い」という香ることだけは意識外のところにあります。なのでそれだけより力を持ち、「なぜこんなに香りに影響されるのだろう?」と思いながらも、それが分からないまま私たちは生きていると思います。香りは、人と人、人と場所、人と物のつながりの役割を担ったり、あるいは記憶を蘇らせたり…。
⎯⎯そこまで香りを深く意識したのはなぜですか?
エドヨン(Ed Yong)著書の動物が持つ感覚に関する本「An Immense World」を読んだときに、香りや匂いに特化した1章があったんです。生き物には、香りや匂いを感知する受容体が免疫系の中に含まれていると。だから人によっては、臭覚で病を匂いで判別できる人もいるという、それだけでとっても神秘的ですよね。私たち理解できないところとつながりを持っている、だからこそ香りが重要だと思っています。
初めてのフレグランスはジャン・レノからのプレゼント
⎯⎯香りについて、そもそものところに遡りますが、ナタリーさんが初めてフレグランスを使ったのはいつでしょうか?
実は私の最初のフレグランスは、映画「レオン(LEON)」を撮影していた時に、ジャン・レノ(Jean Reno)から「ケンゾー(KENZO)」のフレグランスをプレゼントしてもらったものです。葉っぱの形をしたフレグランスだったんですが、「私、大人になった!」と実感したのを覚えています。フレグランスの付け方は、母から教わったのですが頭の上にシューっと吹きかけて、そこを潜ります。あまりきつく香らないので、ルーティーン化しています。日中はミス ディオールのオードゥ パルファンを軽くつけ、特別なイベントがある夜などはしっかりつける。そんな感じです。
そういえば余談になりますが、展覧会の後に関係者の方々が集まった晩餐会があり、その時に2つの香りがとても印象的だったのですが、1つが何の香りが分からなくて…。
⎯⎯どんな香りでしたか?
分かっているのはバラの香りです。まるでグラースの、そこで3週間しか咲かないローズ ドゥ メ(センティフォリアローズ)を想起させるような香りが漂っていました。
そしてもう1つは、エントランス付近でインセンスのような香りがして。それが京都のお寺に行った時の記憶が蘇ったのですが、なんの香りなのか…。
日本の風物詩、蚊取り線香にも魅了される⁉︎
⎯⎯お線香っぽい香り?もしかしたら蚊取り線香ではないでしょうか?
蚊を取る⁉︎ あれが虫除けの香り!? 普段、使っている虫除けはスプレーで良い香りとは思ったことがなく、あの香りは本当に良い香りでした。いくつか買って帰らないと(笑)。
⎯⎯日本人はあの香りがすると「夏が来た」という気分になります(笑)。その他に、今回の日本滞在で記憶に残ったことはありますか?
藍染が好きで、それを見学することができて感動しましたし、おいしい食事や美しいバーにも心が躍りました。それからカラオケにも行ったんです。楽しかったです!
⎯⎯カラオケで何を歌われたんですか?
1曲目はバングルス(The Bangles)の「エターナル・フレーム(Eternal Flame)」を歌いました。その他にもたくさん歌いましたよ(笑)。
⎯⎯すごい! お聞きしたかったです(笑)。今回の来日では五感に響く出来事が多かったのですね。感情を揺さぶられると言えば、公開された映画「メイ・ディセンバー ゆれる真実」(原題:May December)も、いろいろと考えさせられる話題作です。
私が演じたのはある女優です。実在する事件、約20年前に未成年の男の子と不倫をし獄中で子どもを出産、出所後に結婚するという、不倫スキャンダル“メイ・ディセンバー事件”を起こした女性の物語をドラマ化するためにその女性を演じるという女優の役です。ストーリーは、私が演じる女優が、その女性を演じるために、リサーチを進めていく過程で、どんどん話は複雑になっていく…というもの。
テーマは、「アートとは、反モラル的な内容になれるかどうか」もしくは「誰かの人生を描く中で、その人と関わり、その人の人生を変えずしてその人を描写することはできるのかどうか、または常にその反対になるのかどうか」。
⎯⎯深いテーマですね…。今回の女優という役と、女優としての自分自身の間で、重なる部分があったら教えてください。
私が演じたエリザベスという女優は、決していい人とは言えません。そういったところとは重なってないことを願っているのですが、もちろん、彼女が行ったリサーチの内容、例えばその演じる人の人生を聞いてみたり、あるいは質問をしてみたりと、その人の側面を調べていくということは、重なることもあります。ただあくまでもそれは手順的なところであって、性格、人柄は重なっていないという風に私は思っています。
⎯⎯最後に、これからの世の中を担う子どもたちに、香りを知るということについて、さらには未来に向けたメッセージをお願いします。
そうですね、特に女の子、そして香りについていうと「あなた自身が何を望んでいて、どういう香りを自分のために身につけたいのか」ということです。小さい頃から女性に向けては、「こういう風に行動を取らないといけない」「周りのためにこういう風に身なりを整えなければいけない」「こういう香りは身につけてないといけない」といったメッセージが多い中で、そうではなく「あなた自身はどういう香りを身につけたいの?」か。それを踏まえて、「じゃああなた自身の望み通りに、どういう香りを身につけ、楽しむのか」ということをぜひ考えてほしいと思っています。香りだけではなく、全てのことにおいて「他人からどう望まれているのか」ではなく、「私は何を望むのか」、これが大切だと思います。
ディオールのヘリテージを知り尽くす人物に聞く、ミス ディオールにまつわる話
⎯⎯フレデリック・ブードゥリエ(FREDERIC BOURDELIER)さんはディオールでブランドの遺産を研究・管理をしているということですが、具体的にはどういったお仕事なのでしょうか?
私はジャーナリストの方々と同じように、ディオールという1946年の誕生から長い歴史を持つブランドのヘリテージ、過去への探究や真実を追求するための、“証拠”や“素材”を探して、それを照合し確かめるという仕事になります。
⎯⎯ミス ディオールの香りは、ブランドのヘリテージが詰め込まれた香りだと思います。フレデリックさんからみて、その唯一無二の魅力は何だと思いますか?
おっしゃる通りのミス ディオールは、クリスチャン ディオールの全ての歴史を体現しています。1947年に誕生以来、全ての歴史を網羅していると言っても過言ではないでしょう。ムッシュ ディオールが提唱した「女性に忠実であること」、それが唯一無二ではないでしょうか。つまり、エレガンスや女性さしさ、グラマラスでそして女性を大切にする価値観や喜び、さらにはクチュールにも通じるサヴォアファール。そのメッセージを発信し続けているのが、ミス ディオールなのです。
⎯⎯そこまで貴重であるミス ディオールを、常に時代にフィットさせ進化させていくのは怖いことでもあると思います。
ここまで長い間、その時代の女性たちを魅了し続けているのは、デザイナーやパフューマーの才能の賜物だと思います。これまでのミス ディオールを尊重しながらも、その中でアーティスティックなヴィジョンを持って進化させていくことが必要なんだと。そこには、ミス ディオールとパフューマーの“対話”があり、互いが共鳴し価値を高め合っている、そんな関係が築き上げられているから、時代とともに新たな、そして誰をも虜にするミス ディオールが生まれていると思います。
⎯⎯現在のディオール パフューム クリエイション ディレクター、フランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)とはどれぐらい対話を積み重ね、今回の「ミス ディオール パルファン」は誕生したのでしょうか?
クルジャンから多くの質問を受け、今もずっと続いているのです。まずディオールの歴史について、それからミス ディオールについて。アーカイヴも見せてほしいと言われ、細かいディテールに至るまで知りたいと考えてくれています。クルジャンの歴史やアーカイヴに対するアプローチは本当に素晴らしいものです。
⎯⎯ディオールの歴史を遡り、そして進化させてきたと思いますが、これまで一番心に響いたエピソードはありますか?
クルジャンがディオールの仲間なって2年の間、とにかく細かいところまで知りたいというリクエストが来ました。そのためわれわれも一生懸命調べるんですが、それによりまた新しい発見もあったんです。
1つは、ミス ディオールが「コロール(花の冠)」という名前だったということです。元々、コロールというコレクションラインがあったのですが、そこからフレグランスも名付けようとした。1947年の3〜4月に、このコロールという名称をフレグランスに使用するという、商標登録がされていたことが分かりました。ただそれは実際には使われず、6ヶ月後の1947年8月にはミス ディオールという名称で商標登録がされていたのですが、私も最近まで知らなかったことです。
⎯⎯なぜ変更されたのでしょうか?
コレクションラインのコロールは、あるジャーナリストが「まさにこれはニュールックね!」と言ったことから、「ニュールック」となった。だからフレグランスももっとモダンな名前、ミス ディオールになったのではないでしょうか。
⎯⎯ミス ディオールの誕生秘話にそんなエピソードがあるとは!
それから、もう1つ発見がありました。1947年の10、11月に発売になったフランスの雑誌に、「クリスマスにクリスチャン ディオールのフレグランスが発売になります」という広告が打たれていたのですが、そのフレグランスが複数形になっているんです。つまり、1つではなく2つ、2種類をローンチしようとしていたことがそこで分かりました。1つはミス ディオール、もう1つは「ディオラマ」という名前だったんですけれども、ディオラマは今ではヴィンテージ的な存在です。
ミス ディオールが70年以上続き成功を収めたのは、やはりクリスチャン ディオールというメゾンのあらゆる要素がここに詰まっている、1つの象徴だからだと思います。リボンや千鳥格子、さらには生きる喜びや若々しさといったものです。そういった価値観が全て詰まっていて今も受け継がれているのです。
⎯⎯ディオラマはその後、発売されたのでしょうか?
ミス ディオール発売の1年後にローンチされました。現在でも世界で2ヶ所、30 Montaigneとグランヴィルの博物館で販売されています。10年前の本の情報なので正確ではないかもですが、ディオラマはよりシックな女性に向けた香りとして、ミス ディオールは若い世代に向けた香りとして展開されたようで、もしかしたら母と娘に向けたフレグランスシリーズだったかもしれないですね。
⎯⎯ディオラマは今でも販売されているという、とても興味深いお話です。また1949年にミス ディオールというドレスも制作されています。このドレスが作られた背景や、ドレスに込められた想い、フレグランスとの関係について教えてください。
1949年のコレクションは3度目のコレクションで、だまし絵「トロンプルイユ」という名前がついています。細かい刺しゅうが施されているドレスですが、花束のように、また手入れの行き届いた庭園のようにも見えます。視覚的な錯覚を生じさせる効果を狙ったものですが、それは夢にもつながっていますし、非常にアーティスティックな美しいドレスだと思います。
実は、ミス ディオールという名のついたドレスは、その後にもたくさん出ているのです。ムッシュ ディオールはアーティストであり、素晴らしいクリエイターでもありましたが、マーケティングの人でもあったわけですね。ですから、このミス ディオールというドレスを発表することによって、フレグランスのミス ディオールも話題になる、そういう目的もありました。先見の眼を持っていて、それでいて企業家・実業家でもあったということです。ドレスとこのフレグランスが片足ずつ前に進むように、並行して前進しているわけです。それ以降もさまざまなデザイナーがミス ディオールのドレスを新しく解釈してクリエートしていますし、また、ナタリー・ポートマンが着用したものもあります。現クリエイティブディレクターのマリア・グラツィア・キウリのロゴにも採用されていますし、そうやって歴史が続いていることを、われわれは貴重だと思っています。
⎯⎯ディオールにとってナタリー・ポートマンはどういった存在でしょうか。
ナタリーのコミットする力やエネルギー、人柄、カリスマ性、人間としての価値観、人道的なプロジェクトの支援など、言葉での言い尽くせないほどの素晴らしい才能を持った人だと思います。そして特別なフレグランスであるミス ディオール、さらには特別なディオールというメゾン。この頂点の、3者の出会いが今につながっています。
ムッシュ ディオールは才能にあふれる強い女性に囲まれていた人でした。母のマドレーヌ、妹のカトリーヌ、ミューズとして知られるミッツァ・ブリカール…。そういう意味でも、ナタリーの存在は私たちにとても重要な意味があります。
ナタリーは、クルジャンとも定期的に会って話をしていますし、南仏に行ってローズガーデンも訪ねています。それからクチュール部門とも対話を重ねていますし。今回の日本での展覧会でたくさんの写真を撮ったり、彼女自身、そういった“会話”を常に大切にしている。ただ私が思うのは、これは広告のためのアンバサダーではないということです。本当の友人であり、メゾンの友人です。友人として話をしたりお互いに交流することは自然なことだと思います。
(編集・福崎明子)
and integrate them seamlessly into the new content without adding new tags. Ensure the new content is fashion-related, written entirely in Japanese, and approximately 1500 words. Conclude with a “結論” section and a well-formatted “よくある質問” section. Avoid including an introduction or a note explaining the process.