世の中には“多才”という言葉が似合う人がいます。間違いなくそのひとりであろう弓削匠さん。本職は自身のブランド〈ユージュ(Yuge)〉のデザイナー。そのほか、アートディレクターとしての顔も持ち、草野球をやらせればホームランも打つ。そんないくつもの才があるなかで、6月9日(土)に東京・代々木上原にオープンさせたのはレコードブティック「アダルト オリエンテッド レコーズ(Adult Oriented Records)」。音楽狂でもある弓削さんが築いた音楽の城は、いったいどんな場所なのか。今後の展望も含め、お話を伺ってきました。
立ち上げの経緯はこう。「もともと、ここで〈ユージュ〉の服を売ってたんです。でも、テンション的に服を売る街じゃないなと気づいた。そのときに、服を売るためのレコード屋をつくりたいなと思って」。
続けて「僕が10代のときは空前の渋谷系ブームだったんです。当時はファッションも音楽も、文学すらも渋谷系に紐づいていた。それから25年以上経ちましたけど、いまだにあれを超えるうねりは訪れてない。だから、ぼくらの世代でそんなうねりをまたつくりたくて。その小さな第一歩がココをつくることだったんです」。
情報が氾濫し選択肢も多様化している現代社会で、ひとつのムーブメントをつくりだす難しさ。それも加味し発せられる言葉は、現実味を帯びた話に聞こました。
店内はというと、およそ2000枚のレコードと、グレーを基調とした什器、奥にはターンテーブルとミキサーが設置されています。
レコードの品揃えは、80年代のジャパニーズ シティポップを中心に幅広いジャンルが揃っていますが、最大の特徴はミュージックプロバイダーによるレコード。「ぼくが勝手にミュージックプロバイダーって呼んでるんですけど、簡単に言えば、親交のある人たちにお気に入りのレコードを選盤してもらって、販売しているんです」。
そのミュージックプロバイダーの面々が豪華なんです。田中知之さん(FPM)をはじめ、大瀧詠一さんのアルバムジャケットのイラストで知られる永井博さん、「ビームスレコーズ」ディレクター青野賢一さん、ceroの高城晶平さんなどなど。やはり顔がわかる人がセレクトしたレコードは、聞いてみたくなるものです。新しい音楽と出会う、いいきっかけにもなります。
音楽好きは気になっているかもしれませんが、店名の「Adult Oriented Records」。曲のジャンルであるAdult Oriented Rock(AOR)がインスピレーション元になっています。ただし「当時のAORを発信していきたいわけではなく、あくまで現代の大人目線の音楽を発信していきたい。この店を通して、新たなAORのイメージを広げていければ」とのこと。
また、同店の立ち上げと同時に音楽レーベルを立ち上げ、第一弾として販売したレコード「Night Flight Telephone Call / 一十三十一 feat. PUNPEE(Beef Remix)」は開店初日に完売したそう。これからも2ヶ月に1回のペースで、ここでしか買えない独占版をリリースしていくんだとか。次のリリースは8月。これもミュージシャンと親交が深い弓削さんだからこそできる技です。
今後はミュージックバーや飲食業など、発信できる場所をどんどん増やしていく予定。
大きなムーブメントが生まれるときは、目に見えない小さな火種から。その火種になりうる「アダルト オリエンテッド レコーズ」に是非遊びに行ってみてください。素敵なレコードはもちろん、きっと弓削さんの描く未来の一片を、感じとることができるはずです。
Text_Keisuke Kimura
Adult Oriented Records
住所:東京都渋谷区元代々木町10-7 代々木五月ビル102
電話:03-5738-2045
営業:14:00~21:00
www.instagram.com/adultorientedrecords
Source: フィナム