「今日着ているシャツも〈ポール・スミス〉。ちゃんとしたいときは手が伸びるブランドですね。胸元の刺繍もそうですが、ちゃんとしているのに遊び心がある。ぼくの作風に似ているというか」
4月下旬、『フイナム』編集部はエキシビション「KYOTO in KYOTO」に在廊中の本城さんを取材すべく一路京都へ。訪れたのは昭和初期の家屋を改装したショップ「ポール・スミス 三条店」。壁に作品を飾った、奥まった部屋で取材班を迎えてくれた本城さんは、まるでご自身の作品から抜け出してきたようなフェアリーな気配を漂わせている人でした。
「〈ポール・スミス〉で個展を開かせていただくのはロンドン、東京と続いて今回で3回目です。ぼくの作品をポールさんが気に入ってくれたのが事の始まりで、(初回は)せっかくだからロンドンを撮りおろしたいと提案したら二つ返事。ロケハンのアテンドもしてくれた。一言、愉快であたたかな人でした。スタッフの心の通ったもてなしにも感銘を受けました」
ご存じない方のために説明させていただくと、本城さんは煽りという撮影手法を応用し、東京の街並みを俯瞰撮影した『small planet』で木村伊兵衛賞を受賞した写真家です。実存する街を被写体にしているとはにわかには信じられない、ジオラマと見紛うその写真はどこかユーモラス。不思議の国に紛れ込んだような錯覚を覚えます。
「京都を舞台にした今展は7回に及ぶ空撮で撮りためたもので、2016年に発売した『京都/KYOTO 本城直季写真集』に収録した作品をメインに未発表だった京都御所と平等院を展示しています。この街のランドマークを四季折々の山や川とともに写真に収めました」
本城さんにとって京都はゆかりのある街。父方が京都でした。
「大学生になると休みがとれるたび遊びに来ました。仲間と車を出して。お金がないから野宿です。そのころは神社仏閣のよさなんてちっともわかりません。それでも、歩いているだけで楽しかった」
作品を焼き付けたのは、和紙。
「古都が主役のエキシビションですからね。竹和紙という和紙で、発色を保ちつつ、この街やぼくの作風にぴったりの雰囲気が出ました」
和紙を使うことでファンタジーなタッチがさらに強まっているような印象を受けますが、そもそも本城さんのスタイルはいかにして育まれたのでしょうか。
「母を亡くした中学生のぼくはその晩、どこに行くあてもなく自転車を走らせました。と、不思議な感覚に襲われた。ぼくを囲む建造物が異様に高く感じられて、迫ってくるようだった。とても現実のこととは思えなかった。ぼくらはつくりものの世界に暮らしている──これを写真で表現したいというのが現在の作風に繋がりました。文明批評のような冷ややかな眼差しもあったかも知れない。けれど一方で、人間の営みの底知れぬ力にただただ圧倒される自分もいた。ま、東京はさすがに自然回帰したほうがいいんじゃないかと感じることもありますけれど(笑)。果てしなく街が続きますからね」
その点でしっくり来たのが京都だそうです。
「これまでは高度に人工的な街を意識して撮ってきましたが、古い街にも興味がありましたから、それで京都を選びました。俯瞰して改めていい街だなと感じ入りました。自然に囲まれていて、すべてが手の届く範囲にまとまっている」
「とくに印象に残ったのは大文字焼きと比叡山。大文字焼きは当たり前ですが、ヘリから眺めても “大” と描かれている。比叡山はほんとうに山のなかにぽつんとある。ひっそりとある感じがよかった」
会期は5月13日まで。京都を訪れる予定があるならば、ぜひ足を伸ばしてみてください。脳が刺激されて最後はほっこりした気持ちになれる作品です。三条店からほど近い老舗酒場「京極スタンド」のご機嫌なおばちゃんも暖簾をくぐるあなたを待っていますよ。
Photo_Makiko Takemura
Text_Kei Takegawa
Edit_Ryo Muramatsu
“KYOTO in KYOTO” by Naoki Honjo
会期:〜5月13日(日)
場所:ポール・スミス三条店
住所:京都府京都市中京区三条通富小路東入中之町28番地
営業:11:00〜20:00 不定休
電話:075-212-2313
www.paulsmith.co.jp
Source: フィナム